第5話 武器(ペット)作成

 セーフハウスに戻った私は、早速作業に取り掛かった。


 自力で破壊した(ここ重要)モンスターの残骸を取り出し、手を翳す。

 それだけで、残骸は部品単位でバラバラになっていった。


“えっ、なにこのスキル怖い”

“アリスちゃん、それをモンスターに使えば無双出来るのでは……?”


「稼働中の機械相手だと、こんな風に簡単には分解出来ないの。ちょっと時間がかかるから、戦闘しながらは無理だよ」


 視聴者のみんなの疑問に答えながら、《ストレージ》から色々と工具を取り出す。

 小さな金槌、ドライバー、それに金属用のノコギリ。


 どれも、ダンジョンで獲れる金属を使って作った特注品だ。


“なんかすっごい普通の道具出てきたな”

“これで武器なんて作れるの?”


「うん、テュテレールの改造もこれでやったから」


“えっ”

“えっ”


「ふんふふんふふ~ん♪」


 みんなが驚いているのを余所に、私は早速作業を始める。


 鼻歌混じにノコギリの刃を当て、金属の部品を切り取って。

 金槌でトンテンカンとリズミカルに叩いて形を整えて。

 ドライバーでくるっと回して、部品同士をくっ付けて。


「はい、完成!」


 上手に出来ました!


“いやいやいや待って待って待って”

“何が起きてるのこれはw”

“なんとここまで僅か十五分である” 

“おかしいw”


「え? おかしいって何が?」


 完成品の出来映えをチェックしながら、私はこてんと首を傾げる。


 出来上がったものを一言で表現するなら、狙った場所にパンチが飛んでいくマジックハンドだ。


 機械バッタの足回りに使われているスプリングを強化して、同じく機械バッタのエネルギーコアを動力源として弾頭を射出、対象を破壊した後で素早く弾頭を巻き取って再装填する、弾数無限の小さな銃。


 私が持つ銃の部分に比べて、実際に飛んでいく拳……丸い金属塊がかなり大きいから、見た目がちょっとアンバランスなのが玉に瑕かな?


 我ながらいい出来だと思ったんだけど、何か変だったかな?


“ダンジョン産の金属とか、硬すぎて加工が大変だって言われてるのに”

“まるで粘土細工みたいにあっさり作ったな……”

“しかも、普通ならアルミの加工すら出来なさそうな小さい工具で”


「そういうスキルを持ってるからだよ。私と似たようなスキルを持った人っていないの?」


“いないことはないけど、ここまでじゃなかった”

“精々普通の金属くらいに加工が簡単になる程度”


「そうなんだ……?」


 私、物心ついてすぐダンジョン暮らしを始めて、今まで一度だって地上に出たことがなかったから、私のスキルが強いのか弱いのかなんて考えたこともなかった。


 このスキルのお陰でテュテレールと一緒に暮らしてこれたみたいなものだから、後悔とかもなかったけど……珍しいスキルだっていうなら、神様とかに感謝した方がいいのかな?


 祈る神様もいないんだけど。


「んー……よいしょっと!」


 セーフハウスの壁に向けて、作ったばかりの武器──《ロケットパンチ君》を発射する。


 放たれた金属塊が、すごい勢いで壁に激突し、対モンスター用に限界まで強度を引き上げたそれを一発で凹ませた。すごい威力。


 ただ、それを撃った衝撃で、私が後ろに吹っ飛ぶことまでは考えてなかった。


「わきゃっ!?」


『大丈夫か? アリス』


「う、うん、ありがとうテュテレール」


 壁にぶつかりそうになった私を、テュテレールが優しく受け止めてくれた。


 そのお陰で怪我もなかったけど……うーん、失敗かぁ。


「テュテレール、どうしたらいいかな?」


『発射と同時に、背後に向けてバックブラストを生じさせることで反動を相殺するのが最適と判断する。ただし、それを実現するのに必要なエネルギーは二倍に膨れ上がるため、銃身強度とエネルギーコア出力が上層素材では不足すると考えられる』


「うむむ、難しいなぁ」


 中層以降の素材で作ればいいって言っちゃえばそうなんだけど、今は手持ちがないんだよね。

 それに、私の我が儘のためにわざわざテュテレールを戦いに向かわせるのは、守られてるのと変わらないと思う。


 うーん、テュテレールなら、エネルギーコアの出力も体の強度も桁違いだから、縛りも何もなく色々出来るのになぁ。


 ……いっそ、テュテレールに使って貰おうかな? せっかく考えたアイデアだし。


「テュテレール、腕を飛ばせる機能とか付けてみない?」


『巻き取りに必要な時間が致命的な隙に繋がる可能性があるため、推奨されない』


「む~、それなら、いっそテュテレールが飛ばせる新しい腕を作るとか!」


『それよりも、アリスを守る自律行動ロボットの生産を推奨する。攻撃、防御、探索の全てを私一人で行うことは非効率。私の指示に即応可能なロボットを希望』


「あ、そっか。じゃあ、新しい子の機能にロケットパンチを付けよっか! テュテレールと合体とか出来たらカッコいいよね、ほら、この前見たアニメみたいに!」


『……合体は保留にして欲しい、アリス』


“あれ、アリスちゃんの武器を作るって話だったはずなのに、いつの間にかテュテレールを強化する話になってる?”

“強化の話から更に新しいロボ作る話になってるぞ”

“恐ろしく早い話の脱線、俺じゃなきゃ見逃しちゃったね”

“心なしかアリスちゃんも武器作りより活き活きしてる”

“縛りプレイより全力プレイが好きなタイプか”

“まあ実際、アリスちゃんが武器持つよりも、アリスちゃんを守るロボット作った方が絶対強いよな。スキル的に”

“それテュテレールで良くない?”

“だからこその合体よ”

“当のテュテレールは嫌そうだけどなw”


 みんなが何か言ってるけど、そんなことより私は目の前の作業に夢中だった。


 テュテレールの大きさを今以上にすると、ダンジョン内での活動と移動速度に制限がかかっちゃうところだったし、普段は別の機体として活動させて、場面に応じて合体するって良いアイデアだと思う。


「よし、こーして、あーして……」


 残る二体分の素材を使って、私は一体のロボットを作り出す。


 テュテレールみたいな人工知能は難しくて付けれないんだけど、せっかくだから名前も付けようかな。


 うーん、そうだなぁ……。


「よし、出来た! あなたの名前は《ポワン》だよ、よろしくね」


『────』


 拳をそのままロボットにしたような、大型犬サイズの上層探索用護衛ロボット。


 カチャカチャと動くその体を、私は新しいペットを迎えるような気持ちで撫でるのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る