ミズィの忠告
「ところでぇ、あぁたたちは何しにこの街に来たのさ?見たところ冒険者家業もベテランって感じに見えないけど?」
「えぇ……っと、特にこの街に目的があってって訳じゃ無いんです。ここより少し先に行った山の中にあるハツラ村から出てきたんですが、まずは持っているコドクグモの素材を売ろうって話になって、で、この街の商人さんにメラスまで行けば買い取ってもらえるって話だったんで、とりあえず来たみたいな感じですね」
「あぁー!もしかしてあのコドクグモの素材をギルドに売ったのってあぁたたちだったの!へえぇ~!コドクグモを狩るなんて中々やるじゃないの!」
「そうなんスよ!中々やるんですよぉオレたち!なぁ!?」
「あ、いや、あれはオレたちだけじゃなくて、村の人総出で倒しただけで、オレらの取り分ってだけですよ」
ちゃんと言っておかないとゼニが調子のいい事を言ってしまいそうだからな。
「それにしたって大したもんだよ。コドクグモって言ったらCランクの魔物でしょーよ。それを村人とメガ級冒険者でねぇ。あ、おねーさんワイン追加でお願いねー」
なんかサラッと追加注文したぞ?奢りだって言うのに。あと魔物のランクはABCで表すのか?
「いやぁーしかしさぁー、あぁたたちも何でまたこんなタイミングでこの街に来たのさ、タイミング悪すぎでしょうよ」
「タイミングが悪い?」
「そうだよぅ~タイミング激悪だねぇ~。今だいーぶエンシェントエルフとのいざこざが拗れてるところだからねぇ~。あ、ワインありがと」
ミズィさんはワインを運んできたお姉さんに気持ちの悪い笑顔でお礼を言った。にしてもエンシェントエルフ?なんかそれ、ちょこちょこ聞くな?
「エンシェントエルフってなぁ、この街の少し先にある、誤ちの森?だったっけ?なんかそんな名前の森ん中にいるエルフなんだっけかぁ?」
ゼニは少し知っている様だ。
「そそ、それそれー。あ、このワインうまっ。んでね、そのエンシェントエルフと近々大規模な戦いをふっかけようって話になってるのよ、この国の奴らはさ。で、この国はほら、王国騎士団って言ったって、大きな声では言えないけど中々お粗末な騎士団じゃない?だから我々冒険者にも依頼が出されるって話になってんの。どこからともなくそんな噂を聞きつけた冒険者がこの街に集まって来てる訳だ」
「そうなんだ……。でも王国騎士団も強そうでしたけどね?」
「なぁに、王国騎士団を見たの?」
「この街に着く直前に、そのエンシェントエルフとかって人達と戦う所に出くわしちゃって……。何だったかな?ダージ王子とルグレ騎士団長とかなんとかって人達だったかな?強そうに見えましたよ?」
「ああー、ダージ王子と騎士団長ね。まぁこの国でまともに強いって言えるのはその辺ぐらいなもんなのよねぇ~。それ以外は残念なもんよ、残念」
ミズィさんは手をヒラヒラさせて呆れたアピールをする。
「まぁ騎士団も人数だけはそこそこいるからさ、指揮命令は騎士団が、実際戦うのは腕に自信がある冒険者が、って事で金で解決しようとしてる訳。傭兵ギルドに声を掛けなかっただけマシかなぁ。あいつらが混ざってくると人道的にやべぇ奴らがわんさか来ちゃうから」
「てことは、近々冒険者ギルドに依頼が来るんですか?」
「そ、なんと驚きのエンシェントエルフの討伐依頼ね。そんなの聞いた事も無い。くゅぅふふふ!笑うしかないね!」
そんなに珍しい事なんだろうか?
「てかまだその依頼、出てないんですよね?なんでミズィさん知ってるんですか?」
「あぁー、それは言えないけど、私の依頼主が絡んで来る話なのよ、言えないけど。私は別の依頼を受けてこの街に来てるって訳。あのクソ忌々しい依頼主のね……女王コドクグモの毒さえ買えてれば……」
なんか最後の方は小声過ぎて聞き取れなかったな?なんか依頼主に不満がありそうだな。
「てことで!あぁたたちそんなヤバい依頼は絶対に受けないのよ!金と名声に目がくらんで王国の捨て駒になるようなバカはするんじゃないよ!分かったあ!?」
「りょーかいッス!んあー!腹いっぱいだぜぇ!」
ゼニ聞いてた?すげぇ満足そうな顔してるけど?
「んんー!バカ!ゼニくんはバカ!絶対痛い目見る!トウゴくんも気をつけなよ!」
「気をつけます!」
まぁ来たばっかりでそんな面倒事に巻き込まれる事も無いだろ。
その後は元が何だったのかはすっかり忘れてステーキを喰らい、久しぶりの米を堪能して満足な時間を過ごした。
「いやぁーほんと!奢ってもらっちゃって悪いねぇ!たぁいした事もしてないのにね!くゅぅふふふ!」
「いや!いいんスよぉ~!うちのトウゴがお世話になったんでぇ!なぁおい!」
「そうですよ、気にしないでください。お金出したのも全部オレなのに無駄にゼニが偉そうですけど」
「まぁ~楽しかったよ!また機会があったらご飯でも食べようじゃないの!」
「いいッスねぇ!じゃあさっき教えてもらったミズィさんおすすめの店に行こうぜぇ!」
「りょーかいりょーかい!くゅぅふふふー!じゃあまたね~!」
ミズィさんとゼニがぶんぶん手を振り合っている。なかなか面白い人だったなぁ。本当にまたご飯食べに行きたいな。ステーキも美味かったし。オークだったけど。
「いんやぁ~!美味かったし腹いっぱいになったなぁ!もう帰って寝るか!」
「いや早いなお前。食うか寝るかしか無いのかよ」
「腹いっぱいになったら眠いだろぉ~!だいたいまだ宿も決めてねぇんだ、さっさと探さないとなぁ!」
確かにそうだ。ギルドをそそくさと出て買い物行って、そのままミズィさんとご飯食べたんだから、宿なんて決めてなかった。
「そもそも宿ってたくさんあるのか?すぐに泊まれる所って見つかるの?」
「宿?そりゃたくさんあるだろ?むしろ宿が無い街を探す方が難しいだろ?なんだったら金さえ払えばギルドにだって寝泊まりする所ぐらいあるぞ?」
「そりゃあ宿はあるってのは想像つくけど……でもこんな街中にたくさんあるのか?」
「そりゃあるだろ?じゃなかったら宿とギルドの往復ですらしんどいだろ?」
あぁー、なるほど、旅の冒険者みたいなヒトが多いから、必然的に宿も多いのか。なんだか旅先で1、2泊するホテルをイメージしてたけど、それとはちょっと違うみたいだ。
「じゃあーさっそく探しに行くかぁ。オレァちゃんとした風呂がついてるとこがいいぜ。その為なら多少の出費はいとわねぇ」
「意外だな、お前がそこにこだわるとは」
「どこがどう意外なんだ?」
「どこって、そりゃあ……ん?」
なんだか向こうが騒がしい。飲食街の通りの先、ここよりも酒の雰囲気が強く出ている店が並ぶ辺りが何やら騒がしい。
「んあぁ?なんだぁ?」
ゼニもオレの視線の先を見る。オレもゼニもちょっと気になり2人で騒ぎの方へと近づく。
「なぁんだあ!?舐めてんのかぁ!?」
「舐めてなんていないでしょ?そっちが勝手に盛り上がってるんじゃない」
あれは確か……街に入る前のゴタゴタの時に会った変な名前の子だな?確か名前は……なんだっけ?で、その子が7、8人のゴリラっぽい獣人に詰め寄られている。
「あぁ!?こっちが優しくお誘いしてやったってのによぉ~!調子に乗るなよ小娘が!」
「調子に乗ってるのはどっち?あなたのお誘いに私が喜んで乗ると思ったのが奇跡だね~。まぁ私の魅力なら分からないでも無いけど!」
「魅力ってよぉ!ダハハハハ!笑わせるぜぇ!小娘よぉ!オレァ声掛けるまで気が付かなかったが、お前ソジンだったんだなぁ!その極端に小せぇ乳はエルフの特徴だと思ったのによぉ!」
あ、なんかあの子、凄い形相で握った拳が小刻みに震えてるぞ?これはあれだ、触れちゃならない所に触れちゃったやつだ。
「なぁによ、頭空っぽの巨乳好きのバカが……。いいわよぉ~やるならやってやるわよぉ~。全員まとめてぶっ飛ばしてやるわよぉ~」
「あぁ?おもしれぇ!丁度こんなソジンだらけのつまらねぇ国に来てストレス溜まってんだ!明日の朝には起き上がれねぇ程にはお仕置してやらねぇとなぁ!」
そう叫ぶとゴリラの獣人は拳を振り上げる。さすがに剣を抜くほどバカじゃないか。
その拳がまさに女の子に襲いかかろうとした瞬間、横から割って入った男がゴリラの拳を鷲掴みにした。ってあれ?割って入ったのゼニじゃん。いつの間に?
「おいおいおっさんよぉ~、関心しねぇなぁ~。か弱い女の子が困ってんだろぉよぉ~?」
ゴリラはゼニの手を振り払い1歩後ずさる。
「な、なんだお前ぇ!」
「別にか弱く無いけど?」
女の子がゼニに言う。
「んあ?そうか?でもほらあんた、こいつの言う通り華奢だろ?胸とか」
「はあぁ!?なんなの!あんたなんなの!?腹立つ!」
「あぁ?なんだよ忙しい奴だな。てかお前さっき会ったな?なんてったっけ……?アサゴハン?だっけか?」
「アサヒ・ルヴァンよ!ああーもう!先にあんたぶっ飛ばすわよ!」
「やめとけよ、華奢なんだから、胸が」
「決めた、あんたからだわ」
やばい、アサヒちゃんめっちゃキレてんじゃん。しかもゼニに。
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