決闘・3

とは言え、何の技を出そうか。

強力な技を出そうと思ったのはいいけど、体力的にあまり派手な技はできそうにない。

技を出しても、それで仕留めきれなかった上に疲弊して隙ができ、被弾しては意味がないからだ。


どうしようか…と考えて、一つ思いついた。

正直賭けに近いけど、試してみよう。

「[血戦の鏑矢]」

特殊な矢を気迫と共に打ち上げ、場にいる味方の体を軽くしつつ反射速度を上げる。

少し分かりづらいかもしれないけど、要は相手の攻撃を避けやすくなり、また自身はいろいろと体を動かしやすくなるのだ。

なので、回避面と攻撃面を同時に強化できる優秀な技だ、これは。


まあ、これを使ったのは攻撃のためじゃない。寧ろ逆で、回避と防御のためだ。

この技は体に溜まった疲労を取ることはできないけど、一時的に軽減することができる。

体を軽くするというのは、言い換えれば体の動きを制限している負荷を取り除くということでもあり、疲れはその一つだ。だから、この技を使えば肉体の疲労も無効化できる。


ちなみにこの技は元々弓を扱う戦士の間で生み出された技で、その効果の代償として肉体への負担が大きく、屈強な肉体を持つ彼らですら短時間で技を解除して休憩を挟むのが推奨されているという。

彼らとは体格も体力もまったく違う私が使うのはかなりリスキーだけど、どうせ私はもう長くない。それに、これはあくまで時間稼ぎでしかない。


向こうが「矢の雨」を使ってきた。

いつもと同等か、それ以上に俊敏に動き回って矢をかわす。

変に体をひねったりしたので、観客が驚いていた…体が柔らかくてよかった。

それに、一発だけなら受けてもいいとは言え、このままでは危ないことに変わりはない。命がかかっていると思えば、これくらいの動きをしても不思議はないだろう。



なんとか技を避けきり、最後に宙返りを決めた私は両足を広げて片手を地面について着地した。

相手を見ると、すぐに次の技の構えを始めていた。おそらくは、「ストームショット」を放とうとしているのだろう。

「ストームショット」とは魔力でコピーした5本の矢を高速で真っ直ぐに撃ち出すという技で、風属性を持っている。私は使えないけど、昔同族が使っているのを見たことがある。

「マルチボルト」と同じく1本あたりの威力は低めだけど、1本が命中すればもれなくすべて命中するから結果的に結構な威力になる。


これはちょっとまずい。ストームショットは5連続の攻撃だから、残像盾の「次の攻撃を1回だけ防ぐ」という効果だけでは無効化しきれない。

かと言って、回避できる自信はない。技の効果で体が軽くなっているとはいえ、高速で飛んでくる連続攻撃をすべて避けられるかは微妙だ。

でも、避けなければならない。


相手の動きをよく観察し、確実に攻撃を回避するよう精神を張り詰める。

向こうが矢を番え、弦を引き絞り…放とうとしたその瞬間に、私は体を右によじった。

さらにそのまましゃがみ、飛び退き、側転し、ジャンプ…といった流れを高速でやった。

これで、今の技の矢はすべて回避できた。あとは…。



「っ…!」

油断した。一瞬の隙を突かれて、追撃を受けた。胸に、1本の矢を受けた。

特効がある矢を軽減なしで食らうと、かなり堪える。私は地上に落ち、胸を上にして倒れた。


これによって私の敗退が決まり、次の人…ライマーの出場が決定した。




「アレイ…!」

場外へ降りてすぐ、龍神さんが心配してくれた。

「だ、大丈夫です…矢はもう抜きましたし、命に別状は…」


「ならよかった…すぐに回復しよう!」

彼は手を差し出し、月の術を唱えた。

「[ルナヒール]」

空から降り注ぐ柔らかい月光がスポットライトのように私を照らし、傷を癒してくれる。

痛みが消えたと同時に、私は倒れた。


「アレイ!」


「はあ…ちょっと、疲れて…しまいました…どうか、休ませてください…」


「ああ…よく頑張ったな」


外に出るわけにはいかないので、先に敗退したラステ同様に待機席の後ろの空いた席で寝そべった。本当は座りたいところだけど、疲れてこれが精一杯だ。


「ああ…お前さんもこっちに来ちまったか」

ラステは皮肉げに笑った。その背中には、治癒力を高める効果がある包帯が巻かれている。

メレーヌさんが巻いてくれたのか…というか、いかに殺人者といえど特効武器で攻撃されれば、単に回復魔法を使うだけでは傷を癒しきれないのか。


「仕方ないわ。向こうは矢のダメージを半減させる技を使ったみたいだし、それに…水棲特効の武器を持ち出してくるとは思わなかったもの」


「そうか?オレは十分あり得ると思ってたがね」


「そう?」


「ああ。そもそもこの裁判は奴らがふっかけたものだ。こうなることくらい、予想はついてたはずだろ?」


そう言われると、確かにそうだ。彼ら…もとい再生者流未歌が、こうなることを予測できなかったとは考えづらい。

マトルアでの私達の経験を知っているなら、尚更だ。


「でも、どこで特効武器なんか調達してきたのかしら。あれらは、どれも貴重品なはずなのに」


「それはわからんが…オレの予想では、他の再生者どもから貰い受けたんじゃないかと思うぜ」


「他の再生者、というと…」


「お前さんらがまだ倒してない奴ら…ラディア、メレナ、ルベロあたりだな。まあ正直、星羅こころって可能性も十分あると思うけどな」


「こころ…?」

言わずもがな、私のお姉ちゃんだ。

龍神さんとの旅に出てから、一度も会ってないけど…お姉ちゃんが、私を殺せるかもしれない武器を他の再生者に流通させるなんてことをするだろうか。

姉は、私のことをとても大切にしてくれているのだが。


「ま、信じたくない気持ちはわかるぜ。それにこれはオレの勝手な考えであって、真実じゃあない。だから、そんな深く考えてもらわなくてもいいぜ」


「そうね…」

確かに、お姉ちゃんは再生者の中でも特に裕福だったはず。でも、だからといって特効武器を他のアンデッドや再生者に流すだろうか。

何より、姉が間接的に実の妹を殺すような真似をするだろうか。


他の人に言わせれば、それも十分あり得ると言うかもしれない。でも、私にはどうしてもそうは思えなかった。

姉は私と同じく、早くに両親を亡くしている。姉の肉親は、今や私だけだ。唯一の肉親を殺すなんて、いくら自分がアンデッドになったからといってするはずがない。

お姉ちゃんは、そんな人じゃない。


そんなことを考えているうちに、まぶたが重くなってきた。

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