出会い

猛吹雪の中、雪に足を取られながら必死に歩く。

今はどのへんだろう…

もう、何日歩いたかもわからない…


寒い。喉が渇いた。お腹が空いた。疲れた。


城での兵役に耐えられなくて、1人逃げ出したのはよかったけど…

こんな吹雪にあうなんて思ってもなかった。


そして…

とうとう倒れてしまった。

立とうとする気力もわかない。

雪に埋(うず)まり、動けない。


冷たい風と猛烈な雪が、追い討ちをかけてくる。

きっと、私はこのまま埋まってしまうんだろう。

そして、凍死してしまうんだ。


でも、それも一つかもしれない。

私には、もう生きる希望も目的も意味もない。

それに私は一度死んだ身。今さら死ぬことなんて…




…いや、まだ未練がある。

故郷に帰りたい。

育った町に戻りたい。

懐かしい人たちに会いたい。


でも、それは無理そうだ。

手足に力が入らなくなっていく。意識が朦朧とする。

いよいよだ。


せめて最期にもう一度、みんなに会いたかった。

二度目の私の人生は、こんな所で終わるのか。    



 



やがて、暖かい空気を感じた。

ああ、やっぱり私は死んだのか…


…違う。

手足の感触がある。光を感じる。パチパチという音が聞こえる。

重い瞼(まぶた)を開くと…

そこは洞窟の中のようだった。




死んでない!私、生きてる!


寝起きのように呻きながら、ゆっくりと体を起こす。


私の目の前には焚き火があった。これが音と熱と光の正体か。


それにしても…

今まで、焚き火をこんなにも暖かく、そして尊く感じた事はなかった。


目の前の焚き火が、まるで命の灯火のように、かけがえのない物のように感じられた。


「起きたか」


声の方を見ると、1人の男性が立っていた。


「わ…私…」


「雪の中で倒れてたんだ。見つけた時まだ脈があったから、担いでここまで運んできた。

体を暖めてやればなんとかならないか…と思ったが、上手く行ってよかった」


「そうですか…」

男性は私よりも背が高く、青地に黒い線が入った服を着ている。

そして、私の身の丈ほどもある刀を背に差している。


この人も異人いじんか…

そう思っていると、

「食べな」

何かを目の前に差し出された。

それは、乾燥させた果物のようだった。

「え…?」


「その様子じゃ、暫(しばら)くまともな物を食ってないだろ?このままじゃ、いずれ栄養失調でくたばる。

これはドライフルーツだ、安心して食え」

私は言われるがまま、それを口に入れた。

「…」


「どうだ?」


「…美味しいです」


「そうかそうか。まだあるから食べていいぞ。

あまり多くはないがな。…あ、これ水な」


「はい、ありがとうございます」

私は夢中でドライフルーツを食べ続けた。

そして…

「ご馳走さまでした…」


「腹は膨れたか?」


「ええ、まあ…」


「足りないとは思うが、何も食べないよりはましだろう。

寒くはないか?」


「はい。大丈夫です」

体はだいぶ暖まったし、大丈夫だと思う。

「あ、あの…」


「ん?」


「助けてくれて、ありがとうございます」


「気にするな。雪の中で倒れてる娘を、見捨てる訳にはいかなかった。それだけだ」


「…本当に、ありがとうございます。

私は…」


「水兵、だろう?その出で立ちを見れば見当はつく。

こんなとこでうろうろしてないで、港に帰りな?」

そう、私は水兵。

この世界、黒い世界ノワールに存在する、人間とは別の人型種族、"異人"の一つ。

「はい…でも私は、みんなに会えないんです」


「どうしてだ?」

この人はきっと信頼できる。だから、話してもいい。

なぜか、そんな気がした。

「長くなってしまうんですが…」

私は、これまでの「全て」を話した。

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