青の境界 ~世界に六名しか存在しない特級異能者の一人、実力を隠し暗躍する~

蒼アオイ

第一章 二つに分かたれた世界で

雷電の生き残り

第1話 青の境界



   ◇◇◇




 ――二〇一七年二月十四日、南極に「奴ら」は突如姿を現した。


 正体不明、生態不明の「奴ら」は持ち前の殺戮能力と強靭な生命力で次々と人間を殺していき、北へ侵略してきた。対応しきれなかった各国軍隊は市民を守り切れず、瞬く間に人類の約64%が消滅。

 

 ――人類は絶滅の危機に瀕した。


「隠されていた戦闘技術」で「奴ら」と戦闘できるようにはなったが、後期には為す術なく蹴散らされ蹂躙されていった。

 このままではこの「北の地」もすぐ終わると考えた政府は北緯40度上に『境界』を築くことを決心。

 

 ――二〇一八年一月某日に政府はその境界の設立に成功。


 ダイヤモンドのごとき硬度を有し、決して壊れない青色の障壁を北緯40度に築き、「奴ら」に蹂躙、汚染されたアウターワールド(OW)と、進行されないよう境界で守られた安寧の地であるインナーワールド(IW)の二つに世界は分かたれた。



 その青く煌めく様子から――『青の境界』――と呼ばれ、世界に浸透していった。

 

 

 これが―――今現在の世界の歴史である。



 *



「結構な距離を歩いたか」


 独り言のつもりで呟くが。


『ええ、そうみたいですね』


 脳内に流れる透き通った美声。彼女はオレのサポート役のようなものだ。


 二〇二一年三月二十一日午後四時頃、場所にして旧秋田県大館市付近。

 三月という季節にそぐわず、紺色無地のマフラーを巻いているオレ、名瀬なせ統也とうやはポケットに手を突っ込みながら、静かで誰もいないような廃墟の町にただ一人、リュックを背負い歩いていた。 


「境界の内側とはいえ人の手が加わらなければ、たった三年でここまで廃墟化するのか……」

 

 新成「北日本国」

 旧岩手・旧秋田北部を横切る「青の境界」の影響で、日本国領土は北海道と少量面積の東北地方のみへと変貌してしまったため、人口密度の急激な増加に加え、地域産物の消滅による食料不足や一定産業の衰退など、数え切れないほどの社会問題を抱えていた。


『「ダークテリトリーの処遇」は社会問題の一つにもなっていますから』


 再びオレの独り言に反応する彼女―――Codename[K]。


「まあ、ここまで廃墟化していれば社会問題にもなるでしょうね」


 ダークテリトリーとはIWの都市開発の際、「奴ら」に破壊された人工物を再開発せず、そのまま野放した廃墟地域のことを指す。今オレがいる場所だ。

 境界外OWが人類のいない廃墟なのは無論だが、IWにも青の境界から直近で32㎞圏内は廃墟地域となっている。


 オレはその32㎞の間にまたがる廃墟の地で「青の境界」を背に一人、目的の再開発地(所謂IWの都市)に向かい歩いていたところだった。

 

 彼女にで先導されながら。


『次の大道路を右です』

「了解しました」


 まだ冬の寒さの余韻が残っており、さすがは東北地域などと考えていると夕日がそろそろ落ちそうになるのを体感。


 空気が湿ってきたな。もうすぐ雨が降るのか。天気予報にはそんなこと書いてなかった。

 いや、当たり前だ。オレは何を馬鹿なことを言っているのか。


 そんなくだらないことを考えていた時、


「―――?」


 オレは自分に向けられた微かな殺気を見逃さなかった。


「K、いったん同調通信チューニングを切っても構いませんか?」

『え、ええ……構いませんよ。ではまた後程、報告回収に来ますね』

「よろしく頼みます」


 うなじにある同調装置チューニレイダーを操作しつつ電源をオフる。


 殺意を向けられたことよりも、この立ち入り禁止の廃墟地に人がいることに驚いたが、意識を右斜め後ろの方向にいる敵に向けながら、ゆっくりと背負っていたリュックを下す。

 その時、リュックと硬い道路の地面がぶつかる音が鳴った。


 カツン――――。


 その瞬間、その音が合図であるかのように右斜め後ろから勢いよく敵が攻撃を仕掛けてくる。

 オレが立っていた場所。とんでもない爆発音とともに煙が立ち込める。

 爆発のような破壊力が高い、であたりは吹き飛ぶが、オレは間一髪その攻撃を避けることに成功する。


「あぶねっ」


 この時の爆風の拍子に服の右肩部分がスライスされたように切り裂かれる。

 すさまじい速さで煙幕から抜け出し、煙が尾を引く。両手を地面に付け体の速度を落とし、止める。

 軽く切り裂かれた右肩から血が少量出ていて、服やコートに滲んでいた。


「なんだこの速さ……只者じゃないな。あんた、誰だ?」

「“お前が知る必要はない”」


 そう答える音声は呪詛という能力でモザイクがかかっており、男女か、どんな年齢かさえ推定できなかった。


「……答える気はない、か。でも、オレを狙ってきたことだけは確かだな」


 ゆっくりと煙が晴れていき、煙が薄くなったところで敵の姿を視認できた。

 その姿は全身黒い外套、マントのようなもので覆われており、体格などを正確につかむことはできないことに加え、深いフードを被っていて顔は視認できない。

 

 身長はオレと同じくらい……ということは、170cm辺りか。


 そんなことを考えていると、煙が晴れる前にもう一度、今度はとんでもない速度でこちらに向かって槍のような武器を突き立ててくる。


「あっぶね……!」


 会話もまともにできそうにない。

 ビュンと風を切るような槍の剣筋に対し体を後ろにのけぞらせながら避け、その勢いでそのまま連続で二回バク転し、後退する。


 奴が使用する槍は近未来的なエフェクトに加え、円形を模した模様が何重にも描かれており、どこか機械的だった。メカニックな槍。


 あれは……オリジン武装……?

 何故なぜここにあの武具が? あり得ない。


「その武器、ここにあってはならない物だ。どこで手に入れた?」

「“さあ、な”」


 まあいい、捕まえて全て吐かせればいいだけ。


 オレは世界に六名しか存在しない特級異能者の一人。

 コイツ、それを知っててオレを襲ってきた? いやそんなはずは……。


「あんた、オレに勝てると思っているのか?」





―――――――――――


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


面白そう、続きが気になる、という方は☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいかぎりです。


作者のモチベーションの一つになりますのでよろしくお願いします。

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