第13話じぇらしー 〜いちばんの幼馴染〜

 ーー硝子目線ーー


「硝子、起きた? 朝食とお弁当作っといたからな。 今日はイク男と学校いくから」


「イク男ー。 食堂ばっかりじゃ飽きるだろ? お弁当作ってきたぞ」


「イク男ってピーマン嫌いなんだな。 今度からは別のにするよ」


「イク男ー。 手つないで一緒に帰ろー」


 ……最近マサヒコとイク男くんが仲良しすぎる。

 というよりマサヒコがイク男くんを好きすぎる。


 そりゃマサヒコをピンチから救ってくれた時すごくカッコよかったらしいから(マサヒコから50回以上力説される)マサヒコが惚れちゃう(?)のもムリないのかも。


 マサヒコは一度好きになると、とことんまで好きになって相手の欠点とかも全く気にしなくなる(私がズボラでも小言を言うだけ)

 

 私の家で飼ってたシベリアンハスキーのセブルス(名前)のブラッシングはマサヒコが誰よりもやってくれてたし、セブルスが寿命で遠くに行っちゃった時のマサヒコは一週間ご飯が食べれなくなって救急車を呼ばれてた。


 だから、初めてできた男友達に入れこむのは当然なんだろうけど、けど。


「なんかモヤモヤする……」


「……?」


「あ……ごめん。 いっちゃんに言ったわけじゃないよ。 マサヒコとイク男くん最近仲いいなって」


 いっちゃんもちょうど帰る所だったから部活終わりの帰り道。

 ポロッと出てしまった言葉にいっちゃんが可愛らしく小首をかしげる。


「……。……、」


「ん? 『正彦に友達ができてよかった』……うん。 イク男くんも優しくていい人だよねー」


 いっちゃんみたいに思うのが普通なのかな?

 イク男くんはちょっと黒い噂も聞くけど、基本的には気さくで紳士だし……まぁ、いい男だよね。


 でも、なんだろう。

 マサヒコがああやって一直線になっちゃうと、なんだろうこの感覚。


「……?」


「『じぇらしー?』 あはは。 やだないっちゃん。 なんで男同士に嫉妬するのさ? そんなわけないよ、あははははは(ジトジトー)」


 予想外の事を言われて、動揺を隠すためになるべくカラッと笑ってみる。


「……」(少しだけ息を吐く)


「いっちゃん?」


 いっちゃんが私の手を握る。

 細くてしなやかな指が絡まって少し恥ずかしい気持ちがでる。


「……」(ニコッ)


(か、可愛い……!)


 全校男子の憧れ『高嶺の荊姫たかねのいばらひめ』。

 容姿は綺麗なのに可愛らしい印象の笑顔をみて心が浄化される。


「……、……。」


「『正彦の一番はいつもショウちゃんだったから寂しいのね』 そうかな? あの男この前私のスカート姿見ていっちゃんの方が似合うって言ったんだよ? 目の前で言うかな普通?」


「……〜〜!」


「隠してるけど、マサヒコ絶対にいっちゃんの顔がタイプなんだよ!」(注:そうです)


「〜〜〜〜!」


 ちょっとズルかったかな?

 いっちゃんに言われた内容が照れ臭くて無理やり話題をズラしちゃった。

 

「……!……」


「え? うーん、 まぁ興味は……あるかな?」


「……!!」


「いっちゃんがそこまで言うなら……」


 ウソ。

 本当はノリノリで試したい。


 イク男くんと私、どっちが大事なの? って。


 ーー正彦目線ーー


 時刻は午前6時15分。

 目覚まし時計の硝子の声は後で聞くとして、今日もお弁当三人分作らないと。


 硝子とイク男と俺の分だ。

 硝子は最近俺の弁当になんの感想も言わなくなってきたから、感想を言ってくれるイク男の弁当には気合いが入る。(硝子のも手は抜かんが)


 イク男はけっこう子供舌だからな。

 ハンバーグとか唐揚げとか入れときゃ喜ぶんだろうが、そうは問屋が正彦(?)

 少しばかり赤ワインを垂らして苦味のアレンジを加えてやらんとな。


 などと考えながらリビングに降りて台所を見て俺は腰を抜かす。


「はわ!はわわわわ!!!(し、硝子!)」


「あ、おはよーマサヒコ」

 

 硝子が俺より早く起きている事実に俺はビビっちまっていた。

 

「はわ!はわわわ!?(い、一体どうやって起きたんだ!?」


「普通に目覚ましかけてだよ(家族分のスマホアラームセット、目覚まし3台)」


「はわわわわ!いやぁ!いやああーーー!(し、しかも料理まで?)」


「(いやって何よ……)マサヒコにはいつもお世話になってるからたまにはと思ってね。 ほら腰抜かしてないで、コーヒーもあるからたまにはゆっくりしなよ」


 そういって腰が抜けて立てない俺の両手を引っ張って食卓に座らせる硝子。


「はい。 コーヒー、ブラックでいい?」


「あ、 りがとう」


 驚いてばかりいるのも悪いのでカップに注がれたコーヒーをすする。

 その瞬間俺はコーヒーを吐き出す。


「わ、汚いな! おいしくなかった?」


 俺が起きるより早く硝子が起きてるという事実に脳内フリーズを起こしていてまったく見えていなかった。


 硝子はエプロン姿なのにそのたわわは全く隠せず。

 上下下着姿にエプロンだけつけている新妻とか関係なく妻とは80歳になってもかくあるべきスタイル。

 まさしく『たわわ隠しても全く隠せず』(?)だ。


 ちなみにコーヒーはもちろん不味い。


 コーヒー豆をミルで挽く際に均等に引けなかったんだろうし、水の量も適量とは言えない。

 所々えぐみはあるし、味の薄い部分のある奇妙な認識をさせられるコーヒーだ。


 だけど、違う、そうじゃない。


「……硝子、 その格好は?」


「ああこれ? 最初はエプロンもつけてなかったから色々こぼしちゃって。 パジャマ脱いじゃったからエプロンだけ借りたよー」


「……硝子、 料理する時はちゃんと服を着なさい。 油はねたりして危ないから」


「えーだからエプロンつけてるじゃん」


「いいから! 俺はおじさんの大事な一人娘をキズモノ(油がはねた火傷とか)にするわけにはいかないんだよ!」


「大袈裟だなぁ。 マサヒコだったらキズモノにしてもお父さん怒らないどころか喜ぶと思うよ?」


「(ドッキーン!)女の子が軽々しくキズモノとかいうんじゃない!」


「だからキズモノの話をしたのはマサヒコの方だよ……」


 全く硝子はホントに危なっかしい。

 俺は淫紋の影響でとんでもなくエ◯くなっていて毎夜一人で捗りすぎて困ってるのは肌で感じてるはずなのに。(その時間部屋に来ないからバレてるんだろうなぁ)

 更に捗っちゃうんだけど。


「ねぇコーヒーはどう? 豆挽きからなんかやったの初めてだからちゃんとした味か気になる」


「(味なんかより着替えてくれよ)まぁ……そこそこだよ。 俺がカップ洗うの失敗したのかな? なんか鉄くさいぐらい」


「マサヒコさっきから鼻血がとめどもなくあふれてるからじゃない? シャワー浴びてきたら?」

  

 くすくすと年相応に笑うのにその下は新妻もびっくりな下着エプロンスタイルだ。

 ギャップの破壊力に身悶え続けるのも辛いので、言われた通り冷水でも浴びて気を落ち着かせる事にする。

 その前に。


「硝子! はいこれ!」


「何これ?」


「ジャージだよ! その状態で料理するのは危ないから絶対ダメ!」


「……(ぷくーっ)」


「何で不機嫌になるんだよ! とりあえずシャワー浴びてくるから着替えてくれよ! あとイク男の弁当作るから俺も後で台所入るからな!」


「むー!(ぷくぷくー)」


「なんで更に怒るんだよ!」


 ふくれっ面浮かべてもエ◯すぎる事は変わらないのでもう無視してシャワーを浴びる事にした。


 シャワーから出ると朝食と三人分の弁当ができていて、もう有無を言わせない感じだったのでありがたく頂く事にした。

 が、ジャージを着せたら着せたで「硝子が俺の服を……」ってなって結局エ◯かった。


 ーー硝子目線ーー


「イク男ー! 悪いけど今日は硝子も一緒でいい?」


 なんで私とお昼ご飯食べるのが悪いみたいになってるんだろう。


「正彦くん。 そんな言い方したら硝子ちゃんがかわいそうだぜ。 もちろんいいよ」


 イク男くんは優しい。

 マサヒコと違ってそれはそれはモテるんだろうなぁ。


「今日はマサヒコの代わりに私がお弁当作ってきたよ。 さ、 食べて食べてー」


「!!……ああ」


 あれ?

 なんだろう、今イク男くんの表情が一瞬曇ったような。

 

 中庭のベンチを借りて食事をしていてもマサヒコはイク男くんにベッタリだ。


「イク男は副会長と付き合うのか?」


「いや……特にそういう感じじゃないと思うぜ? 入玲先輩みたいな人は正彦くんが合うと思うし」


「俺ぇ? そんな感じあったかぁ?」


「ああいう人は真面目なのに一筋縄じゃいかない正彦くんみたいな奴が気になって仕方ないんだよ。 実際女の子には全然なびかないんもんな」


「おいおいイク男。 誰がエクスカリバー誰も抜けない聖剣だよ。 俺だって女になびきたい時ぐらいある」


「はっ! そのまま錆びつかないといいな……と悪い、食事中にする話でもないな」


 イク男くんも最初は気を使って私に話しかけてきてくれてたのにマサヒコがぐいぐい話しかけるのに押し切られて、最終的には二人とも楽しんでる感じだ。


 暇だ。

 二人ともなんとなく下世話な話をしているのはわかるけど、男同士にしかわからないノリっぽくて無理に合わせる気にもなれない。


 このままではイク男くんと私どっちが大事か聞くまでもなく私の完敗だ。

 なんとかして話題に入らないと。


「イク男くん……私が作った唐揚げ、 どう?」


「ん……美味いぜ。 硝子ちゃん料理も上手なんて引く手数多だろ? 正彦くんなんかに構ってないでいればいいのに」


「おいおいイク男、だから誰がエクスカリバー誰も抜けない……」


「ぶはっ! しつけーって。 ウケないと笑うまでずっとやるんだもんなー」


 だめだ。

 話題を振っても最後にはなぜか、ゲラゲラと二人で笑いあってる。


 いや、負けない。

 マサヒコになんか。


「イク男くん……私とマサヒコのお弁当どっちがおいしかった?」


「!……」


 まただ!

 さっき一瞬曇ったように見えた表情を今は確実に浮かべた。


「硝子ちゃん……硝子ちゃんのお弁当めちゃくちゃ美味かったよ。 でもね」


 美味かった。

 確実な前置きを置きながら返答してくるイク男くん。

 つまりーー


「正彦くんは俺の嗜好を会話から聞き出して俺の好きな味を理解した上でなんか一癖入れてくるんだよ! なんかそのアレンジが独特なのに気になって気になって! 俺は……俺は最近正彦くんのお弁当が楽しみで仕方なかったんだ! だから……」


 しっかりと会話に溜めを作るイク男くん。

 普通にムカつくんだけど。


「俺は……正彦くんのお弁当が食べれないと知って……ガッカリした……」

 

「イク男……そこまで俺の弁当を……」


 だ、だめだ。

 なんか付き合いたてのカップルみたいに何を話しても惚気てくる。


 かくなる上は!


「イク男くん! マサヒコクイズで勝負だよ!」


「マサヒコクイズ?」


「そう! どっちがマサヒコを深く理解してるか勝負だよ!」


「まぁ。 いいけど」


 かかったねイク男くん!

 私達は幼馴染でしかも超仲良し!


 どう考えてもこの勝負は私に分がある。

 見てなさいマサヒコ。

 愛する男(?)が負けゆく様を!

 

 ーーマサヒコクイズ、硝子目線ーー


「出題は俺でいいのか?」


「そりゃマサヒコが解答者にはなれないでしょ」


「それもそうだな。 じゃあ俺がいま一番好きな食べ物で」


 超かんたん!

 誰が間違えるのよこんな問題。

 あっごめーん付き合いの短いイク男くんにはちょっと難しいかなー。

 まだ早かったかなー?


「硝子……心の声漏れてるぞ……イク男も気にしなくていいからな。 じゃ。 せーの」


「ラーメン!」

「ステーキ」


 ぷー!

 言うにこと書いてステーキ!

 ステーキですって!

 そんな金マサヒコにある訳ないじゃん!

 マサヒコは生粋の味噌ラーメン派なのに!

 死ぬ前に私と食べる料理はラーメンって決めてるくらいなんだから!

 あーあこれだから幼馴染じゃない人は……


「硝子ー。 心の声漏れてるからなーっていうか普通に喋ってるからなー。 とりあえず正解はステーキだ」


 ?

 ??

 ん?


「おお。 やっぱり俺が焼いたA5肉美味かっただろ? いま好きな食べ物はこれかなーって思った」


「いやーマジであんな美味いもん初めて食ったよ。 死ぬ前はあの肉食ってから死にたいわ」


「不正だよ! そんな精肉店のブランドを使ってまで幼馴染の嗜好を変えるなんて! そこまでして勝ちたいのイク男くん!?」


「いや……生まれた頃から一緒にいるのに普通に負けるなよ硝子……」


「もう一問だよ! こんな不正まみれの問題でマサヒコの何がわかるの!?」


「硝子が俺のこと何もわかってない事はわかったぞー」


 その後も問題を続けたらイク男くんと結構いい勝負だったーー


 ーー放課後帰り道、硝子目線ーー


「硝子ー。 まだ怒ってるのかー?」


 帰り道一緒だけどあえて距離を取って歩く。

 

「マサヒコはイク男くんと手つないで帰ればいいじゃん」


 頬を膨らませながら返答してみる。


 第一なんで二人とも当たり前のように手つないで帰ってるんだろ?

 そういう多様性に寛容な時代なのは知ってるけど、こいつら堂々としすぎなんだよね。


「別に本気で付き合ってる訳じゃないぜ? 男同士のギャグの延長みたいな感じというか」


「それだよ!」


 付き合ってすらいないのかよ!

 だったら余計にイラつくよ。


「なんだ硝子。 俺みたいな話しかたして。 どれだよ?」


「男同士ってやつ! ずるい!」


「んー?」


「マサヒコ私が迫るとすぐ逃げるのに、イク男くんの場合は迫られてもオーケーなんでしょ!?」


「硝子……お前俺の事本気でそっちサイドの人間だと……だから最近やたら下着でウロつくのか。 安心しきってたんだな……」


 また変な勘違いが始まっちゃった。

 でももう何でもいい。


「ん!」


 マサヒコの前に手を差しだす。

 その手の意味を図りかねているのかマサヒコは眉をひそめながら首をかしげる。


「ん!」


「どうしたのショーちゃん。 お菓子なら今は持ってないよ?」


「違うよ! 手つないで帰るよ!」


「ええ! やだよ! 学校のみんなにそういう関係だと思われちゃうじゃん!」


「マサヒコとイク男くんはもう学校のみんなにそういう関係だと思われてるよ!」


「えぇ……まいったな……」


 そう言いながら口角と目尻が上がってる。

 なんで嬉しそうなんだよ。


「いいから! ん!」


 もう押し問答続けるのも疲れたよ。

 とにかく今は安心したいの。


 意地でも手をつなごうと差し出す私をみてついにマサヒコが折れる。


「はぁ……ショーちゃんはいつまでたっても子供だな」


 同い年だろ。

 しょうがないじゃん。

 マサヒコが悪い。


 肩を落として諦めた表情を浮かべながら私の手を取るマサヒコ。

 

 子供の頃はよくこうして一緒に家に帰った。

 いつからかしなくなったし、できなくなった。

 

 いつもは私の身体に対してドキドキして欲しいのに、今日は子供の頃みたいに当たり前のように手をつないでくれるのが嬉しい。


「嬉しそうだね。 ショーちゃん」


「ふふん。 やっぱり私がいちばん?」


「そうだね。 でも最近はイク男も好きだよ」


 相変わらずウソのない男だ。

 結局だれが一番かなんてわからなかったけど、マサヒコが私を大好きなのを再確認したからもういいや。


 ーー劣情バトル戦績ーー


vs早生硝子  2勝0敗

 勝因 硝子がもういいやってなったため

vs高嶺茨   0勝2敗

vs戸成燐火  0勝2敗

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