討伐依頼を受ける
「じゃあこれで依頼受領となります。本当にお気おつけくださいね」
「任してください!ンガハハハハ!」
ンガハハじゃねぇよ......、結局エンシェントエルフの討伐依頼受けちゃったじゃないか......。
「んじゃ!ありがとうございます!1週間後にまたここにくればいいんスよねぇ~?」
「はい、1週間後のお昼までにはここへいらしてください。集まり次第討伐についての説明があるそうですから」
「了解ッス!じゃあまたぁ!」
シュタッと右手を上げて颯爽とギルドを出ていくゼニの後を小走りで追いかけオレもギルドを出た。
「お前よぉ……本当に大丈夫なのか?ミズィさんにもやめとけよって言われただろ?」
「あぁん?大丈夫だって!たかがエルフだろエルフ!ミズィさんもエルフは強いからやめとけって言った訳じゃねぇだろぉ?たぶんなんかこう、森が迷ったりしちゃうから面倒なんだって事だよ、たぶん」
たぶんそうじゃ無いだろ。
「まぁー……受けちゃったもんは今さらだからなぁ。とりあえず後1週間ある。ちゃんと準備だけはしておこうぜ」
「おおよ!さしずめ最初は今日の宿を探す所からだな!風呂に入りてぇ!」
そうだった!まだ今晩泊まる所すら決めてなかったんだ!てか今何時なんだろ?どこかで時計買っておけば良かった。
「ところで今何時なんだ?」
「んあ?ああー、もう夜の8時か……宿探すなら急がねぇとなぁ」
「よっしゃ、さっそく行くか!」
気持ちを切り替えて行こう!
「じゃあ1週間分まとめてで5万エルになるがいいかい?」
宿屋のカウンターのおばちゃん、見るからに気前の良さそうな恰幅のいいおばちゃんだ。オレとゼニは宿屋が並ぶ通りを歩き、そんなに高そうじゃなくて、それでいて質の悪くなさそうな宿を外観だけで探してみた。それで1番最初に入ったこの宿がゼニの理想通りだったようで即宿泊が決まった。
「1泊7000エルちょっとでこの宿なら安すぎじゃねぇかぁ!?おばちゃん!?」
「あら、嬉しい事言ってくれるねぇ~!まぁここは私と旦那と、旦那の弟夫婦でやってるからそんなに大したサービスは出来ないのさ。それでもうちの旦那が作る料理はそこいらの宿には負けないよ!楽しみにしときなよ!」
そう言って快活に笑うおばちゃんはとても良い人そうだ。宿自体も清潔感もあるし、ゼニが譲れないって言ってた風呂も、そこまで大きくは無いが1階に大浴場があるらしい。何より自慢の料理が楽しみだ。
「まぁ値段の分、部屋はちょっとばかし狭いが、男1人寝泊まりするには十分さぁ!女の子連れ込むなら話は別だけどね!」
おばちゃんはまた笑いながら部屋へ案内してくれた。2階の奥、ちょうど2部屋ならんで空いていたのでそこへ案内してくれた。
「はい、これが部屋の鍵ね。あんたらみたいな駆け出し冒険者でもちゃんと鍵はかけるんだよ。1階のカウンターにはいつでも誰かしらいると思うから、何かあったら言ってくれればいいさ。ご飯は1階の食堂に行けば食べられる。宿代にはご飯の代金は入ってないから都度会計しておくれ。朝は6時から、夜は20時までしかやってないから、それ以外の時間にご飯にするならその辺の飯屋に行くといいさ」
「ありがとうございます。じゃあ明日は朝ご飯からごちそうになろうかな?」
「そうするといい。今日はもう遅いんだ、部屋でゆっくりするといいさ」
「だな、なんか疲れたぜ」
「お前が余計な揉め事起こすからだろ。頼むから今日はもう大人しく寝てくれ。オレの方が遥かに疲れてて眠い」
「ははは!じゃあすぐ寝ちまいなよ!」
そう言うとおばちゃんは下へと降りていった。
「だな、じゃあお互い部屋でゆっくりするとするか。また明日の朝飯の時にだな。7時ぐらいでいいよなぁ?」
「ああ、じゃあそうしよう、明日の朝7時にな」
そう言ってオレとゼニはお互い部屋へと入った。あ、7時って言ったけどオレ時計持ってないや。
部屋に入ると中は6畳程の広さで、そこに簡素なベッドと小さな机、その横にゴツイ化粧台の様な鏡の付いた棚があった。はっきり言って狭い。まぁ不満と言えばそれぐらいだ。別に家具が古い訳でも無く、さらにとても綺麗だ。これでこの値段なら十分お得だ。
とりあえず荷物を床に放り投げベッドにダイブ。おっと靴を履いたままだった。このアメリカンスタイルにはまだ慣れないなぁ。あ、そうだ、靴脱ぐ前にドアに鍵かけなきゃ。
ドアに鍵をかけ再びベッドへ。そしてそのまま横になる。そして今日の慌ただしかった1日を振り返り頭の中を整理しなきゃ。
討伐依頼に出発するまでは後1週間ある。それまでにやる事は、まずは体力作りか……。まだ少しお金に余裕もあるから、もっと動きやすい服と靴を買わなくちゃな。筋肉痛はヒールで回復出来ることが分かったから、普通の人よりはキツめのトレーニングもありだな。後は今日買ったスクロールを試さないと。使用感や威力、射程距離なんかはちゃんと把握しておかなきゃ。たぶん1週間なんてあっという間だ。とは言え1週間、この世界へ来て初めての大きな街だ。この世界の事や常識なんかを知るいい機会だ。とにかく時間を無駄にしないようにしよう。
そんな事を考えていたら、いつの間にか眠りに落ちていた。
「あれ……?寝ちゃってたのか」
窓から差す朝日で目が覚めた。カーテンすら閉めていなかったみたいだ。服もそのままだったけど、辛うじて靴は脱いでいたみたいだ。
「いや本当、良く寝た」
昨日はよほど疲れていたんだな。夢すら見ないで一気に朝になってた。この世界に来てから夜はものすごく熟睡出来ている。たぶん前の世界では1日中ベッドの上で過ごす事も多かったし、こんなに歩いたり走ったり戦ったりする事も無かったからな。そりゃあ疲れるか。いや普通戦うなんて事無いだろ。なんか感覚麻痺して来てる。にしても転生なんだから、体も体力ももうちょっと強くしといてくれても良さそうなものなのにな。なんで前の世界とそっくりそのままの姿で転生なんだよ。そこはもっとこう、めちゃくちゃイケメンとかにしといてくれるサービスは無いもんかね?
「どうでもいいけどお腹空いたな……」
ゼニ起きてるかな?てか今何時なんだ?反射的に部屋の壁に時計を探す。この辺は前の世界から体に染み付いた習慣なんだなあ。壁に時計がかかっている、それはこの世界でも普通なのかも知れない。昨日は疲れすぎてて気が付かなかったが、想像通り壁には時計がかかっていた。
「6時過ぎたところかぁ」
ちょっと早い気もするけどお腹空いたしな。6時から食堂開いてるって言ってたな?ダラダラする必要も無いからもうこのまま起きちゃおう。
ベッドの横で靴を履き、化粧台の鏡で顔と寝癖を確認。うん、これぐらいの寝癖ならまぁ食堂行くぐらいはいいだろ。そして部屋を出た。
まずは隣のゼニの部屋をノックしようと思ったら、ちょうど階段を登って来たゼニと出くわした。
「お?起きたか?おはよう」
「おはよ。ゼニはもう起きてたんだ?どこ行ってたんだ?」
「あぁ、毎日の日課だよ。朝イチの鍛錬だ」
あ、よく見たら剣を1本持ってる。こいつこう言う所は変に真面目なんだよなぁ。
「トウゴはもう朝飯行くのか?」
「んあ?ああ、そうそう、ゼニは朝ご飯食べたのか?」
「いんや、まだだ。一緒に行こうぜ。ちょっと準備してくるから先に食堂行ってていいぞ」
そう言って部屋に戻ったゼニ。じゃあ先に食堂に行くとするかね。
1階に降りて食堂へ着くとカウンターの向こうから、いかにも寡黙そうな男性がチラリとこちらを見た。
「おはよう、飯にするのかい?」
寡黙な男性は短く用件だけを聞いてくる。もしかしてこの人があの明るいおばちゃんの旦那さんなのかな?
「あ、ええっと、そうなんですけど、連れが来るまで待っててもいいですか?」
「構わんよ、来たら注文してくれ」
そう言って男性はまた仕込みに戻ったみたいだ。周りを見ても客は1人もいない。さすがに少し時間が早いのかな?でもカウンターの向こうからいい匂いが漂ってくる。ゼニ早く来ないかなぁ。
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