冒険者ギルド

「じゃあさっそく冒険者ギルドに行ってみようぜ。場所ならオレが知ってるしよ」


「冒険者ギルド!!!キタコレ!依頼!受け付け嬢!ギルドマスタァー!!!」


「な、なんなんだよその過激な期待は……?そんな良いとこじゃねぇぞ?どっちかって言うとむさ苦しい連中のたむろする酒場みたいなもんだぞ?」


「酒場!それはもしや依頼を終えて報酬もらった冒険者が1杯やる所だよな!?そこでパーティの勧誘したり新人冒険者をいびったりする所だよな!?」


「んまぁ……だいたい合ってる……?」


「よし!行こう!楽しみだ!」


 俄然テンション上がってきたぁ!

 オレはハテナマークを浮かべたゼニの後ろをウキウキで付いて歩く。先ほどの交差点を真っ直ぐ進む。さっきは右に曲がったから、真っ直ぐ行けば援軍の冒険者達が向かった左の道へと進む訳だ。


「当然お前も冒険者ギルドに登録すんだろ?まさか商人ギルドなんて言わねぇよなぁ?」


 登録?


「なんだ?って顔すんなよ。するだろ?冒険者登録。しなかったらこの大荷物を買い取ってもらう事すら出来ねぇぞ?」


「そうなのか……」


 まぁ当たり前か。冒険者ギルドのサービスを冒険者でも無い奴が利用出来たら変な話だよな。


「ほれ、そうこう言ってるうちに冒険者ギルドに着いたぞ」


 ゼニが前を指差す。その先には商人ギルドよりもふた周りぐらい大きな建物、そして両開きの正面玄関。その上には盾をバックに剣と杖が交差した絵が描かれた看板が下がっている。なんかありきたりだなぁー。


 ゼニが先を行き正面玄関の扉を開ける。なかなかに重厚で、古びた金具が軋む様な音を立てながらゆっくりと開く。ゼニの背中越しに期待を最大限に膨らませて中を覗いてみると、想像通りと言えば想像通りの景色が広がっていた。全て木製のイスとテーブル。壁には大きな掲示板がかけてあり、そこには何やら紙が所狭しと貼られている。あれが依頼貼ってあるとこなのかな?

 そして奥には右手に職員らしき人が4人ならんだ受け付けの様な場所が。左手にはカウンターがあり、そこには2人の職員、その後ろに少し見えるのがキッチンの様だ。つまりここがゼニの言っていた酒場の様な所って訳だな。


「あんまりニヤニヤキョロキョロすんなよ……恥ずかしいだろ……」


「えぇ?ニヤニヤしってかオレ?」


「それでニヤニヤしてねぇんなら世の中に笑顔の人間なんていねぇ事になるぞ……」


 ゼニがちょっとオレから距離を置く感じで受け付けのお姉さんに声をかける。


「ええっと、魔獣の素材って買い取ってもらえますよね?」


 お、ゼニにしては丁寧な敬語だ。


「えぇ、もちろんですよ。あそこのカウンターが解体受け付けと素材買取りの受け付けになってます」


 お姉さんが煌びやかな笑顔で教えてくれる。くうぅ~!ギルドはこうでなくちゃ!


「……お前はニヤニヤしてないでいいからその辺に座っとけよ……。とりあえずオレが買取りのカウンター行ってくっからよ」


「分かった!」


 よし!テーブルのとこに座ってよう!何だかウキウキしながら初ギルドの初テーブルにつく。うわぁ~!すげぇなぁ~!周りをキョロキョロしてみるともういかにもって感じだ。それで気がついた事がある。人間以外の種族が結構いる。いや、この世界では人間以外とは言わないのか?確かオレの認識する普通の人間がソジンだったか?ソジン以外の種族って事になるな。今背負ってるリュックやスクロールを落として行った金髪マッシュのあいつのお供も虎っぽい顔してたよなぁ。今ギルド内には犬?狼かな?そんな感じの人や猫っぽいお姉さんも居る。後はどうみても爬虫類っぽい人、リザードマンってやつかな?そんな人も居る。でも数的にはソジンの方がやや多いかな?


「またキョロキョロしやがって……あんまりジロジロ見てたら怒られるぞ」


 ゼニが戻って来た。


「どうやら問題無く買い取ってくれるってよ。問題どころかコドクグモの素材は高値で買い取ってくれるらしい。結構珍しい魔獣だったっぽいな。他にも魔物や普通の獣の素材なんかも買い取ってるらしいぜ」


 んん?魔物……?


「魔獣と魔物って違うのか?」


「いやまぁ……何が違うって言われたら難しいとこなんだけどよ、一応違うらしいぜ。大雑把に言うとマガタマって言う魔力の結晶みたいな物を持ってっけど獣っぽいのが魔獣、それより利口なのが魔物って感じだな」


 大雑把だな……。でも何となくは理解した。


「じゃあコボルトやゴブリンなんかは魔物?」


「そういうこった。まぁ分類分けなんてどうだっていいんだよ。もっと賢いのは魔族って種族に分けられてるからなぁ」


 なんだかずいぶん曖昧だなぁ。


「で、話は戻るけどよ、話聞いてもらったらよ、持って来た素材は全部買い取ってくれそうだぜ。中でもやっぱり女王グモの素材は高値らしい。何でもその訳わかんねぇ毒の溜まった袋みたいな素材が1番の高値らしい。結構即効性のある、人1人簡単に殺せる毒が作れるらしいぜ」


「それ需要あんのかよ……物騒だなぁ」


 さすが異世界。で、オレはゼニと揃ってカウンターに向かう。カウンターの向こうには屈強な体躯にハゲ頭、革製のエプロンをしたおじさんが居た。


「いやぁー!解体のプロって感じ出てますねぇ!いいですよ!すごくいい!」


「な、なんだこのお兄ちゃん……?」


「気にしないでください。こういうとこ初めてなもんで舞い上がってんスよ。ささ、早速買取の方を」


 カウンターの上にリュックごと置いて中身を出す。ワクワクしながら見てるとひとつずつおじさんが吟味しメモに何やら書き込んでいる。てかこの世界にも普通の紙ってあるんだな?こういうのって羊皮紙ってイメージあったけど?そういやスクロールも羊皮紙っぽいけど、何となく羊皮紙じゃない紙で出来てそうだな?この世界の謎は深い。


「全部でこんなんでどうだい?オレはこれが適正価格だと思うぜ?」


 おじさんがゼニにメモを見せる。なるほど、査定して金額を書いていたのか。


「おおー!いいじゃんおじさん!サービスいいなぁ!」


「おだてたってこれ以上は高くなんねぇぞ。見たところオメェもそうだが、特にそっちのお兄ちゃんはまだ駆け出しだろう?そりゃ将来有望な若者には多少サービスすんのがギルドだろ」


 あ、初心者に優しいのね。


「それじゃ手続きすっからよ、お兄ちゃん冒険者カード出してくれや」


 ゼニが服の中に首から下げていた1枚の金属の板を出す。大きさは運転免許証や銀行のカードぐらいの大きさ。銀色で簡素な作りのカードに何やら文字が印字されている。


「なんだぁ?お兄ちゃんメガ級冒険者かよ、良くコドクグモなんて倒せたなぁ。もしかしてそっちのひょろっこいお兄ちゃんがもっと等級上だったりするのか?」


「いやぁ、こいつはまだ冒険者ギルドに登録すらして無いんスよ。これからッス」


「まじかぁ!?そいつはすげぇなあ!それだけ実力あるならもっとギルドに貢献しろよ!」


 あぁー!冒険者の等級ね!あるある!お決まりだね!でもメガ級?なんかめっちゃ強そうな響きだけどそうでも無いのか?

 

「じゃあ早速書類作ったりの手続きするからよ、ちょっと待っといてくれ。おのぼりさんのお兄ちゃんもその辺で酒でも飲んでるといいさ」


「よろしくお願いします!ほら!ゼニ!なんか飲みに行くぞ!」


「やめろよ恥ずかしい……大人しくしててくれよぉ……」


 なんだか乗り気じゃないゼニの背中を押して受け付けじゃない方の、おそらく酒場のカウンターまで押して行く。まぁお酒は飲めないけどなんかあるだろ!

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