第184話 不死の魔法と不意の邂逅


 ダンジョンアライブ。


 とある少年誌に連載されアニメも大人気となったその物語では、強力な探索者組織との戦いや奈落と呼ばれるダンジョン最下層での冒険に加え、終盤では奈落のモンスターと融合し魔に落ちた強力な敵――すなわち魔人組織との抗争などが描かれた。そうした数々の戦いの末に出現したのが、魔人たちの手によって〝異界〟と呼ばれる場所から呼び寄せられた強力無比な存在――作中で魔王と呼ばれる怪物で、物語はその強大な〝力〟を打ち倒すことでフィナーレを迎えたのだが……。実はその魔王がやってきた〝異界〟については作中でも断片的な情報しか明かされておらず、ファンの間でもその世界について考察が続けられていた。


 また最初期からの仲間の1人が実は異界から迫る力の流入を食い止めるためにやってきた記憶喪失の異界出身者であり、物語の最終盤では異界へ繋がる大穴を〝向こう側から〟閉じるべく、取り戻した記憶の多くを語ることなく生き別れになるという展開があった。ゆえにファンの間では綺麗に終わったという声とともに「再会」を目指す主人公たちによってまだ物語の続く余地があるのではないかと語られてもいたのだが――願望に近かったそんなファンの想像が、いままさに現実のものとなって世界に発表されていた。


 ダンジョンアライブ完全新作劇場版三部作。

 製作総指揮:もちもちたまご

 ダンジョンアライブ異界攻略編と題された、映画原作にもなるたまご先生の新連載。


 すなわち親授式が終わった直後に突如全世界へ発信されたそれは、ダンジョンアライブ完全新作プロジェクト始動の告知だったのだ。



〝うわあああああああああああああああああああああ!?〟

〝マジかマジかマジかマジかマジかあああああああああああ!?〟

〝親授式が無事終わったと思ったら急にAnimeJapanはじまってて草ァ!?〟

〝は…………………………………………………………・・?〟

〝……………………………ま、マジで……?〟

〝うそでしょ? ほんとに?〟

〝ダンジョンアライブ古参ファンわたくし、あまりにも一気に供給がきすぎてマルチバース宇宙猫状態なんだが……!?〟

〝うっそだろ!?〟

〝最近たまご先生が大人しいと思ってたらマジかあああああああああ!?〟

〝おいこれまさかたまご先生が最近静かだったのこの発表の大詰めのためだったりする!?〟

〝スパチャ封じられて大人しくなってたわけじゃなかったんですの!?〟

〝いや確かに続編考察可能な情報は作中でもちょいちょいあったけどさぁ!?〟

〝やばい親授式の緊張感だけでヤバかったのにほんかくてきに手がふるえてきた〟



 大型モニターに新作告知PVが映し出されると同時。切り替わった配信画面で同様の映像を見た視聴者たちも悲鳴をあげる。そしてその爆弾情報に対するとんでもない盛り上がりと大騒ぎは当然配信内だけのものではない。


 巨大SNSツブヤイターでも公式アカウントを持つアニメ関係者が次々と配信の引用をしながら、


『菊之丞ミカ@声優やってます:真実マジかよ監督クン……!?』

『東上あゆみ@声優:ダンジョンアライブが……!?』

『西乃有紀@作監です:ダンジョンアライブが!!!』

『ベルセルクル出版コミック編集部公式:幻想ユメじゃねぇよな……!?』

『米酢玄米@歌とか作ってます:還ってくる……俺たちの〝黄金時代オウゴン〟が還ってくる!!』

『鈴木義郎@アニメ監督:すぐ〝帰国〟する……ッ!!』


〝ゾクガミじゃねえか!〟

〝鈴木元助監督はずっと日本在住なのにどこからどこに帰国するつもりですのwwwww〟

〝いやあんたらは間違いなく全員事前に知ってたやろがい!〟

〝かつてのメインスタッフも声優もノリノリで草ァ!〟

〝その〝神のひと声〟は瞬く間に――全世界の悪童ワルガキ共の〝エンジン〟に火をつけた!〟

〝カリンお嬢様が絡むとどこまでいってもチンピラ成分がついてまわるのほんま草〟

〝実際チンピラお嬢様の活躍で実現してると思われるからマジでゾクガミ展開だよこれ!〟

〝いやちょっと待ってこれ反応してる面子的にメインスタッフ全員当時のまんまでいくってこと!?〟



 と関係者たちの呟きを中心に大騒ぎだ。

 しかし当然、あがる声は喝采だけではない。



〝マジで続編やんの!?〟

〝こんな情勢じゃ注目度と期待値高すぎてハードル爆上がりどころじゃなくねぇ!?〟

〝製作総指揮たまご先生ってあるけど大丈夫!? プレッシャーで潰れませんこと!?〟



 とそうした声も配信内外問わずあがる。が、



〝@motimotimotimoti:創作とは元来そういうものなので大丈夫です! いままでと同じです!〟

〝@motimotimotimoti:またこの続編において特定キャラの出番を変に増やしたりすることはありません。従来通りどのキャラも大切にしていくつもりです〟

〝@motimotimotimoti:続編に漕ぎ着けられたのはずっと応援してくださった皆様のおかげ。そしてカリンお嬢様のおかげです。皆さんの期待に応えられるようやり遂げますので、楽しみにしておいていただければ嬉しいです!〟

〝@佐々木洋司:引き続き監督を任せてもらった身としてたまご先生のパワーに全力でついていくだけです!〟

 

〝たまご先生と監督のコメントまできたあああああああああ!?〟

〝何千万人観てるかわからん配信と公式アカ両方でこれ断言してるの剛の者すぎる……〟

〝下手したら何千万どころか億単位なんだよなぁ〟

〝カリンお嬢様の自作自演疑惑のとき理不尽に燃やされてもまったく動じずにファンアート量産してた人は違うぜ……!〟

〝国民栄誉賞時に解釈違いを許さず(恐らく)政府のチェックもすり抜けてお嬢様のヤバさ加速しそうなメッセージぶち込んだ作者だ面構えが違う〟

〝このお優雅旋風のなかでもキャラ贔屓しない宣言するの信頼できすぎるな……〟

〝てかたまご先生これめっちゃ乗り気なのもしかしてマジで前々から構想はあったやつか!?〟

〝たまご先生は注目集まったからって蛇足の後付けで続編描くような人じゃないからな……〟

〝注目集まったから無理に続編書くのでは? って疑問を一撃で吹き飛ばす国民栄誉賞授賞記念メッセージ解釈一致最優先バーサーカー事件〟

〝日和って続編描く人が政府の胃を爆散させるメッセージを解釈一致優先で仕込むわけないだろとかいう反論不能なロジハラやめてくださいまし〟

〝こんなんもうほぼガッシュ2じゃん!?〟

〝地味に監督も覚悟完了しててほんまおハーブ〟



 と原作者たまご先生の発言で不安も吹き飛ばされネットが祭りと化していた。


「予想はしてましたが、凄い盛り上がりですねぇ。関係者の皆様が秘密裏に奔走したとは聞き及んでいましたが、その甲斐があったというところでしょうか」

 

 と従者から反応の一部を見せられた結子殿下が嬉しげに、そして関係各所を労うように呟く。


 実際、このダンジョンアライブ続編発表に漕ぎ着けるには裏で色々と大変だったのだ。


 元々カリンの大暴れによって生じたと、書籍超大重版やアニメ配信の再生数超激増によって、続編の話自体はかなり早い段階から進んでいた。


 だがカリンの影響もあって大ヒット間違いなしなうえに諸々の影響力も計り知れないダンジョンアライブ続編は、既にとんでもない規模の利権になりつつあるコンテンツ。制作においてはおこぼれに預かろうとする魑魅魍魎の寄ってくる勢いも尋常ではなく、特にアニメ映画のほうはメインスタッフこそ続投だが映画クオリティにするための人員増員はどうしても必須。表向きは良い顔をしたハイエナを確実に弾きながら満足のいく製作体制構築を構築するための暗闘が、なかなかに難航していたのである。


 そのためダンジョンアライブ続編製作にあたっては、政府が中心となって秘密裏にそのサポートへ全力を注ぐこととなった。一般探索者への依頼額に影響が出ないよう最低限の現金報酬はカリンに渡しつつ、残りの予算及び人的リソースをカリンへの報酬名目ですべて製作体制堅守にぶち込んだのだ。


 ダンジョンアライブには「とある守護神」がついてはいるが、その力はたまご先生やその周りのサポートおよび護衛などに割くべきであり、政治的な暗闘にリソースをさかせるわけにはいかない。というわけで政府サイドは内容に対する余計な口出しや中抜きなどが横行しないよう人員を割きまくったうえで、制作費をがっつり出して口だけは決して出さない体制を構築。今日の発表に漕ぎ着けたのだ。


 ……もっとも、最終的にこうした邪魔者皆無のクリーンかつパワフルな製作体制を構築できた最後の一押しは『フィギュア破壊を見て怒り狂ったカリンの形相』と『推定奈落級巨人を殴り殺した解釈違い鏖殺パンチ』であり、「あ、これ下手にダンジョンアライブ公式を汚したらむごたらしく死ぬ」という認識がハイエナたちの間で広がったのが大きかったのだが。なんにせよ多くの者の尽力と暗闘がいまこの発表を実現していたのだった。


 ――と結子殿下はそうした裏方の苦労にも胸中で労いを囁きつつ、そうした暗闘に最も力を注いだ立役者の1人である金剛寺総理に目配せ。それを受けて頷いた総理は自分の苦労などいかほどかとばかり、いまこの場でもっともその功績を労うべき相手に再び視線を向けた。


「皆様盛り上がっていただけたようでなによりです。そして当然、仮にもカリンお嬢様への贈り物というからにはこの発表だけで終わりではありません」


 そして総理は「私はただのメッセンジャーで、あくまで今日の発表まで尽力した方々やスタッフの皆様からの贈り物ではありますが」と挟みつつ、


「幾分か先の話にはなりますが、映画が完成した暁には本来抽選でしかいけない先行上映会にカリンお嬢様を確定でご招待とのことです。贈り物というにはどうしても時間差の生じるものにはなってしまいますが……カリンお嬢様にはそのときを楽しみにしていただければ」


 告げると同時、光姫をはじめとした今日の参列者たちからも拍手があがる。

 国を救った不出の英雄に対しては数百億の報酬と併せても不釣り合いな見返りともとられるかもしれいが……しかしカリンのメンタル許容量も考えるときっとこれが一番の報酬のはず。と総理たちは微笑んで拍手を続けていたところ、


「……?」


 ふとその表情に疑問が浮かぶ。

 モニターに真っ直ぐ目を向けたカリンが、一切身じろぎすらしないのだ。

 というかよく思い返せばPVによる続編発表からこのかたまったく反応らしい反応がなく、「カ、カリンお嬢様……?」と若干不安になった総理が声をかけた。そのとき。


「うぇ……うひえええええっ……っ」


「っ!?」


 金剛寺総理たちが思わずぎょっとする。

 反応を伺ったカリンが、だばー! と滂沱の涙を流して号泣していたのだ。


 もはやこの場が宮殿内であるということすら頭から吹っ飛んだように、


「わ゛だぐじ……寂しいときがあってもめげずに今日まで頑張ってきてよかったですの……! ダンジョンアライブの続編……全部観るまで絶対に死ねませんわぁ……!」



〝泣いちゃった!〟

〝いやそりゃこんだけの不意打ち供給あったら泣きますわ!?〟

〝前にセツナ様とのオリジナルイラストもらったとき以来の号泣ですわー!?〟

〝あのときの濁点だらけ藤原〇也状態とまた違うタイプのガチ泣きですの!〟

〝お嬢様よかったですわね……!〟

〝ちょっと前までずっと同接永遠のゼロで配信してたんだもんなぁ〟

〝ここまで喜んでもらえたらたまご先生たちスタッフのやる気もさらに倍率ドンですわー!〟

〝なんだったらわたくしも笑いながら泣いてますわー!〟

〝ツブヤイターのほうでも既に泣いてる報告ちょいちょいある〟

〝もらい泣きコメまであっておハーブ潤う〟

〝ちょっと男子ー!〟

〝ちょっと総理―!〟

〝ちょっと政府ー!〟

〝てゆーかこれなにげにお嬢様に不死身バフかかってませんこと????〟

〝実質不死身バフはおハーブ大農園〟

〝アニメ映画が1本出来上がるには大体3年……〟

〝お嬢様がざっくり9年は絶対死なないお身体になってて草ァ!〟

〝その9年でさらに成長してバフ関係なく不死身になるんだよね……〟

〝なんなら映画1本公開されるたびにセツナ様の新技とかでバフかかる可能性あるの怖すぎィ!〟

〝普通ならフラグにしか思えないのにお嬢様だと「マジで死なないだろうな……」としかならないの草なんだ〟

〝なんにせよよかったですわねお嬢様……!〟

〝視聴者の9割はカリンお嬢様の号泣に気を取られて隣で立ったまま尊死とうとししてる光姫様に気づかない〟



 と誰よりも喜んでいるカリンの様子にコメ欄でも現場でもさらなる祝福の声が舞って……親授式後の報酬発表は和やかな雰囲気で終了するのだった。





「ああ……! もう本当に本当に夢見たいですわ……! セツナ様はもちろん、他の方々の物語の続きがまた見られるなんて……! これまでもたまご先生には畏れ多いくらいよくしていただきましたけど……これ以上にいいことなんてもうそうそうありませんわ……!?」


 親授式及び特別報酬の発表が終了したあと。

 諸々の緊張や疲れも喜びで吹っ飛んだカリンはいまにも飛び立ってしまいそうなくらい軽い足取りでドレスを揺らしながら長い廊下を歩いていた。


 もう本当に、あまりに光栄すぎる勲章を授与したことといい、なにもかもが夢としか思えない。正直まだまだ未熟な自分がこんな素敵な思いをしていいのだろうかと自らの正気や現実を疑い、全力で何度も頬をつねりまくっていたほどだ。けれど、


「うへ、うへへへへへへっ」


 スマホをいじれば、怒濤の勢いで流れてくるのはダンジョンアライブ続編が本当だと示す情報の洪水。どこもかしこもその話題ばかりで、なにかの勘違いと疑う余地など微塵もないほどだった。思わず立ち止まって、流れてきたPVをまた再生してしまいそうになる。


「――って、いやいやダメですわ、我慢しないと」


 とカリンはふと我に返る。

 いまカリンがいるのは、親授式が行われた宮殿近くにある宮内庁の建物のなか。ちょっとはしたないが、あまりにも強烈な緊張から解放された反動で、ちょっとおトイレを借りていたのだ。


 今回もわざわざ(現実をちゃんと把握できているとは思えないカリン介助のために)ついてきてくれた真冬や光姫を待たせているし、「浮かれ倒すのは合流して帰ってからにしましょ」とカリンは歩みを再開する。


「しかし今日は興奮しすぎて眠れそうにねーですわ……!」


 これはもう一晩中PVを再生し続けるコースですわね……! とカリンが再び頬をゆるめて呟いた。


 そのときだった。


「……ん?」


 カリンの足取りがふと止まる。

 

 真冬に言われて常に展開している感知網にとある気配が――結子殿下との会談時などの間も緊張で頭おかしくなりそうになりながら(極めてうっすらとではあるが)ずっと感じていた強大な気配が――こちらに真っ直ぐ向かってきていたのだ。


 そして、


「――よかった、やっと2人で話せそうなタイミングが見つかりました」


 丁寧な口調で廊下の角から現れたのは、1人の女性だった。

 

 二十代ほど。一目で一級品とわかるパンツスーツに手袋。そして頭頂部分がやや黒くなっている金髪を背中のあたりでくくった、鋭い目つきが特徴的な美人である。


 瞬間――カリンは声をかけてきたその女性に、これでもかと目を剥いていた。


「――!?!? え……あ、あれ……!? そのお声って、もしかして……!?」


「ああ、やはり声ですぐに気づかれますか。一度だけですが、メールだけではなく電話でやりとりしたこともありましたしね。そもそも顔を隠しているとはいえ動画配信もしてしまっていますし」


 ぎょっと声を漏らすカリンに、その女性は鋭い目つきとは相反する柔らかな口調で呟く。


 そして、


「対面では初めましてですね。改めまして、夏瀬桜華なつせおうかと申します。本当はもっと早くにこうしてお会いすべきだったのかもしれませんが、なにぶんふんぎりが……いえ。なんにせよあなたのおかげでたまご先生が続編に着手できるようになったことも含めて、今日の正式発表を機に諸々のお礼を直接伝えたいと思いまして。――本当にありがとうございました。ダンジョンアライブをここまで愛してくださったことといい、先生に素晴らしいインスピレーションを与えてくださったことといい、としてカリンお嬢様には感謝してもしきれません」


「――!?!?!?」


 夏瀬桜華。

 漫画家もちもちたまごとは学生時代からの親友にして二代目担当。

 最近は規格外ダンジョン配信者の1人『金髪プリン』としても(たまに)活動しているフリ ーの編集者は、畳みかけるトンデモエンカウントに硬直するカリンへ深々と頭を下げた。



―――――――――――――――――――――――――

夏瀬桜華様のビジュアルイメージや雰囲気が作者のなかで完全にインテリヤ〇ザですわ(なんなら外見どころか165話で常闇こもりちゃんに絡んでるあたりを見るに内面も割と荒っぽいですわね)。ちなみに二十代なのはあくまで外見年齢であり実年齢はたまご先生ともども不詳ですの


そんなわけで予想されている方もいらっしゃいましたが、金髪プリン様登場時に配信で目茶苦茶忙しそうにしてたのはこのダンジョンアライブ続編プロジェクトの進行ががっつり軌道に乗りはじめていたからなのでした


そして今週は少々変則的な更新でして、日曜にまた本編更新いたしますの!

ただ時間が未定で朝更新とは限らないのでそこだけ要注意ですわ!

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