第06話 盗賊と少女


フェラクリウスは世話になった村人たちに別れを告げマテオの待つ王都ネーブルへ向かった。


パンテェの村を南下していくとすぐに舗装された街道がある。


あとは案内の立て札に従って進んでいくだけで道に迷う心配は無い。


マテオからそう聞いていたのだが、困ったことにフェラクリウスは文字が読めなかった。


これは彼の学習能力の問題ではなく、そういう村に生まれ育った事情によるものである。


フェラクリウスは分かれ道に出会う度、一か八かを自らの勘に従って道を選択した。


迷いのない直感がことごとく正解を引き当て、王都へと近づいて行った。



石畳の街道の両脇を木々が生い茂る森の中を歩いていると。


…向かいから走ってくる少女の姿が見えた。


小柄で、見た感じの年齢は十五、六歳くらいだろうか。


薄汚れた身なりをしていた。


少女はフェラクリウスの前まで来ると突如彼に抱き着いてきた。


「あ、あの…助けて!!」


その表情からただ事ではない様子が伝わる。


フェラクリウスは少女の肩を力強く、しかし優しく掴みゆっくりと身体から離した。


「任せろ」


「!」


フェラクリウスは話も聴かず少女の目を見てそう断言した。


その時、薄暗い道の向こうから抜き身の剣を手にした集団が駆けてきた。


少女は男たちを見るやフェラクリウスの背後にサッと隠れた。


…賊か。


フェラクリウスは男たちの容貌から大体の事情を察した。


賊は少女の姿を確認すると、フェラクリウスに手入れの行き届いていない剣の刃を突き付けてきた。


「おいおっさん。

 怪我したくなかったら

 そのガキをこっちに渡しな」


「…この子をどうするつもりだ」


「テメェにゃあ関係ねえだろ!!」


今にも斬りかからんと息を巻く男を、年長者らしき男がたしなめる。


それからにやにやといやらしい笑みを浮かべて説明を始めた。


「まぁ待て。あんたは俺たちに非があると

 一方的に決めつけているんだろう。

 だが違うんだよ。

 そのガキが俺たちの寝床から

 金を盗んでいったのさ」


「…どうなんだ?」


フェラクリウスが少女を見て問いかける。


少女はバツが悪そうにうつむくと、黙って首を縦に振った。


「盗んだものを返すんだ」


フェラクリウスは責めるようではなく、優しく諭すように言い聞かせた。


少女はぐっと顔をしかめて歯を食いしばり、身の丈に合わない大きな鞄から巾着袋を取り出しフェラクリウスに渡した。


「これで全部だな」


少女が頷くのを確認してから袋を盗賊に向かって投げ渡す。


「これでいいだろう。行け」


フェラクリウスは虫でも払うように賊を追い返すジェスチャーをした。


その所作に神経を逆なでされた一人がフェラクリウスに詰め寄る。


「おいおっさん。

 ふざけてんのか?

 盗ったものを返せば

 無かったことになると思うなよ。

 こんなガキに舐められて

 俺たちの面目は丸つぶれなんだぜ」


声を震わせながら睨みつける賊に、フェラクリウスは眉一つ動かさずに言い返した。


「だから見逃してやると言っているんだ」


「ああ!?」


「いつもなら問答無用で叩き伏せているところだが

 今回だけは大目に見てやる。失せろ」


「ワケのわからねえ事言いやがって!

 テメェ図体がでけぇからって

 いい気になってんじゃねえぞ!!

 こっちゃあ四人いるんだ!

 その娘と有り金置いて消えねえと

 ぶっ殺すぞ!!」


フェラクリウスの説教にしびれを切らした年長の男はついに態度を変貌させるとドスの利いた声で脅してきた。


少女がビクッと身体を震わせたのが背中越しに伝わる。


「そういう事なら仕方ない」


フェラクリウスは怯える少女に下がるよう指示すると、腰に下げた得物に手をやった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る