第16話 醜い嫉妬

「私って完璧人間じゃない?だからね、嫉妬なんて感情とは無縁だったの」


重たい空気のままこちらの目を見て古宮が語りかけてくる。性格以外はな、というツッコミはできそうにない。


「でもね、出会ってしまったの。東凛という怪物に。彼女は私が届かなかった主席枠で入学。私がNo1になったミスコンでも東さんが出ていれば…って声があちこちから聞こえたわ。その上コミュニケーション能力と人柄の良さも備えてる。彼女は全てにおいて私の上位互換なの」


前言撤回。あれと比べたら古宮の方がだいぶマシな性格だと思う。


「私が初めて彼氏をつくったのも私自身の価値を高めるためよ。誰かさんの補欠枠とはいえ一応主席で合格していて容姿だってトップクラス。そんな彼だから付き合ったの」


「東さんには男の噂もなかったし当分は勝った気がして気分が良かったわ。そう、貴方と同じホテルから出るのを見るまではね…」


アキといい古宮といい、なんで他人がラブホから出てくるところを見ているんだ。目を逸らすのがマナーだろ。


「清水くんから聞いたわ。貴方って本当は主席だったのに、授業料免除の枠を彼に譲るために降りたんでしょ?それにタイプの問題とはいえ、清水くんより身長も筋肉もあって顔も良い。私の上位互換である東さんと、清水くんの上位互換である貴方。そんな事実を知った私の気持ちがわかるかしら?」


好き勝手話をさせとけば不快なことを…


「これ以上俺の親友を貶すようなら頼み事は聞かないからな」


「ごめんなさい。それは困るから訂正させてもらうわ。清水くんは私には勿体無いくらい心が綺麗な子だったわ」


そんな美しい心がお前のせいで翳りを見せているんだがな。


「まぁいい。それで?」


「私が東さんに勝つには価値ある物を身に纏うしかなかった。そんな時に現れたのが彼だったの。私の身体を好きにさせる代わりに、何百万もの高級品を買ってもらったわ。これで私はブランド品の数だけ価値が増すの」


しょうもない理由だがこういう女性は割と多い。自分磨きを諦め、既に価値があるものを所有することでまるで偉くなったかのように錯覚している頭が幸せな者。。


それだけの稼ぎがあるなら身の丈合った物になると思うが、大抵は身体を売って男から貢いでもらう女ばかりだ。


ただ古宮がそれらを纏っていても何の違和感もないだろう。立派なお嬢様な訳だし。


「何故普段は持ち歩かないんだ?」


「私自身気づいているわ、そんなことをしていても東さんには勝てないことに。それでも私は、私の中の世界では一番じゃないと頭がおかしくなっちゃいそうなの。だから見せびらかしたいわけしゃないし普段はクローゼットの奥底よ」


そうか、気づいてしまった。古宮は誰かに本気で愛されたことがない可哀想な子だってことに。厳しい家庭で愛を感じたことがなかったのだろう。心の底では誰かに認めてもらうことを求めているのに、他人からの愛の形を知らないから受け取ることができていない。


アキは本気で古宮のことが好きだった。古宮がそのことに気付けていればこんな復讐はなかったのだろうか。今更考えても手遅れだがつい思ってしまう。


「興味深い話だった。教えてくれてありがとう。だがその話と俺への頼みがどう関係するんだ?」


「滝沢くんには今年のミスターコンテストに出てもらいたい。そして東さんをミスコンに出るよう説得してほしいの」


確かに凛は俺が出れば自分も出ると言っていた。あいつのことだからおそらくガチだ。


「自ら敵わないと言っている相手と戦う意味があるのか?余計傷つくだけだろ」


「その辺は私にも作戦があるから心配せずとも大丈夫よ。お願い、私にチャンスをください」


復讐相手の頼み事なんて聞く必要全くないが、あの凛と古宮をぶつけたらどんな反応が起こるのか気になっている自分もいた。


「分かったよ。貸し1な?」


「本当?!ありがとう。正直ダメかと思ってたわ」


さっきまでの暗い雰囲気は嘘かのように笑顔で頭を下げられる。こいつ落ち込んでる演技か?!


「その代わりミスコンでは面白いもんを見せてくれよ」


「ええ、楽しみにしておいて」


そう微笑む古宮は、自ら美少女を名乗るだけあって美しかった。


でも古宮の言うこと聞いたって知ったらまた機嫌悪くなるんだろうなぁ、凛のことだし。

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