28.キス.T
―――自宅、朝
今日は10時くらいに出かけてショッピングモールデートの予定。
今は朝食の時間なんだけど、俺とみやびは隣同士ではなく対面に座っていた。
食事の時間は対面じゃないと嫌らしい、なんでも俺の食事風景が良く見えないからだとか。
普段のみやびを見てて分かってるからこれは仕方がないと思う、食事の時間は俺以上にみやびにとって大事な時間のようだし。
自分の食事風景が見られている、というのがあらためてなんだか恥ずかしくなってくるけど、みやびが喜んでくれるし、場合によっては体調が悪い?なんて調子も見てくれるようでむしろ良い事しかないな。
食事が終わって歯を磨いて、出掛ける準備にしてもまだまだ早い、そんな時間はリビングのソファーに2人並んで座り、テレビを見るなり、雑談をするなりして時間を潰す。
肩が触れる程度の距離で隣に座ってるのを見たり感じたりすると、やっぱり嬉しくなってくる、関係性が変わったんだなあ、って実感する。
座りながら手を握るとかはまだしていない、2人の間にみやびの手を置かれる事が無いからなんだけど。
そろそろな時間となり、みやびの準備が出来たみたいでリビングに姿を現した。
今日はシンプルに薄いクリーム色の半袖Tシャツに濃紺か黒の膝上丈プリーツスカートだろうか。そして白いスニーカー、髪は金髪ストレート、実にシンプルなのに綺麗で可愛い俺の恋人。
自分が如何に幸せ者なのかを実感する。
「お待たせ、それじゃあ行こうか」
「大丈夫、今来たところです、行きましょうか」
「なんだいそれ、外で待ち合わせしてたんじゃないんだよ」
そう言ってみやびは微笑んでいた。
「だってみやびとデートする時は言うタイミングの無さそうなセリフじゃないですか、一度言ってみたかったんですよ」
「ふふ、確かにそうだね」
―――ショッピングモール
ショッピングモール内を2人で歩いている、俺の左隣にみやびが居て、手を繋いで。
「先にみやびの服を買いましょうか、どこに行きますか?」
「それだと荷物が増えちゃうから服を買うのは最後で良いよ、先に色々見て回ろう?」
「確かにそうですね、じゃあ雑貨屋とか小物売り場から周りますか」
「そうだね、そっちのほうが楽しそうだ」
雑貨屋に入る前に意を決してみやびに話をした。
「みやび、今日の目的は2人でお揃いのアクセサリーを買う事なんだ」
「なるほど、いいんじゃないかな」
「それで、出来ればスマホやカバンに付けられるようなのが良いと思うんだけど」
「そうだね、そういうのを探そうか、目的も出来たし回る楽しみが増えたね」
よし、この感じなら買ったら付けてくれるだろう。
丁度良い感じのものがないか、2人で何店舗か回る。
「これは良いんじゃないかな、小さいし可愛いし」
「いやあ、みやびがそれで良いなら良いけど、ちょっと可愛すぎるというか……」
「そうかい?―――うーん、そうだね、男子高校生が付ける物としては可愛すぎるかもね」
「あ、これとかどうですか、スマホアクセサリーとして丁度良くないですか?」
「良いね、……あ、これ意外と高いよ?1,480円だって」
「あー、ちょっと高いですね、うーん、これは一旦キープで」
そんな感じのやり取りを繰り返し、いくつかの目星を付けた。
「一通り回ったかな、どれが良いと思う?」
「俺は第1候補決めてますけど、みやびは何か良いのありました?」
「うん、狐のやつが良いかなと思ったんだけど、どうかな」
「ああ、あれも良いですよね、俺はおにぎりみたいなアクセサリーなんですけど」
「あったねおにぎり、なんでおにぎりなんだい?」
「えーと、実は、みやびのイメージって何かなって考えて、そうするとやっぱりお弁当とか料理とかで、それで食べ物系のアクセサリー欲しいなって思ってて、で丁度良いのがおにぎりだったんです、本当は玉子焼きが良かったんですけど」
「―――そうか、うん、私のイメージかあ……料理とかお弁当なんだね、それでおにぎりね、うん、良いんじゃないかな、それにしよう」
「良いんですか?別に狐のやつで良いですよ、可愛いですし」
「いや、狐は止めて、私もおにぎりが良いよ、だからそれにしよう」
「分かりました、じゃあお店に行きますか」
そういうわけで2人で同じおにぎりのアクセサリーを購入した、俺もみやびもスマホに付けてお揃いになった。
「良いねコレ、おにぎり2個とたくわんも付いてて、可愛いんじゃない?」
「そうですね、思ってたよりは違和感無いですね」
その後のお昼ご飯だけど、フードコートでハンバーガーを食べた。
お昼からは服の買い物で、試着室前で着替えるのを待つのは慣れないけど、みやびの着せ替えが特等席で見られるのは俺の特権だと思うので誰にも譲らない。
言うまでも無い事だけど何を着ても似合うので褒め方のバリエーションが無くなってしまう。後半は好みを交えてなんとか答えた。
夏用の薄着が多めで中々に目の保養になった。
普段着用の服なんかも買って、もの凄い荷物の量になっていた、俺の両手が完全に塞がってしまった。
―――自宅
やっと帰ってきて、荷物を下ろす。
みやびも結構な量の荷物を持っていて、もう7月も後半だからお互いに結構な量の汗をかいていた。
下ろした荷物はそのままに冷たい麦茶とコップ2個を出して、ソファーに腰掛けて入れる。
ミヤビはタオルを取って来ていて、ソファーで俺の左隣に座った。
「はい、タオル、汗拭かないとね、風邪引くよ」
「ありがとう、ミヤビも、はい、麦茶、水分摂らないとね」
「ありがとう」
お互いに汗を拭いたり、麦茶を飲んだりして一息ついた。
そうしていたら、みやびが手を右手側、俺から見て左手の位置に当たる所に置いていた。
チャンスだと思い、左手をみやびの右手に重ねて、手を握った。
みやびは少しビクッとしていたけど、抵抗はしなかった。
「みやび、手、繋いでも良い?」
「もう繋いでるみたいだけど」
「なんだっけ、事後承諾ってやつかな?」
「しょうがないな……いいよ、繋いでも」
「ありがとう」
そうして暫くみやびを見ていたら、みやびも俺を見た。
そのままお互いに見つめ合う、もしかして……行けるんじゃないか?
「みやび…」
「――何かな?」
ごくり、唾を飲む、良し、言うぞ。
「――キスしたい」
「……」
「良い?……ダメ?」
「……ダメ。少し時間が欲しいかな」
みやびは照れる様子も無く、真っ直ぐに俺を見つめなからそう答えた。
これは……恥ずかしがって言ってるとかじゃなくて、押してもダメそうだと感じた。
凄くショックだった、正直に言うと拒否されるなんて微塵も考えていなかった。
むしろ喜んで受け入れてくれる、それくらいの考えだった、だって俺とみやびはこの距離感なのだ、みやびも俺が言うのを待ってる、そう思っていた。しかし甘すぎた。やはり唇というのはハードルが高いのだ。
少し時間が欲しい……どれくらいの時間だろうか、1日、1週間、1ヶ月、いやそれ以上だろうか、全く予測がつかない。この距離感で付き合っていてそんなに我慢できるだろうか、
ふーっ、よし、切り替えよう。とりあえず今はダメ、と。悲しいけど。
「うん、分かりました、じゃあまた別の機会にしますね」
「……うん、悪いね、本当に少しでいいから時間が欲しいんだ」
その後は表向きは普通に対応出来ていたと思う。
何が足りなかったのか。
単純に考えれば雰囲気だろうか、後は汗をかいていたから匂いとか?
雰囲気であれば今度6人で行く海で、2人で少し抜け出してはどうだろうか。
今の精神状態で考えていると悪い方向に考えてしまう、みやびは本当に俺の事が好きなのだろうか、普段の行動から考えたら好きだとしか思えないけど、だけどそれが嘘だったら、でもそんな嘘をつく理由なんて無いと思う、だけど本当は?分からない。
キス出来なかった理由を考えていたけど分からず仕舞いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます