第50話 突撃都心の警視庁!

【暴走特急!】日本の平和を祈って鶴を折るスレpart20【お嬢様!】


509 通りすがりの名無しさん

おいお前ら! ちょっとTVつけてみろ!


510 通りすがりの名無しさん

なんだこれ!?


511 通りすがりの名無しさん

こんな朝っぱらから警察が緊急記者会見って何事かと思ったらコーヒー吹いたわww


512 通りすがりの名無しさん

あの対探課が〈神匠〉ピンポイントで募集とかうっそだろwwww


513 通りすがりの名無しさん

前々から考えてた人手不足対策って絶対に嘘やんけwww


514 通りすがりの名無しさん

『 以前(昨日)より有識者(カリンお嬢様)からその可能性について(配信動画で一方的に)報告されていたユニークスキル〈神匠〉の採用を決定』だから嘘じゃないですわ~!!


515 通りすがりの名無しさん

詭弁にもほどがあんだろwww


516 通りすがりの名無しさん

いちおうなにひとつ嘘は言ってないのがタチ悪いなwww


517 通りすがりの名無しさん

つーかあまりにも警察の動きが早すぎて草


518 通りすがりの名無しさん

災害対策本部設置並のスピード感


519 通りすがりの名無しさん

実際アレは災害発生直前みたいなもんだったし……


520 通りすがりの名無しさん

〈神匠〉スキル持ちを集めれば譲渡可能なアイテムボックス作れるかも! って聞いたとき冗談抜きで心臓止まりそうになりましたものね!


521 通りすがりの名無しさん

そこらの国や組織が言ってるだけなら与太話だけどカリンお嬢様が中心となるとな……


522 通りすがりの名無しさん

そりゃ普段は腰の重いお上も速攻で動きますわ!


523 通りすがりの名無しさん

なんにせよ警察GJですわね!


524 通りすがりの名無しさん

てか対探課が信用できないならどこ信用すんだって話だし治安維持部隊に〈神匠〉が集まるなら各クランにも角が立たないしで割と真面目に最適解では……?


525 通りすがりの名無しさん

これ前に掲示板で見た不遇な〈神匠〉持ち980も報われるかもじゃん!


526 通りすがりの名無しさん

あとは穂乃花様の採用が正式にまとまるかどうかですわ~!


527 通りすがりの名無しさん

カリンお嬢様の報告が楽しみですわね!


528 通りすがりの名無しさん

よかった……普段はアレなことも多いけどいざというときはちゃんとやることやる行政で本当によかった……



      ●



「こ、ここが警察の本拠地ですの……」


「か、霞ヶ関なんてはじめて来ました……」


 寝起きドッキリのようなニュースを見たあと。

 制服に着替えて警視庁にやってきたカリンと穂乃花は、ドラマでしか見たことのないその建物に思い切り気後れしていた。


 周囲はスーツの大人たちが闊歩する『エリートの街』といった雰囲気で、制服のカリンたちががっつり浮いているというのもある。


 事前に対探課へアポをとったとはいえ本当にこれ入っていいの? と2人がおののいていれば、


「なにしてるの。早くいくよ」


 慣れているかのように堂々と、真冬が2人を警視庁へと引っ張っていった。




 警視庁の応接室。


「なんか昔から警察って苦手なんですわよねぇ。やましいことはなにもないのに、お巡りさんを見かけると悪いことしてる気分になるというか」


 そう言ってカリンがそわそわしていると、廊下から慌ただしい足音が聞こえてきた。来客用のお茶をもってドアを開けたのは、よれよれのシャツを着た若い男だ。

 

「いやお待たせしました。私、対探課の刑事で、本日は〈神匠〉雇用についての説明をさせていただく福佐洋壱ふくさよういちと申しま――うおっ!?」


 福佐洋壱と名乗った刑事はカリンに目を向けた瞬間、ぎょっとしたような声を漏らす。


「え、どうされましたの? まるでバケモノと遭遇したみたいな声を出されて……」


「あ、ああいや……その、渋谷を救った英雄が本当にうちに来たのかと思うと緊張して変な声が出てしまって。失礼しました。あ、あはは」


「ま、まあそんな英雄だなんて。たまたまあの場に出くわしただけですわ!」


 大げさな表現の多いネットではなくリアルにそんなことを言われてカリンは照れる。そんなカリンの反応をよそに福佐刑事は顔面蒼白だ。


「お、おいおい……この僕が画面越しはもとより直に対面してもレベルが計れないとか一体どれだけの実力差が……トップクランのエース級相手でもなかったぞこんなこと……!? 毒蜘蛛さんあんた、こんだけのバケモノ何年も公安に報告してなかったのか……クソ度胸すぎるでしょ色んな意味で……っ」


 すまし顔でお茶に口をつける真冬に戦慄したような目を向けながら、福佐は口のなかで言葉を転がす。

 

「あ、あの……!」


 そんな応接室の中で、小さく、しかしはっきりと穂乃花が声をあげた。


「それで、その、対探課が〈神匠〉を募集してるって、本当に本当なんですか?」


「っ、ええもちろんです」


 穂乃花の真剣な声に福佐刑事も「そうだ本題はこっちだ」とばかりに意識を即切り替えた。


「知っての通り警察も万年人手不足でして。相応の戦闘力が求められる対探課はその傾向が特に著しい。捕まえるべき犯罪者と比べて圧倒的な実力差がなければ捕縛に手間取り周囲に被害を広げてしまいますからね。そしてそんな実力者はなかなかいない」


 福佐刑事は今回の緊急募集について穂乃花へ丁寧に説明を行う。


「そんななかで可能性に満ちたユニークスキルの冷遇や間違った育成を放置しておく手はないんです。あまりに都合の良い雇用条件を信じられないのは当然ですが、そもそも最初からこのくらいやってしかるべきなんですよ。……いやほんと、これだけの大事件がなければダンジョン素材採取量増を優先したいお上は警察に実力者が偏るような案を絶対に通してくれないからマジで感謝してて……」


「本当に……〈神匠〉をそこまで評価して募集を……」


 最後の愚痴めいた極小さな囁きは聞き逃しつつも……穂乃花は福佐刑事の話を真剣に吟味していた。


 カリンと真冬は安易に口を挟まない。

 なぜなら今日の主役は穂乃花であり、2人は場を整えただけ。

 降ってきたチャンスを吟味し選択するのは穂乃花自身がやるべきだと、3人の間で自然と決まっていたのだ。


「ダンジョンアライブで観ましたけど、やっぱり本物の実力者ってあんまり取り締まり側にいかないんですのね~」などとカリンが呟くなか、穂乃花はさらに質問を重ねる。


 たどたどしく幼い質問だ。

 しかしそれでも「ただ紹介されたから」で安易に進路を決めないよう確固たる意思で募集要項と相手そのものを見定める。


 福佐刑事もその質問に真摯に答えた。


 下層以降の素材しか使えない〈神匠〉の育成については、対探課が日頃から犯罪者逮捕時に連携しているいくつかの信頼できるトップクランに協力を要請すること(これにより特定のクランに穂乃花=カリンとの繋がりが偏らず角が立たない)。


 鍛錬も仕事のうちであるため育成期間中もしっかり給料は支払われること。


 同時に育成期間中は希望するなら高校への復学も可能であること。


 等々。

 気になる点、不安点をしっかりと確認していった。

 そして、


「ただし、もちろんこっちも慈善事業じゃない。相応の実力がつき次第、待遇に見合う働きを求めることになる。今回の緊急雇用で解消されるかもしれないけど、正直かなりの激務ですからね。週休二日というのもなにか事件が起きればあってないようなものになるし……場合によっては、僕らがふがいないせいで野放しにしてしまっていたブラックシェルに所属していたときより大変な現場に駆り出すこともあると思います。それが対探課ですから」


「……っ」


「けどもしそれでも構わないなら、僕たちは是非〈神匠〉持ちの皆さんを――素晴らしい素質を見せてくれたあなたを採用したいと思っています」


 福佐刑事は真剣な顔でそう締めくくった。

 

「……」


 都合の良い面だけでなく、本来なら隠しておきたいだろう部分についてもしっかりと説明してくれた刑事を前に、穂乃花はいまいちど提示された条件と自分の気持ちを確かめるように口をつぐむ。


 そして、決意に満ちた目でカリンにちらりと視線を向け、お互いに頷いたあと、


「……本当に私なんかでいいなら……そのお話、是非受けさせてください」


「っ! 本当ですか!」


「はい、よろしくお願いします……!」


 ばっと顔をあげて身を乗り出す福佐刑事に、穂乃花が改めて頭を下げる。


 それはろくでもないクランに酷使されてきた少女がようやく憧れを目指すための正式なスタートラインに立てた瞬間。


 そして――発足の経緯からのちに裏で「お嬢様部隊」と呼ばれるようになる対探課の特殊部隊。その絶対的な切り込み隊長〈黒瞬鬼〉として犯罪者たちに恐れられることとなる女刑事が誕生した瞬間でもあった。




「ぶへぇ。どうなることかと思ってましたが、なんとか上手いことまとまりそうで良かったですわ~。わたくし難しい話とかよくわからないので、穂乃花様にとって最良の結末に辿り着けるかどうかぶっちゃけ不安だったんですの」


 穂乃花が正式な採用に必要な書類や手続きの説明、母親も交えた最終確認、そしてブラックシェルとのアレコレについて話すため別室に移動したあと。


 カリンはソファに寄りかかってほっとしたように息を吐いていた。


「けど警察の方が採用してくださるというならもう安心ですの。わたくしはなんかちょっと警察って苦手ですけど穂乃花様には合うようですし。これで一段落ですわね!」


「いやぁ……どうかしらね」


「え?」


「頑張りな。あんたには多分まだ仕事が残ってるよ」


 真冬の意味深な言葉にカリンは「?」と首を傾げる。

 はて、これ以上なにか自分にできることがあっただろうか。

 穂乃花が望めばまだ彼女の鍛錬に付き合うつもりではあるが、別に仕事というほどのことではないし。


「あ、そうそう! 実はカリンお嬢様にひとつ相談したいことがあったんですよ!」


 カリンが不思議に思っていれば、穂乃花を別室に送り届けた福佐刑事が「忘れてた!」とばかりに駆け戻ってきた。


「なんというか、今回の緊急採用って正直言って現実味のない話でしょう? それこそ君たちが直接話を聞きに来たように半信半疑の人も多いと思う。細かい募集要項は記者会見で説明するのも限界があるし、そもそもたった一度の会見じゃ〈神匠〉持ちの人たちに届いてない可能性もある。僕たち警察が横入りするような形になっちゃってることに不満を持ってる人たちもいるだろうし……そこで是非とも頼みたいことがあるんだけど――カリンお嬢様、コラボ配信ってやつに興味ありません?」


「ふぇ?」






 ――そしてその夜。


『視聴者の皆様へのお知らへ。明日の配信はわたくしのチャンネルル初のコラボ配信(?)になりますわん! お相手はなんと……警視庁様ですの!』



〝は?〝

〝は?〝

〝草〝



 カリンが突如トゥイッターアカウントに投下した(動揺で)誤字だらけの呟きに、ネットは今朝までとは違うどよめきに包まれるのだった。


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