第6話
「あ、母さん。今日うちに帰るの遅れるから。え?『連絡が遅い!』って?でもまだ6時過ぎだよ?そんなに遅くないと思うけど。それにうちって門限なかったじゃん?え?『そんなのなくても早く帰ってくるからだ!』って?確かにいつも6時前には家に帰ってたけど。『そもそも今どこにいるのか?』って?キョウヘイのうちだよ!『本当か?』って?ちょっと待って!キョウヘイに代わるから!ごめん。キョウヘイ。ちょっとうちの母親と話してくれないか?」
キョウヘイは無言で左手の指で丸を作って「OK」のサインを送ってきながら、右手で俺のスマホを受け取った。
「もしもし?セイのお母さんですか?お久しぶりです。キョウヘイです。本当ですよ。セイは俺の家にいますよ。2人で今度の中間試験の勉強をしてるんですよ。はい。はい。8時過ぎくらいまでにはセイを車で家まで送りますので安心してください。夕飯?夕飯もうちで用意してますので大丈夫です。はい。はい。それじゃあ、セイに代わりますね。ほら!セイ。」
俺はキョウヘイが返してきたスマホを受け取って、また母さんと話し始めた。
「もしもし?ほら本当だったろ!はい。はい。それじゃあ、8時過ぎには帰るから。……おい!キョウヘイ!お前が中間試験の勉強してるなんて言ったから、うちの母親が『中間試験期待してるよ!』って言ってきたじゃないか!」
「『球技大会のために特訓してます。』って言うより、『中間試験のために勉強してます。』って言った方がいいかな?と思ってさ。中間試験の方が先に来るわけだからさ。」
「それはそうかもしれないけど……。」
「まあそれにまるっきり嘘じゃないからな。」
「お前さっきから『早とちりじゃない。』とか『まるっきり嘘じゃない。』とか訳分かんないこと言ってるけど、一体どういう意味なんだ?レイアップシュートじゃなくて普通にセットシュートの練習をして置けってことか?球技大会の特訓だけじゃなくて中間試験の勉強もするってことか?」
俺はさっきからキョウヘイの発言で気になることを語気を強めて尋ねた。
するとキョウヘイはニヤッと笑いながら、「やっぱり気になるか?そうだよ!セイの言う通りバスケの練習はレイアップシュートじゃなくてセットシュートをやってほしかったんだ。それとシュート練習だけじゃなくて中間試験の勉強も並行してやっていこうと思う。」と俺の質問に答えた。
「それならそうと言ってくれれば良かったのに。俺がそのくらいで音を上げると思ったのか?」
「それじゃあセットシュートの練習をすることとそれと並行して試験勉強することに異議はないんだな?」
「ああ、全然ないよ。ていうかあれだろ?キョウヘイの家に来るまでに車の中で言ってた勉強面で輝いているところをカジワラに見せるために試験勉強するんだろ?やっぱり定期試験で50位以内に入って掲示板に貼りだされたら勉強できるって感じするもんな。」
「ホントにいいんだな?」
キョウヘイがしつこく尋ねて来るので、半ば苛立ちを覚えながら、「だからいいって言ってるだろ!」と答えた。
「よしっ!言質を取ったぞ!今は6時半過ぎだから、あと1時間半くらいしか時間がないな。さっさと始めよう!1週間で2万本のシュート練習を!」
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