第04話 背負っているモノ
翌朝、ジジイに起こされるまでフェラクリウスは眠り続けた。
朝と言っても太陽はてっぺんから下り始めていた。
厳密には朝ではない。正午過ぎである。
フェラクリウスの信条に、「スッキリした次の朝は好きなだけ寝てもいい」というルールがあった。
だから、毎日好きなだけ寝ていた。
昨晩は三回もスッキリしたので、いつもよりぐっすり眠っていた。
しかしジジイから来客が来ていると聞き、フェラクリウスは飛び起きた。
馬屋のあたりに、村人数人と軽装の鎧を着た集団がいる。
昨日捕縛した盗賊を、王都から来た衛兵に引き渡しているところだった。
その中で、少しだけ豪華な装飾のついた兜をかぶった中年がこちらに気付いて近づいてきた。
中年の兵士はフェラクリウスに近づくにつれその大きさに目を丸くした。
身長2メートルあるフェラクリウスの前に立つと、顔を見上げてにやりと口角を上げた。
「ほっほー…。これはこれは。
なんと立派な…」
「アンタは?」
「失礼。私はこの国の衛兵団に所属する
マテオという者だ」
マテオは兜を脱いで頭を下げた。
瞬間、中年特有の加齢臭が漂った。
汗と脂と男の匂いである。
フェラクリウスは腕を組んだまま黙っている。
「盗賊団をものの数秒で壊滅させたというから
どんな化け物かと思ったが…なるほど、デカイ。
筋肉もバキバキに仕上がっている。
“あのお方”にも引けを取らない立派な体躯だ」
マテオは馴れ馴れしくポンポンと肩や胸や腹筋を叩いた。
軍人特有の上下関係によくあるぶしつけな態度だが、匂い以外に不快感を感じないさわやかな中年だった。
「キミに話があって呼び出してもらった。
だがその前に答えてくれるか」
マテオは目線をゆっくりと下げていった。
「何故下半身のがデカイ?
何故下半身のをバキバキにしている?」
目線の先にはモーニンググローリー。
フェラクリウスの太根は朝の生理現象によって硬化していた。
「気にするな。
寝起きはいつも“こう”なのさ」
「そうか…。私はここ数年
朝一でも“そう”はならないが…。
根っこの先まで鍛えられているのだな。
まったく羨ましい限りだ」
マテオはうんうんと何度も頷き、それから本題に入ろうと言ってかしこまった。
「ええと、名前を聞いてもよろしいかな?」
「フェラクリウスだ」
「フェラクリウス。
旅人と聞いているが、
君はこの国の者ではないのだな」
フェラクリウスが肯定すると、マテオは背筋をピンと伸ばし重々しく語りだした。
「我が主に会ってほしい!」
「主の名はダンテ・マンパァー。この国を治める王だ。
一代で近隣地方をまとめ上げた名君でありながら
自身も三英傑の一人に挙げられる戦士である」
フェラクリウスの瞳の奥が煌りと光った事に気付かず、マテオは弁に熱が入り一方的にしゃべり続けた。
「主はここ最近の治安の悪化に頭を悩ませている。
飢えの酷い地域に食料を届けたり
ならず者を討伐したりと
我々も尽力してはいるのだが
なにぶん人手不足でな。
戦える人間の数には限りがある。
ならばより優秀な人材を、より強い兵士を。
…主は求めている。
もし君が主に力を示す事が出来るのであれば、
きっと君の望みが叶うはずだ」
マテオは思い込みの激しい中年だった。
旅をしているフェラクリウスは自らが仕える君主を探している。
勝手にそう決めつけていた。
だがフェラクリウスはマテオ以上に思い込みが激しく、自分に都合のいいように言葉をとらえてしまう悪癖があった。
(ええケツ…だと…?)
彼にとってこうした聞き間違いは日常茶飯事である。
好きなのだ、尻が。
彼の耳には「ええケツ」と「望みが叶う」しか届いていなかった。
マテオの主について、頭の中でプリンプリンのお尻をしたセクシーなお姉ちゃんを思い描いていた。
だが彼を笑うなかれ。
男なら誰しも同様の勘違いをしてしまうリスクがある。
男は誰しもケツ好きのサルを背負って生きている。
これは性欲猛き者の“
「俺に…やれるのか…?」
「やれる!いや、君にしか出来ない!!」
マテオは大袈裟にフェラクリウスを煽った。
不覚にも、フェラクリウスは尻に目が眩んで冷静な判断が出来なかった。
そして即座に決断した。
「…会おう、マンパァーに」
「よし!そうと決まればさっそく王都へ向かおう。
さあ、乗りたまえ」
せっかちなマテオが無理やり荷車に乗せようとするが、フェラクリウスは抵抗した。
「いいや、歩いていく。
…団体行動って奴が苦手でな」
「しかし街道には賊が…
いや、余計な心配だったな」
マテオは心配そうに眉をひそめたが、すぐに思い直し納得した。
「では、先に戻り話を通しておこう。
王都ネーブルにあるオンファロス城で待っている」
「ああ、準備が出来次第すぐに発つ」
既に勃っているフェラクリウスには一刻も早く一人になりたい理由があった。
(ええケツ…か)
まだ見ぬええケツを想うフェラクリウスの下半身は寝起きに増してバキバキに仕上がっていた。
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