第6話 最終試験Ⅱ

「ここは…」

 まだ目の前がぼやけてあまり分からないがほかの人影も見える。僕だけでが眠ってしまった訳ではなさそうだ。とりあえず朧気な記憶を整理する。


「皆さんには、今から特別試験を行っていただきます。私が試験の進行を務めさせていただく、クロウデェン・セラアルケミナです。機密保持の関係で眠らせていただきしたが外的影響はないのでご安心ください」

 どうやら僕たちは試験会場に移動させられたらしい。改めて会場を見渡すとそこは、まるで僕たちが見た塔の内部みたいだった。

 前回入った時は暗くてあまり見えて居なかったがレンガが折り重なった景観に要所要所近代のテクノロジーで作ったであろう物が見受けられる。

 クロウデェン..金髪で胸がでかい女性。じゃなくて、、確かルージから聞いた話に出ていた女性なのか?何か秘密を知っていそうだ



「まずここに来られるのは塔の壁を壊した方以外の皆さんは、初めてだと思うのでご説明させていただきますと、塔の内部。15階です」

 15...僕らが来たのは10階だ。まだ上はあるにしても秘密の多そうなこの場所を使うのは少し疑問が残る 

「ルージ君。確かあなたが来たのは10階だったかしら?」

「なっ、何のことですか…僕は知りませんよ。もし仮にまんがいち知っていたとしても寝ぼけて迷い込んだだけじゃないですか?」

 なぜ知っているのか分からないがルージが動揺しながらも答えた。寝ぼけてって、これがだったのかなルージ…状況は一気に悪い方向へ傾くと思われたが


「そうですか。あなたが私たちの会話を盗み聞きしていたのでてっきり犯人かと思ったのですが違うなら問題ないですね」

 どうやら不問にしてくれるようだ。なんてのんきには考えれないバレている確証を提示したうえで泳がせている...そんなところだろうか。あの場所が見られれも構わない

 つかみどころのない落ち着いた様子だった


「改めて試験の説明にうつらさせていただきます。あなた達にはこれより協力して【牛】を狩ってもらいます」

「牛 !?」

 声が響く...確かに最終試験で牛狩りは想定するはずもないことだった

「牛といっても普通の牛ではありませんが、、狩る牛の数は全部で十頭。3人チームを組んで貰い1チーム一頭ずつの争奪戦になります。今この場にいるのが60人、丁度20チーム組める計算です。そのなかでの10チームが特別試験合格となります」 

「ちょっと待ってくれ...つまり狩れなかった奴はどうなる。それに筆記試験の結果は関係ないのか??」

 真っ先に質問をする彼は確かアルマー君だ。話したことはないが頭はいいがあまり運動が得意では無い印象の子だ


「筆記試験の結果についてですが結果事にポイントが渡されます。そのポイントを使い牛を倒す道具や防壁を買ってもらいます。またポイントですが他人への譲渡が可能になります。仲間同士は勿論他チームへの受け渡しも可能です。但しポイントが0になれば死にます。また【チームメンバーが死んでしまった場合のみ同意なしでの他メンバーに受け渡しがなされます。チームが全滅した場合は消失、もしくは全滅させたチームにポイントが入る仕組みです】10チームになるまで、つまり30人が死ぬか牛を十頭狩るまで試験は続きます」

「死ぬ?」

 僕らの中でどよめきが起こる。想像以上に絶望的な試験だ...次のキャリアはおろかここで死ぬ可能性もあるなんて。そんなことがあっていいのだろうか

「もし牛を十頭狩ってしまったら残った人たちはどうなるのですか?」

 イヤーナ君だ。こんなときも冷静に湧いた疑問を解消しようとしてる...本当にすごいライバルだ。


「始まればわかることですがそれは不可能に近いことです。ですがその時は脱落者の方も命の安全は保証します。また、複数のチームが狩りを成功させ残っているチームの人数含め10チームになった場合にも試験は終了になります。ポイントについてですが視界の右上に表示されているものが筆記試験を基にしたポイントになります」


 ソラ  【30pt】

 言われて初めて気づいたがまるで画面を見ているかのように頭上付近に文字が浮かんでいる。視界がぼやけていたのはこのせいだったのだろうか...一応辺りを見回して他の子のポイントとが見えるか調べる。 

 セルシオ 【20pt】 ルージ【6pt】 イヤーナ【28pt】 アルマー【24pt】

 他の人ポイントも見れるみたいだ。ルージのポイントを見る限り点数結果が反映されているというのも本当のようだった。

「ソラ!俺6ptないんだけど…俺死ぬのか、、ソラァ」

 ルージが僕に抱きつき服に鼻をすする

「まだポイントが全てじゃないよ…それに運動能力は高いんだ。けして牛に勝てないと決まった訳じゃない!僕達は必ず牛を倒して全員生存でここを出る」

 難しいかもしれない。けどやれる事は何だってする…みんなでここを出るんだ

「ソラァ…絶対みんなで出ようね!!」

 セルシオが頷く


(ポイントの使用用途の説明は私ハイソリティ《上位権限AI》からデータを送らせて頂きました。10秒以内の買い戻しは可能ですがポイントが、0になると死にますので計画的なりようが推奨されます)


 _________短剣 【5pt】剣 【15pt】 槍 【25pt】 弓矢 【25pt】_________

 防御壁 【20pt】強化剤 【5pt】 反射銃 【50pt】 鏡【1pt】

(強化剤は、服薬で身体の大幅的強化もしくは武器に投与するとその武器の強化が可能になります。以上で説明は終了ですグループ分けについてですがこれより30分間、時間を設けますのでその間に各自の話し合いで決めてください。残ったチームはランダム訳になります)


 説明が終わったことで各自のグループ作りが始まった。

 セルシオとルージに誘われ僕達もチームを組む

 空いた時間で僕は一度この試験を整理することにする。

 __十頭の牛を狩りきる。もしくは生存チームが10になる事で試験は終了する

 例えば3チームが牛を狩り、他チームの合計が7チームになればそれでもクリアという事だ。脱落者の生存が許されるのは牛を借り切った時のみと言う事らしい。

 ____ポイント制度は見渡す限り僕の30ptがMAXだろう。0になると死ぬとの事なので受け渡し前提でのポイント設定がされているものが多い。

 考えたくは無いが他チームを殺してポイントを強奪するなんて事も想定されているのだろうか…

 距離が取れるものや長物系の武器は高く設定されており、ポイントの高さから反射銃が鍵になるのかもしれない


「ソラ…大丈夫??」

 セルシオの声で我に返る。相当考え込んでしまっていたらしい

「大丈夫、少し試験内容を整理してたんだ。」

「あまり分かってないんだが…ポイントが0になったらダメで、とりあえず牛を倒せば良いんだよな!そういうのは目はいい方だから得意だぜ!!」

 セルシオは呆れるように溜息を着いた

「あんたは、少しは危機感持ちなさいよ…7ptなんて短剣のひとつ買ったらおしまいじゃないの」

「うぅ…確かに」

 セルシオに、つかれた事実に何も言い返せず落ち込む

「まっまぁ、鏡買えるもんね。」

「ソラ。それはフォローになってないぜぇ」

「あっ、、ごめん」

 さすがに無理があったようだ。にしても1ptの鏡とは何に使うのだろう…ラインナップの中で一際異質な存在だが頭の隅に入れておくのも悪くないだろう


(30分経過しました。各チーム決まったようですのでこれより試験を開始します)

 開始の合図と共に僕達の前方に位置する壁が区切りごとに崩れる。

 外壁が崩れ巻あがった煙から人影が見えた。いや、それは人影なんかでは無く牛…いや鬼。頭に斜めの角が1本生え1つ目の獣が棍棒のようなものを持って地面に立っているのだ

「何…あれ、、あ、あんなの牛じゃない」

「ミノタウロス…」

 誰かが口に出す。旧文明の神話に登場するを喰らう怪物だ

 途端昨日の事がフラッシュバックする。塔の10階…多数の赤子の後ろにいたツノのようなもの、、繋がる…これはあの牛の成長した姿だとでも言うのだろうか


 牛はこちらを見ているだけで何もしてこない区切られたスペースから動かないようだ。

「動かないならこっちのものだな。シルファ!弓だ!!」

 先手必勝と言わんばかりにアルマー君らが弓を構える。勢いよく放たれた2本の弓が一体のミノタウロスに当たった…その時だ

「逃げろっ!!」

 イヤーナの声も虚しく、アルマー達の首が弾け飛んだ。

 その間僅か1秒と言った所か。誰もが理解出来なかっただろう…弓が腹部に刺さっているのにも関わらず奴は棍棒をぶん投げたのだった。力は然ることながら正確にシルファ、アルマーの頭を吹き飛ばす

 あまりにも衝撃的な出来事に誰もが声を失った


「イヤァアァアアア、ァア゛ア゛ア゛」

 アルマーらの返り血を直に浴びたチームメイトのルイの叫び声だけが塔内部を木霊するのだった


 誰1人として、犠牲を出さずに試験を突破する。僕達の目標は開始早々に終わってしまった。その事実が僕たちを狂わせる第一歩だったのかもしれない




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