第15話 情報収集第三PHASE 偽造作戦――緊張
さよにリードされる形で近くの喫茶店へと入店する。
お店の雰囲気は全体的に落ち着いていて、平日の朝ということもあって人が少ない。
全体的に落ち着いた印象を受けるも、メニューの方はしっかりと用意されているので、俺はモーニングセットを頼んだ。どうやらさよはお店のオリジナルブランド珈琲だけのようだ。
早速カウンターで注文をして二人用のテーブルに向かい合って座る。
「刹那様朝はしっかりと食べるのですか?」
「う~ん、正直気が向いたら食べますし、気が向かなかったら食べないことが多いのでその日の気分次第ですかね」
「全く食べないよりかは全然いいと思いますよ。私は毎日早起きして食べる人間です」
ちょっとずつだが、さよと言う人間をわかってきた気がした。
「一つ聞いてもいいですか?」
「なんですか?」
「念のため聞いておきますが、本当に巻き込んでしまって大丈夫だったんですか?」
「と、言いますと?」
「いや、なんか、唯さんの手前仕方なく了承したのかな、と思いまして」
「ふふっ、それはそうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません」
最後は笑って誤魔化されてしまった。
どうやら俺の意地悪な質問には答える気がないみたいだ。
あわよくば今回こちらに協力したさよの狙いを聞こうと思ったのだが、どうやら勘が鋭いらしい。
無理に聞いたところで答えてはくれなさそうなので、それは別の機会に聞くとしよう。
「お待たせしましたー! オリジナル珈琲お一つ! モーニングセットお一つです!」
店員さんが先ほど注文した商品を持ってきたのでまずは朝食を頂くとする。
小さいクロワッサン二つ、ベーコンエッグ、ドレッシングサラダSサイズ、珈琲Mサイズ、これが先ほど頼んだモーニングセットの内訳である。
――。
――――。
美味しくモーニングセットを頂いた俺は珈琲を味わって飲んでいる。
「たまにはこうして異性の方と朝の時間を過ごすというのも悪くありませんね」
素敵な笑顔を向けてそんなことを言ってくるさよに俺の心臓が不覚にもドキッとしてしまう。
理性がこれも演技だと判断するも、本当はこれがさよの本心だと甘い誘惑をしてきた結果である。我ながら単純な性格だな、と思う。
「俺もそう思います」
「では朝ご飯も食べましたし、今度はショッピングモールにでも行ってみませんか?」
「わかりました。何か買いたい物でもあるんですか?」
「せっかくですので、二人で共有の物が欲しいな~、と思いまして」
そう言ってさよは紙ペーパを一枚俺に差し出してきた。
「口元に珈琲付いていますよ」
それを受け取った俺はすぐにさよの意図に気付いた。
俺が朝ご飯を食べている間に来た二人組の男性客が怪しいと書いてあったからだ。
そのまま口元を拭くふりをして、男たちの方を見て顔を確認しておく。
すると窓の外に唯がいるのも見えた。
唯の視線の先には俺とさよ、そして二人の男。
間違い、こいつらが俺たちの尾行をしている奴らだと気付いた。
だけど俺たちの真の狙いはコイツ等じゃない。
コイツ等を使って龍一、そして野田家本家の二人である。
ここは湧き上がる怒りを我慢して泳がせておくことにする。
「ありがとうございます。では行きましょうか」
「そうですね。同棲する前に必要な物は揃えておきたいですし!」
少し声を張り上げたさよに俺はやっぱり演技とは言えやると決めたら、とことんやる人間なのだと理解した。
それにしても同棲って幾ら何でも早すぎないか? と思ったがそれは奇遇だったらしい。男たちだけでなく、お店の中に居た他のお客さんたちも驚いたのかこちらを見てきたからだ。
ついぞ忘れていたが福井さよはサルビア街を代表するサルビアホテルの副支配人。
その存在を知らない人間は数少ない。
つまるところ、同棲という言葉は案外効果抜群という結論が俺の脳内で導き出された。
「たしかに、まずは物を揃えないと不便ですもんね!」
俺は席を立ち上がりながら、さよの言葉に便乗する。
ここまで向こうが乗り気ならこっちだって恥ずかしがってばかりいられない。
ここは男らしくどんっと構えて置きたいところでもある。
下手な演技はすぐに見抜かれ、相手に警戒をさせることになるが、堂々とした演技は上手い下手問わず敵を惑わすのには有効的だと思うし、少なくともマイナスにはならないはずだ。
そして、さよと一緒にお店を出た俺はサルビア街の南西にあるカモミールモールへと足を運ぶ。
道中しっかりと繋がれた手を通して俺がまたしても緊張していることを見抜いたさよは「あら? まだ緊張しているんですか? 相変わらず初心で可愛いですね」と俺を茶化してきたが、恋人繋ぎをしているため逃げることも、誤魔化すこともできなかった。
そんなこんなで俺の体温は常にいつもより高い。
それは尾行されていることをつい忘れてしまうぐらい脳へ支障を与える。
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