純情サキュバスは愛しの君と契約したい!

吉華

プロローグ

「……何の真似だ? リリアム」

「だって、最近のハルトは私を避けてるから……こうでもしないと話を聞いてもらえないと思って」

 そう言うと、ハルトはぐっと押し黙った。沈黙は肯定と変わらない……やっぱり、彼は意図的に私を避けていたのだ。

「とりあえず、俺の上から降りてくれないか」

「やだ。そう言って逃げる気でしょ」

「逃げないから」

「やだ! 前も、そう言って目くらましして逃げた!」

 感情が昂ってきて、視界がじんわりと滲む。胸元を掴んでいる手に力が入ったからか、ハルトのシャツに皺が出来た。

「……リリアム」

 名前を呼ばれたので、涙はそのままに視線を向ける。諦めたようなため息を一つついて、ハルトは私へ腕を伸ばしてきた。それに逆らわずに、彼の腕の中に囲われる。

 久しぶりの彼の体温の心地よさを、じっくり堪能していった。柔らかい月光に照らされているようで、次第に感情が落ち着いてくる。

「――」

 ハルトの声が、耳元で響く。何を言ったのかと思った時には、意識は彼方の方へと飛んで行ってしまっていた。

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