第27話 あ、どうも
「きったねぇ!なにしてんだよ!」
怒ってはいるが、半分くらい笑ったような声で泰正は叫んだ。
「お、お客様、どうかなさいましたか!?」
「あぁ、いや、大丈夫です、自分らで対処します。すいません、お騒がせして」
心配そうに駆け寄ってきた店員に、泰正がカバンからスポーツタオルを取り出しながら謝っていた。
俺も、スポーツタオルで顔を拭う泰正に平謝りする。
「ほんと申し訳ない。いや、そんなこと言うなんて、びっくりしちゃって」
「いいよいいよ、そんな気にしてないし、汗も流れたかな」
そう冗談めかして言う泰正を見ると、余計に申し訳なくなってしまう俺は、泰正に提案した。
「じゃあ今日の会計は俺に出させてくれ、お詫びってことで…」
「いいのいいの、俺も変なこと言ったしさ、俺の分は俺が出す、もうこの件はおしまい!さ、注文しようぜ」
俺は心底、泰正の人柄の良さというか、おおらかさに敬服した。
気を取り直し、俺たちが改めてメニューに向かい合った頃、柚希たちのグループも席に案内された。
俺たちの席のちょうど脇の通路を通ったが、目が合うとか、そんなことはなかった。
無事に(?)注文を終えた俺たちは、雑談の時間を共にしていた。
「今日マジで暑くてさ、試合見てた一年全員ぶっ倒れそうだったんだぜ」
「大変そうだね…写真部は気が楽でいいよ」
「羨ましいわぁ」
愚痴ったり、笑ったり。本当に何気ないが、本当に楽しい時間だった。
やがて、店員が2人分の食事を運んできた。
泰正は腹ペコだったようで、運ばれてくるなり、すぐに食べ始めた。
そこからはまた、食べながら話し、ゆったりとした時間が流れた。
「俺飲み物とってくる」
「あ、俺のもお願いしていい?ぶどうジュース」
「おっけー」
自分の飲み物を取りに行くついでに、泰正のものも淹れてあげることにした俺は2つのコップを持って席を立った。
ドリンクバーに到着し、自分は何を飲もうか思案していると、左側から視線を感じたので、ちらりと目をやれば、そこには柚希が立っていて、何やら楽しそうな表情を浮かべている。
「あ、どうも…」
「うん、やっほー」
俺が遠慮がちに挨拶をすると、その喜色をより一層濃くして返事をしてくれた。
はたから見れば、片手にぶどうジュースの入ったコップ、もう片方の手には空のコップを持った男と、美少女がドリンクバーの前で向き合っているなど謎すぎる場面である。
「何飲むの?」
柚希にそう尋ねられ、俺は我に返った。
「あ、えーっとアイスティーにしようかな」
「じゃ私はオレンジにしよっと」
そう言うと彼女はかごからコップを手に取ってオレンジジュースを注ぎ始めた。
俺もその隣でアイスティーを注ぐ。
「今日はお友達と一緒なんだね」
「うん。あっ…もしかして俺がさっき吹いたところ見てた?」
俺は不安になってとっさに尋ねた。
「ん?いやぁ見てないよ」
俺はその反応を見て確信した。
見ていた。と。
「頼むから誰にも言わないで…特に指田先生とか」
「わかったわかった、言わないよー」
軽くそう言う柚希に半信半疑の目を向けながらも、俺は質問した。
「古賀さんも、友達と来てるの?」
「うん。中学の頃の友達と。女子会ってやつだから、南條くんたちは参加しちゃだめだぞっ」
「わ、わかってるよ。そもそもお邪魔するつもりもないし…」
「ふふっ、知ってる。じゃ、また学校でね!」
そう言うと柚希は、体を翻して席に戻っていく。
ワンピースがひらりと揺れた。
去り際に彼女が見せた満面の笑みに見とれ、俺はしばらくその場に立ち尽くしてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます