第08話 習性


「今夜はここで寝ろ」


食事を終え、会話も一区切りついたところでフェラクリウスは外套がいとうを脱ぎすぐ隣に敷くと、自分は鞄を枕にして寝ころんだ。


シオンは耳を真っ赤にして動揺した。


「ここでって…一緒に!?」


「一人より安全だ」


「ウソだ!変な事しようとしてるだろ!!」


シオンが更に顔全体を真っ赤にして怒鳴る。


だがフェラクリウスはまったく意に介さない。


「人聞きの悪い事を言うな。

 子供に乱暴なんてしない」


「で、でも…だってアンタ…

 さっきからずっとそれ、もっこりさせてんじゃねえか!!」


フェラクリウスの下半身にはくっきりと男の形が浮かび上がっていた。


「こいつか?会った時からずっとこうだが」


そうだったのか。


余裕が無くて気付かなかった。


賊から守ってくれた時も身の上話を聞いてくれた時も、ずっとギンギンだったなんて。


「これは仕方ない。

 女が近くにいるとなっちまうんだ。

 いつもの事だ」


“それ”をはち切れんばかりに怒張させながらも、フェラクリウスは動揺することなく泰然としている。


「そんなしょっちゅうおっきくしてる奴

 余計アブないだろ!!」


「未成年に興味は無いさ。

 だが“こいつ”は俺の意思とは別に

 勝手に膨らんじまうのさ。安心していい。

 本能を抑え込むだけの理性は備えている。

 まったく、困った奴だぜ“こいつ”は…」


そういってフェラクリウスは我が子を慰めるような手つきで、服の上から聞かん坊を優しく撫でた。


「いじんなよ!人前で触ったら駄目だよ!!

 理性どうこうよりその行動はアウトだよ!

 性犯罪だよ!」


「心配するな、俺が女を襲う事など

 絶対にありえない」


水掛け論になってしまった。


そもそもこのおじさんは下半身を膨らましておいて何故そんなに自信満々なのか。


だが、正直命の恩人を疑い続けるのは彼女自身も気が引けた。


シオンが一応尋ねてみる。


「…なんでそんなこと断言出来んだよ」


「初めては、相手にリードしてほしいからだ」


フェラクリウスが眼光を輝かせる。


シオンは見当違いな返答に瞬きを忘れて呆然とした。


「…何言ってんだアンタ…。

 っていうか初めてって…アンタ童貞?」


フェラクリウスはチッと舌打ちをすると、前髪を掻き上げて夜空を見合げた。


「余計な事まで言っちまったかな…」


「なんでこのタイミングでかっこつけてんだよ…」


「ちなみに理想の女性は二十代で見た目は清楚系、

 中身はちょいビッチ入った黒髪ロングのお姉ちゃんだ」


「余計な事言うなよ」




確かに彼はエッチかエッチじゃないかで言えばエッチである。


スケベかドスケベかで言えばドスケベである。


だが擁護させてもらえるのであれば、彼は決して少女に対して性的ハラスメントを行う事で悦に入ったりする趣味を持っていない。


女性との交友経験の浅い彼はこういった言動が相手に嫌悪感を与える事を知らないのだ。


現代と違いモラル教育も行き届いていないこの世界では、人間関係は経験によって学んでいくしかない。


いまの価値観では許される事ではないが、断じて悪気があるわけではない。


しかし、鈍感な彼には自分が関心を持つ知識を一方的に話してしまう悪癖がある。


現に今も、シオンの注意は殆ど耳に入っていなかった。熱くなるとそうなのだ。


フェラクリウスという男は、そういう困ったところのある悲しいおじさんなのだ。


ただし!


もう一度念を押しておきたい。


これらのいきさつはあくまでも彼の住む作品世界での話であり、現実社会とは分けて考えて頂きたい。


無知を理由にハラスメント行為を容認する事は断じて許されない。

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