第11話
「やってきたぜ」
時刻は夜。NTRは街はずれの怪しい二階建てのビルの前にやってきてました。
既に建物からは、いかにも危険そうな紫色のオーラがブワァーって出てます。
ここがサキュバスの本拠地であることは明白ですね。
「準備はいいかい、二人とも」
式上先輩の言葉に、俺とインは頷いた。
今回のサキュバス討伐作戦は以下の通りだ。
まずは三人でビルに侵入し、サキュバスの居場所を突き止め、強襲する。
次に式上先輩の発明ガジェットである煙幕玉やオトリくんを使って淫魔を撹乱。
そしてその隙に、青城からパクった麻酔銃をインが使って、サキュバスの動きを鈍らせる。
最後に俺がフライパンで後頭部をぶっ叩いて気絶させれば、見事に俺たちの勝利というわけだ。
サキュバスを捕まえた後は、縄で縛って警察に連行する手はずになっている。
最初から警察を頼らないのは……まず警察がサキュバスなんて存在を信じてくれないので、仕方がない。
式上先輩はこの世界ではエロモンスターがポンポン出ると言っていたが、それらはあまりに表沙汰にはなっていないようだ。
煙幕を防ぐゴーグルに記録カメラを搭載しておいたから、これで証拠映像と共にサキュバス本人を連行すれば、さすがにお巡りさんも信じてくれるだろう。
「俺が先行します。二人はカバーを」
「んっ」
「了解!」
家から持ってきたフライパンを片手に、ビルの扉を開けて顔を覗き込ませ、周囲の状況を窺う。
建物自体が古いのか、ところどころ照明が明滅しているが、基本的には明るいため視界は良好だ。
「誰もいない……か?」
見たところ無人だ。とりあえずは侵入しても問題なさそう。
よし、突入──
「……ぁ?」
突入しよう、と後ろの二人に声を掛けようと思ったのだが、頭がフラついた。
思わず手で額を押さえると、今度は強烈な睡魔が俺を襲ってきた。
「なんっ、だ……!?」
体のバランスが取れなくて、視界がぼやけて瞼が重い。
──まずい。これは何かしらの罠だ。
突然の異常事態に頭の回転が鈍り、今すぐにでも後ろの二人に『逃げろ』と言わねばならないのに、それが出来ず床に膝をついてしまった。
「コウっ」
「後輩くん! どうしたの!?」
二人が駆け寄ってくる。
ダメだ、こっちに来ちゃ──
「あらら。ボウヤだけかと思ったら、かわいい女の子が二人も釣れたわね」(ムチッ♡)
廊下の奥から響いてくる、若い女の声。
次第に暗がりから姿を明らかにしてきたその人物は、紅色の髪を腰まで伸ばしていて、全身の肌の色が薄紫色で、その肢体を黒色が基準の異常に布面積が少ない服で覆いつくしている。
頭には羊の様な歪曲した角。
そして腰回りにチラつく謎のヒモを尻尾だと理解した頃、既にその女は俺たちの目の前に立っていた。
その人間離れした姿と、なにより肉付きが良く、歩くたびに『ムチッ♡ムチッ♡』と意味不明な効果音が鳴っている様子から、俺は彼女をサキュバスだと判断した。
「ふふ……(ムチッ♡)入り口に催眠ガス撒き散らしといて正解だったわぁ。
まさかこんなにもあっさり引っかかるなんてね」(ムチッ♡ ムチチッ♡)
「きっ、さま……っ!」
ムチムチうるせぇなコイツ。
というか、まさか俺たちの襲撃を予期していたのか?
まずい、このままじゃ……!
「ぁ、れ? ぼく……なん、かっ、ねむ……ぃ……」
「先輩!」
入り口から入ったことで俺同様に催眠ガスを吸ってしまっていたのか、式上先輩が倒れてしまう。
インも若干ふらついていて、眠るのは時間の問題かもしれない。
──そんな。
まさか、こんなところで終わるのか?
こんなにもあっさり全滅して、俺はこのサキュバスに殺されてしまうのか?
クソ、ちくしょう、こんなはずじゃ。
初見殺しみたいな安直な罠に引っかかって終わるなんて、そんな馬鹿な話があるか。
どうすればいい。
この状況を打破するために、俺はどうしたらいいんだ。
「……っ、コウっ」
「イン……っ?」
催眠ガスで墜ちる寸前のインが、地面を這いずりながら俺に近づいてきた。
そして彼女は俺の顔に両手を添えると──
「んっ──」
「んむっ!?」
そのやわらかい唇を、俺の唇に重ね合わせた。
こ、こんな時に何を──
──チュドーン──
★
「──ハッ!?」
気がついたとき、俺たちはあの怪しい二階建てのビルの前に立っていた。
「準備はいいかい、二人とも」
隣にいる式上先輩が、少し前に聞いたことがあるセリフと、一言一句違わず同じ言葉を発した。
ガジェットを詰めたリュックを背負い、やる気満々で吶喊しようとするその光景には、とても見覚えがある。
「……だ、だめですっ」
つい、反射的にそう言ってしまった。
ふぇ? と式上先輩が首を傾げる。
しかしそう言わなければならなかった。
俺はいま激しく混乱しているから。
「いっ、イン……?」
後ろを振り返ると、そこにいたインは無表情ながらも、どこかやつれているようにも見受けられた。
「お前、まさか──」
「……うん」
一言で言えば、インは自殺することで強制的に時間を巻き戻した。
てっきり残機が減る条件は俺と同じだと思って、本人には聞いていなかったのだが、インは俺と違って『キスをすると爆発して死ぬ呪い』を抱えているらしかった。
俺よりも行為のレベルが低い分、この世界では簡単に発生する可能性が高い、非常に危険な呪いだ。
そんな呪いを逆手にとって、彼女は咄嗟に俺とキスをすることで、詰んだ状況をリセットしてくれた。
俺も爆発に巻き込まれて死んだと思ったのだが、どうやらインが先に死んでその時点で巻き戻ったからセーフだった、ということらしい。
……にしても、あのサキュバスにはしてやられたな。
事前に俺たちの動きを察知している、という考え方をしていないのが迂闊だった。
流石、世界で一番有名なエロモンスターというだけのことはある。
一筋縄ではいかないらしい。
今回ばかりはもっと対策が必要、ということになった結果、俺たちは一時的に撤退した。
そして翌日。
遂に完成した式上先輩お手製最強マスクを身に着け、俺たちは再びサキュバスの本拠地に訪れたのだった。
俺の発情フェロモンすら弾く高性能マスクの前では、やつの催眠ガスなど塵に等しい。
うちのロリっ子の技術力は世界一だ。
「今度こそ。準備はいいかい二人とも」
「はい先輩、バッチリです」
「私も大丈夫」
今日は一日中戦闘訓練をしまくって、三人で気合を入れ直してきた。
そしてサキュバスメタの最強装備でここに来たため、もはやあのムチムチ女に負ける道理はない。
「突入ーっ!!」
堂々と入り口から三人で吶喊し、武器を構えて廊下を駆け抜けていく。
サキュバスはビルに何者かが侵入すると自ら赴くことが判明しているため、わざわざ探さなくても──ほら来た。
「ぁ、あれっ!?(ムチッ♡)入口には催眠ガスがあったはず……!(ムチィッッッ♡)」
「フッ。そんなもの、ジーニアスな式上先輩の発明品の前では無力もいいところだぜ」
褒められた~♪ と喜んでクネクネしている先輩はさておき、自らの力が通用しなかったことにサキュバスは困惑している。
いい気味だ。その顔が見たかった。俺たちに恐怖するその顔がぁ……ウッヒッヒ。
「コウ、悪い顔してる」
目の前にはもっと悪い奴がいるから問題ない。
よし、じゃあ本格的に討伐開始だ!
「ぐぬぬぅ……!(ムーチムチッ♡)学園生風情が生意気なっ!
こうなったら(ムチッ♡)わた(ムッチム♡)やっつけ(チムチムっッチムチ♡)」
効果音がムチムチうるさすぎてサキュバスの声が聞こえてこない。
ナイスバディなのも考え物だな。
その点こっちのチームは優秀だ。
二人とも別におっぱいはそこまで大きくないし、なんたって片方はロリだからな!
ムチムチのムの字もないぜ!
「後輩君いま失礼なこと考えてないかい?」
「気のせいです! ほらサキュバスが来ますよ!」
「かくごし(ムチムチっ♡)こ(ムチッ♡)(ムチチィ♡)(ムッチムチムチィムッチムチッッッ♡♡♡)」
あああぁぁぁムチムチうるせぇ!!!
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