JK魔王(仮)

空途

プロローグ


魔王。


魔族を纏め、その上に君臨する王の中の王。


圧倒的な権力の象徴であり、それを名乗るにはそれ相応の実力が必要だ。


政治的なものも必要だが、一人ひとりが恐ろしいほどの力を持っている魔族には、それよりも単純な「武力」が重要視されている。


また、五十歳ぐらいの子供の魔族の「なりたい王様ランキング」五百年連続一位となっていて、全ての魔族の憧れでもあった。



しかし、少なからずとも魔王を良く思わないものもいる。


特に、今代の魔王を……





「ねぇ、じい。判子押すの疲れたから寝てきていい?」


「……まだ五枚しか押してないじゃないですか。頑張って下さい、魔王様」


「えー……」



あきらかに身長に対して大きすぎる椅子に座っている、魔王様と呼ばれた少女は、気怠そうに伸びをした。


彼女こそ第二十六代目『氷結の魔王』リイオス・コスアであった。



「それに、魔王様って呼ぶの辞めて。嫌だから」


「ですが……」



ピキッ


突如としてコスアの腕から冷気が発せられ、近くにあった花瓶の花が一瞬で凍った。


コスアは椅子からぴょんと降り、机越しに初老の男性──爺に笑顔で詰め寄る。



「ね?」


「……はぁ、お嬢様」


「うん」



コスアは満足したようで、また椅子に座ると、自身の頭の左右に一本ずつ生えている白みがかった透明な角を撫でた。


魔族の中でも随一の美しさのそれは、コスアの自慢でもあった。



「魔王って面倒だね」


「ま……お嬢様がそれを言ってはいけないのでは……?」


「うーん。だけど、こんなにすることがあるなんて思ってなかった」



机の上には、ただでさえ高い天井に届きそうな程の書類が積み重なっていた。


(これ全部に判子を押さないといけないなんて……)


コスアはげんなりした。



「し、しかし、前魔王も毎日こなしておられましたよ?」


「それは優秀だからでしょ?私は戦うしかできないもん」


「いえ、そんな訳ありません。お嬢様は……」



次代の魔王を決めるとき。

その際に魔王領の各地で起きた争いを平定して回っていた頃だったら、反応出来たかもしれない。


二人共緩み切っていて気付けなかった。



───刺客の存在に。



「フレイムショット!」


「なっ!?」



突如、天井から声がしたかと思うと、コスアは炎の弾丸で胸を貫かれた。



「うっ……」


「っ! シャドウ! ヒール、ヒール!」



胸を抑えてコスアは苦しそうに呻いた。すぐに爺は刺客を殺し、彼女に駆け寄って回復魔法をかけようとするが、傷は治らない。


それもそのはずで、先程のフレイムショットには、一時的に魔力を固定させる薬とともに放たれた物だからだ。


回復魔法の原理は、魔力で「代わり」を構築すること。自分の魔力でしか構築することは出来ないのだ。



魔族はちょっとしたことでは中々死なない。


腕を斬ろうが腹を抉ろうが自身の魔力で回復してしまう。


しかし、心臓にある魔力の源…魔核まかくを貫かれたのなら別だ。

魔力に頼って生きている魔族は、その器官が無くなると死んでしまう。


それに、氷しか使えないコスアにとって炎は一番の弱点でもあり、生き延びることは絶望的だった。



「お嬢様……っ!」


「じ、い……」



(死んじゃうんだ、私)


傷の痛みは麻痺して感じない。



「いいです……喋らないでください。おい! 誰か! おじょ…魔王様が刺客に襲われた!」



(爺…私は、大丈夫だよ)


そう声をかけようとするが口が動かず、代わりに血を吐いた。



「……っ! あれ・・をするしかないか……!」


コスアと爺とは血は繋がってないが、家族のいないコスアは祖父のように思っていた。

そんな爺をおいて死ぬのは気がかりだが……優秀だから何とかなるだろう。


そして、薄れゆく意識の中でこうも思った。


(来世もあるとしたら……もっと安全な、刺客もいないような世……界、に……)


そこで完全にコスア意識は途絶えた。


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こおり+あいす+す=りいおす・こすあ。

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