第11話 有能令嬢は、息をする

「「「わあー」」」

 メンバーの女生徒たちが、わたしのドレスアップした姿に感嘆の声を出してくれた。

「ありがとうございます」

 素直に笑うことができた。

「アイスグリーンのドレスが、黒髪のロングヘアーにとてもにあってますわー!」

 この国では、グリーンが国の色になっていて、今日はメンバーたちは、緑をあしらった礼装をしている。今日は、エスコートのペアを作って、ゾーリュックと、ペアを変えて踊ったり、話をしたり、食事をとるというものだ。


「今日は、頑張りましょうね」

 わたしは、自然と言葉が出てきた。

「ええ、もちろん」

「素敵な殿方はいるかしら」

「こら、なにをいうの」


「ふふ」

 わたしは、笑顔になっていた。

「ティアさん、今日はよろしく」

 アリスラン……と、アロイヴが、現れた。

「すごい、元からきれいだけど、今日はすごいね!」

 アリスランが、また、表面だけ満面の笑みを浮かべている。

「ごめんって。でも、そうでしょ?」

「ぼっ……ぼくは……」

「……変ですか?」

 さすがに不安になる。

「そんなことない、きれいだ!」

 周りがびっくりしている。

「遊び過ぎたね、ごめん」

 アロイヴは、やりすぎたと反省しているが……

「ありがとうございます、殿下も、お似合いですわ」

 わたしは、また、にっこりと笑えた。

「うん……」

 アリスランも、笑ってくれた。

「じゃあ、行こうか」

 わたしのパートナーはアリスランだ。


◇◇



「ティア、ドレス似合っていないか……?」

「やっぱり、美少女だっていわれてただけあるな」


 ホールの上の閲覧席の生徒たちは、ざわざわしていた。その中で、カロリーヌは、おもしろくない顔をしないようにするので必死だった。


(絶対に、この後、あやまらせた時に、わたしが、上だって認めさせるんだから……)

「なにか、失敗しないか心配ですわ」

「まあ、カロリーヌ様はやっぱりおやさしいですわ」

「本当に慈悲深いお方ですわ」

「そんなことないですわよ」

 カロリーヌは取り巻きのいうことを聞きながら、隣にいるフレデリクをちらりと見た。連れてこさせたのだ。

「ティア……」

 何か言ったようだったが、音楽で聞こえなかった。しかし、この男がいれば、わたしは上になれる。謝らせるときは、隣に、この男も連れて行こう。


◇◇


 パーティー会場に出る。ゾーリュックの生徒たちも、ホールにいる。今は乾杯のドリンクが配られている。

「怒られるとか、考えなくていいからね、そんなこと考えなくていいくらい、君は」

 飲み物をわたしに手渡す。

「誠実な人だから、きっと、それは相手に伝わる」

「ありがとうございます」

 わたしは、ほほえむことができた。アリスランは、中央に立って挨拶をはじめる。

「本日は、遠いところから、お越しいただき、誠にありがとうございます。両国の繁栄を願って、乾杯」

 出席者たちが、みなグラスに口をつけ、そして拍手をする。

「皆様、本日はお楽しみください。生徒たちも、楽団も、ゾーリュックのダンスや楽曲を学んでおります」

 そういって、アリスランは、会釈し、中心から離れる。楽団は音楽をはじめる。

「じゃあ、行こうか」

 こちらに来たアリスランに連れられて、一番豪勢な服装のゾーリュックのペアのところに行く。わたしと、アリスランは決まったお辞儀をする。

「本日は、よろしくお願いします。わたしは、第一王子、アリスラン、こちらは、男爵令嬢のティアといいます」

 アリスランが挨拶をする。相手の男子生徒は、金髪でカスミ色の目をしている。隣の女生徒も、金髪で青色の目をしている。わたしは、笑顔が硬くないか気にしていた。

「わたしはゾーリュックの第二王子リードアです、一曲願えますか?」

 優美なふるまいだった。

「喜んで」

 わたしも、ほほえんで応えた。

(今が、一番自然でいられている気がする。あまりにも、非日常なのに)

 ゆったりめの曲が流れる。

「ふふ、他国に来て、自国の曲をおどるなんて、不思議だ」

 リードアは、笑う。気さくな人なのかもしれない。

「ふふ、メンバー一同、懸命に練習しましたのよ。それに……」

 出過ぎたことを、言ったことにならないだろうか?相手の文化だっていろいろある。

「どうされたのですか?」

「それに、実際におどってみて、そして、曲を聞いてみて、教科書では分からないものを知ることができたと思うんですの」

 リードアは嬉しそうな顔をした。

「わたしも、こうやってくる中で、街道や建物や食べ物をとおして、同じことを思っていました」

「恐れ入りますわ」

 気づくと曲も終わっていた。

「また、お話ししましょう」

 リードアは、嬉しそうに、パートナーと去っていった。

「ティア、すごいね。どうやってあんなに打ち解けたの?」

 アリスランは、びっくりしたように話す。

「ふふ、誠実に、ふるまっただけ……かもしれませんわ」

「そうか」

 アリスランは笑った。


◇◇


「パーティーも、惜しいですが、お時間となりました」

 残念そうにアリスランは、また、ダンスホールの中心で言う。

「わたしは、人と人が手を取りあうことは素晴らしいことです。しかし、手をつないだままでは、他のことはできません。ですから、やはり、こうやって、手を取り合ったという事実がまず大事なのではないかと思います。今日のことが、未来の礎になりますように、願います、ありがとうございました」

 リードアと握手して、パーティーは終わった。

(未来の礎……か)

「みごとな演説でしたわ。……殿下が考えられましたの?」

「ああ、そうだよ。決めてあったんだけど、きみと、リードア様を見て思って変えたんだ」

「まあ」

 嬉しくて、体温が上がった。

(手をつないだままでは、他のことはできない)

「ティア、今日、君を送らせてくれないか?……話したいことがあるんだ」

 こっそりとアリスランはわたしの耳元で話した。きっと嬉しい話だと思う。嬉しい。

「分かりましたわ。ただ、少々お待ちいただくことになりますわ」


 ……まだ、やることが残っている。

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