第12話 クズ同士のマウント

横ですやすやと寝る女を眺めながら、今後の計画を考える。


おそらく冷静になった古宮はあれが仕組まれた出来レースだと気づくだろう。


だがそれはどうでも良い。気づこうか気づかまいがあの研究室において俺を頼らないという選択肢は完全に消した。


俺は従順な女の方が好きだが復讐が目的にあるのであれば、生意気な女を堕とした方が気持ち良いだろう。


このまま少しずつ古宮の心の内に踏み込んでいくのが確実だが、それではナンセンスだ。


もっと俺を嫌わせ、それなのに頼らざるを得ない心のギャップを生み出した方が、壊れた時面白くなる。


不安定な古宮の地雷を踏み抜かないようするのは大変だが、まぁ俺ならできるだろ。


ちなみに何故俺が難しいことを考える時高確率で事後なのかというと、やっぱり賢者タイムは偉大であるからだ…


珍しく女を先に返し1人夜の街を歩いていると、見覚えのある2人に運悪く出会ってしまった。


「あら滝沢くんじゃない」


最悪だ。今こそ無視すべき場だろ。一回話した程度で馴れ馴れしくくんなっての…


見覚えるのある2人とは古宮と浮気相手だった。


「人違いじゃないですか?俺は佐藤ですよ」


お前頭いいだろ、察してくれ…


「私の記憶力を舐めないでほしいわ。帝大工学部建築学科2年、身長187cm血液型は不明、家族構成は父方の祖父母のみ。現在は1人暮らしをしていて趣味は女遊び。母校は…」


「お前の記憶力の良さは十分理解したからやめてくれ。何故俺が話したことないことまで知っているんだ?」


「私の元カレ兼貴方の親友から興味ないのに聞かされ続けたからよ」


うわーきまずい。


「そうか。忙しいから行かせてもらうぞ」


そのまま横を通り抜けようとすると、後ろからガシッと肩を掴まれた。こうなるから嫌だったんだよ…


「おい、お前は秋のなんなんだ」


浮気された元カレの親友とでも言ってやりたい衝動に駆られるが、なんとか理性で抑える。


「何って言われてもな。研究室が同じだってだけの他人だが」


「それだけで秋があんなに話す訳がねぇ」


馬鹿な割には勘は人並みに働くらしい。


「それならそこの女に聞けばいいだろ。頭使え」


「さっきからお前は何様なんだ?下の人間はそれ相応の対応をしやがれや」


「それに関しては同意だな」


「は?意味がわからねぇよ」


IQが20離れていると会話が成立しないというが事実のようだ。こいつに付き合う古宮を少し見直した。


「下のお前にはマナーがなっていないな」


「ハハハハハ!俺がお前より下?!俺の親父は医者だぞ?お前とは生きる世界が違うんだ」


真っ先に出るのが親なのか… 悲しい人間だな。


「それがどうしたんんだ?」


「バカなのか?年収3000万だぞ3000万。お前ごときじゃ5年働いても追いつけない額だ」


あまり人に見せるもんじゃないが、鞄から通帳を取り出し広げる。俺はプライドが高いからな、売られた喧嘩は全て買う。


「俺が3年で稼いだ金だ。桁は分かるか?」


そこには宝くじ1等を数回当てたくらいの金額が示されている。


全て高校3年間ホストやって稼いだ金だ。ヤバ目のメンヘラ女を寄せ付ける体質とホストという職が合っており、俺の一番になるためだけに数十人の女が訳分からん額使っていった。


ただ、その争いの中に桁違いの金持ちがいたので1位は常に固定だった。いつも猫のお面を被り顔を隠す彼女は、実は有名人だったのかもしれない。正体はいまだに不明だ。


「な、なんでお前みたいな奴にこんな大金が… どうせ犯罪だろ!卑怯者がよっ」


まぁ未成年だったし間違ってはいないないな…


「もう諦めろ。顔、金、学、全てにおいてお前は下なんだ」


「お前なんかに負けてるはずがねぇ!それにお前はこんなツラの良い女抱いたことねぇだろ?」


激情しながら目の前で古宮を揉みしだき始める。そういうのは他所でやってくれって…


「はぁ…これが俺の女だ」


そう言って東凛の写真を見せる。中身は終わっているが、見た目だけなら俺が出会った女の中でもダントツで良い。


凛と古宮は系統の違う美人だが、一般ウケ的にも凛の方がレベルが高い。凛がミスコンに出ていれば結果は違ったと言われるほどだ。出ない理由がまた厄介なものだが今は割愛する。


「そんな女一体どこで?!それに出会いがあったかどうかの違いだろ!そいつ俺に紹介しろよ」


もうそろそろ帰りたくなってきた。こんな奴相手にマウント取っても虚しくなるだけだ。


でも待てよ… あのヤンデレ女を回収してくれれば俺にとっても利益あるな。よし、


「別にいいぞ。こいつはうちの大学のカフェで昼間働いてるから、滝沢の紹介って声かけてやってくれ」


古宮を揉んでいた手を止め、相変わらずのアホ面をきょとんとさせている。


「お、おう…」


「もう用はないだろ。じゃあな」


流石にこれ以上は絡みにこないらしくやっと解放された。こうなったのも全部お前のせいだぞと古宮を睨むと、アホ男に聞こえないくらいの声で囁かれた。


「私の方が可愛いのに…」

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