青の境界 ~世界に六人しか存在しない特級異能者の一人、実力を隠し暗躍する~

蒼アオイ

第一章 二つに分かたれた世界で

雷電一族の生き残り 

第1話 青の境界



 *


 

 世界に、六人。


 その正体を知る者は、ほとんどいない。

 だが、その力を目にした者は、決して忘れない。


 たった一撃で都市を崩壊させ、軍隊すら無に帰す。

 その存在は、国家すら震撼させる脅威。


 人々はその存在を"特級異能者"と呼んだ。

 ――もっとも、その言葉を知る者すら、この世界にはいないが。


「結構な距離を歩いたか」

『ええ、そうみたいですね。疲れてません?』


 独り言のつもりで呟くが返答があった。

 脳内に流れる透き通った美声。彼女はオレのサポート役のような理解で良いだろう。

 Codename[K]と呼んでいる。


「問題ありません。足が棒になってもう歩けないだけです」

『問題大ありな気がするんですが……』

「[K]、冗談ですよ」


 二〇二一年、三月二十一日、午後四時頃。場所にして旧秋田県の大館市付近。

 季節にそぐわず、紺色無地のマフラーを巻いているオレ、名瀬なせ統也とうやはポケットに手を突っ込みながら、静かな廃墟の街にただ一人、リュックを背負い歩いていた。 


「境界の内側とはいえ人の手が加わらなければ、たった三年でここまで廃墟化するのか……」


 周囲を見渡し、呟く。


『旧岩手・秋田を横切る「青の境界」の影響で、日本領土は今や北海道と東北の一部だけ。人口密度の急激な増加に加え、地域産物の消滅による食料不足や一定産業の衰退など……数え切れない社会問題を抱えています』


 ――青の境界。

 それが、この世界を二つに分けた蒼き障壁の名だ。


 かつて「奴ら」が現れたことで、人類は滅亡の淵に立たされた。

 人類の64%が消滅し、北緯40度以南が放棄された。

 オレが今いるのは、その「生存圏」としてかろうじて残された領域。


 内容は知っている、というよりある種の常識だが黙って聞いた。


『この廃墟地の処遇もその中の一つ』

「まあ、だいぶ荒れてますしね」


 要は、「奴ら」に破壊された人工物を放置した廃墟地帯。

 今、オレがいる場所だ。

 境界の外が人類の住めない死地であるのは周知の事実。

 だが内側の一部も例外ではない。境界線から32km圏内は未だに廃墟が広がる。


 オレは青の境界を背に、再開発都市へと向かう。

 彼女のに導かれながら。


『次の大道路を右です』

「了解しました」


 まだ寒いな。さすがは東北地域、などと心の中で愚痴る間にも、日は傾きつつあった。

 空気が湿っている。もうすぐ雨か。――そんな予報、どこにもなかったはずだ。


 ……いや、当然か。オレは何を考えている。

 理解していたつもりだった。すべて受け入れたはずだった。

 だが、こうして些細な違和感に足を取られる。

 ――まだ、この状況に馴染めていない。ただ、それだけのことだ。

 そんな思考のさ中、


「―――?」


 オレは自分に向けられた微かな殺気を見逃さなかった。


「[K]、いったん同調通信チューニングを切っても構いませんか?」

『え、ええ……構いませんが、何かありました? と思うんですが』

「いえ、ゴキブリの話ではなくて、ハエが一匹いまして」

『よく分からないですが……了解しました。では後程、報告を回収しますね』

「お願いします」


 うなじにある「同調装置チューニレイダー」を操作し電源をオフにする。

 殺意を向けられたことよりも、この禁足地に人がいることに驚いたが、意識を右斜め後方にいる敵に向けながら、ゆっくりと背負っていたリュックをおろす。

 その時、リュックと硬い道路の地面がぶつかる音が鳴った。


 ―――カツン。


 その瞬間、その音が合図であったかのようにオレが立っていた地点で、激しい爆発とともに煙が立ち込める。

 パルス波のようなであたりは吹き飛ぶが、オレは間一髪それを避ける。


「やべっ」


 爆発の拍子に右肩が切り裂かれる。コートに血が滲んでいた。

 すさまじい速度で煙幕から抜け出し、両手を地面に付け体の速度を落とし、止める。


「なんだこの速さは……只者じゃないな。あんた――誰だ?」

「"お前が知る必要はない"」


 そう答える音声は「呪詛」という能力でモザイクがかかっており、男女か、どんな年齢かさえ分からない。


「……答える気はない、か。でも、オレを狙ってきたことだけは確かだな」


 煙が晴れていき、敵の姿を視認できた。

 全身黒い外套、マントのようなもので覆われており、体格などを正確につかむことはできないことに加え、深いフードを被っていて顔は視認できない。

 

 身長はオレと同じくらい……ということは、170cm辺りか。

 そんなことを考えていると、煙が晴れるや否や、疾風迅雷でこちらに向かって槍のような武器を突き立ててくる。


「あっぶね……!」


 会話もまともにできそうにない。

 ビュンと風を切るような槍の剣筋に対し、体を後ろにのけぞらせながら避け、そのまま二回バク転する。


 黒を基調とした奴の槍は、どこか未来的なデザインを持っている。

 槍の両端には鋭利な刃が備わり、先端部分には射出口らしきものがある。

 十中八九、何かを発射する設計だろう。


 柄の中央部には機械的な関節や可動部が見受けられ、状況に応じて変形や可動を行える構造となっているようだ。

 ただの槍ではない。異能と精密機械が融合したハイテクな戦闘装備であることが一目で分かる。


 あれは……間違いない。オリジン武装だ。

 だが何故ここに? あり得ない。


「その兵器はここにあってはならない。……どこで手に入れた?」

「"さあな。私を殺してから聞け"」

「死人がどうやって喋るんだ?」


 オレの正体を知っての奇襲……なら、目的は暗殺だが。

 不毛な思考はよそう。捕まえて、すべてを吐かせればいい。

 

「あんた、オレに勝てると思っているのか?」


 その瞬間、敵の口元がわずかに歪んだ。


「"フッ――なら、見せてやろう"」


 次の瞬間、オレの視界が真っ赤に染まった。





 ―――――――――――


 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

 面白そう、続きが気になる、という方は☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです。

 作者のモチベーションの一つになりますのでよろしくお願いします。


 質問やコメントが来ればすべてリプします。どんな内容でも返します(笑)

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