弓の訓練
案内されたのは、向かいの壁に的がたくさんかけられた部屋。
「さて、ここで訓練をするわけだが…
その前に、君はどんな弓を使ってる?そしてそれを、普段どう持ってる?」
「短弓を、横に持って使ってます」
「今使ってる弓を、よく見せてくれるか?」
「はい」
私はいつも使っている弓と矢筒を渡した。
すると彼は所々を触りながら見始めた。
「どう…ですか?」
「弓は全体的に色が綺麗だし、弦も丈夫だ。
矢の羽根も矢尻も、綺麗につけられてる。
手入れは自分でしてたのか?」
「はい。レークにいた時から、矢は自分で作っていましたから」
この弓は私が水兵になった時に水兵長、つまり私達を取りまとめる人から渡されたもので、今までずっと大切に使っているものだ。
「器用なもんだな。
…これは、上手く扱えれば限りなく強い。
試しに、適当な的に射ってみろ」
弓に矢をつがえ、的のうちの一つを狙って撃った。
中心に刺さった…と思ったのだけど、微妙にずれてしまっていた。
「ああ…」
「こっちは要訓練みたいだな。
弓兵に求められるのは、距離に関係なく正確に敵を射抜く技術と、何度も弦を引けるだけの体力だ。
君は単純に弓だけを使う者ではないが、それでもある程度の腕は必要だろう。
何より武器と術、両方の腕を上げれば、やがては互いを組み合わせて使う事もできるようにもなる。
君の仲間を解放するためには、戦いは避けられない。
だからこそ、君自身が強くならねばならん。
わかるな?」
彼の問いに対し、
「わかります」
私はただ、そうとだけ答えた。
それから、訓練の日々が始まった。
迅速に、かつ正確に射撃する。
ただそれだけの事だったけど、実践するには流れるような動作をしなければならず、最初はなかなかついていけなかった。
彼は刀を差していたからちょっと意外だったけど、
弓の腕も相当なものだった。
それは初日に私が射抜けなかった100m先の標的を、彼がいとも簡単に射抜いたのを見て、すぐにわかった。
さらに、かつて私が命を落とした原因であり、以降避けていたかわし射ちや、時間差で上からの攻撃を狙う空射ちなどの技も訓練してもらった。
そして、1ヵ月が経過した。
私は、これまで教わってきた技全てを身につけた。
さらに最近は、氷の術と弓技を組み合わせた技も使えるようになってきた。
「弓技 [白(しら)矢(や)霙(みぞれ)]」
一度に複数の矢を放ち、空中でそのすべてに氷の力を纏わせ、降らせる。
ちょうどさっき身につけた、私の特別な技だ。
「見事だ」
「龍神さん!」
「思った通りだった。
君はこの1ヶ月で、めざましい成長を遂げた。
普通は1ヶ月やそこらではここまで成長できない。
よくやった!」
「私を助けてくれただけでなく、弱く不甲斐ない自分に甘んじてしまっていた私に、自信と成長するきっかけをくれた…
本当に、ありがとうございます…」
「俺は大したことはしちゃいない。
それと、もう君に教えることは何もない。
これからは、自分自身で新たな術や技を生み出し、自分自身で強くなればいいんだからな」
彼は、私が短期間でここまで強くなれたのは私に才があったからだと言う。でも私は、彼が私の指導者だった事も関係していると思う。
殺人鬼は、元々戦闘能力が非常に高い種族だと言われている。
さらに彼は性格もいいし、人になにかを教えるのも上手いと思う。
彼は殺人鬼である以上、冷酷で残忍なはず。
けれど彼の奥底には、確かな温かみがあると思う…。
何か、人を惹き付ける魅力がある。
そんな人が私の指導者となり、私をここまで保護し、育ててくれた…
その事に対し、私は深く感謝の礼をした。
「ありがとうございます!」
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