18.女の子として.T
―――土曜、自宅
普通のデートだと待ち合わせ場所でお互いに顔を合わす訳で、つまり準備完了した状態で相手に合う。
だけど俺とみやびさんは同じ家に住んでいて朝ご飯も一緒で、学校に行くならまだしも、出掛ける時間よりもかなり早い時間にデートに行く格好をして準備万端、という訳にもいかず普段通りに顔を合わせて一緒に朝食をとって、となるからワクワク感が余り無いように感じる。
「それで今日は何時頃出掛ける予定なんだい?」
「そうですね、少し早いかも知れませんが9時すぎに出掛けようかと思ってます、時間は大丈夫ですか?」
「うん、それなら大丈夫だね」
そういえば出掛ける時間をまだ伝えてなかった、これは減点だな。
お互いの食事が終わって食器を洗い場へ、朝と昼は俺が洗う番なので洗う。
みやびさんは自室に戻っていった。
準備自体はそこまで掛からないがなんとなく自室に戻った。
最近は自室に居る時間が随分と減ってて、寝る時と着替える時くらいしか使ってない気がする。
みやびさんが来てからは大半がリビング周りで生活をしていて、2人で一緒にいる時間が多い。
冷静に考えたら同級生の女の子、しかもみやびさんと2人暮らしなんだもんなあ、クラスのやつが見たら羨ましがられる事間違い無しだろう。
今日の予定を確認しよう。
映画を見て、お昼食べて、買い物して、帰る。
うーん、おおざっぱだけどこんなもんだろう。
大事な事はデートという形で女の子扱いしてあげる事だと思う。
昨日寝る前に考えていて気付いたんだけど、女の子として扱えばみやびさんも女の子として俺を意識してくれるんじゃないか、と。
で、女の子として扱うならやっぱりデートが丁度良いと気付いた。普段も女の子として扱うけど、デートの方がそれをアピールし易いんじゃないかと思ってる。だから今日はそれを意識して行動するつもりだ。
そんなこんなで時間が近づいてきたので髪型をキメてシャツを着て準備完了、リビングでみやびさんを待っていると入ってきて、その姿を見た俺は予想以上の綺麗さに直ぐには声が出なかった。
髪型はいつもと変わらずストレートだけど、白い半袖のブラウスに膝丈の薄青紫色のワンピースを着ている、タイトみたいでお尻上部から腰やお腹周りのシルエットが分かる、清楚だけど綺麗で可愛い。
あと腰周りのラインが分かるのが色気を醸し出している。
「―――み、みやびさん、凄く綺麗です、それに凄く可愛い。とても似合ってます、どこの女神様かと思いました」
「褒めすぎだよ、なんだい女神様って。……そんなに似合うかい?」
「ええ、似合ってますよ、それに本当に綺麗です」
みやびさんは頬どころか顔全体を真っ赤に紅潮させ、視線が落ち着かなくて、手をもじもじさせている。
「褒めすぎだよ、恥ずかしいじゃないか」
「みやびさん」
「な、なんだい?」
「今凄く可愛いですよ」
「ちょ、ちょっと、……本当にもう、…ありがとう、嬉しいよ」
「はい」
本当は好きって言いたいし抱きしめたい衝動に駆られている、でも我慢だ、我慢、全部台無しにする訳にはいかない。
「それじゃあ、行こうか」
「はい、行きましょう」
もしかして今女の子扱い出来たんじゃない?
―――映画館
ショッピングモール近くにある映画館についたけどまだ早い、
なので適当な壁際で2人で時間を潰していた。
一応ここに来るまでに車道側に立って歩いたりとかそういう女性をエスコートする際のマナー的な事はしている。
みやびさんが気付いているかは分からないけど。
「中で飲む飲み物買ってきて貰って良いかな?私はコーラで、敏夫君も好きなの買ってきていいよ、はい」
「え、そんな悪いですよ、ジュース代くらい出しますよ」
「駄目だよそれは、……あ、食べ物は要らないからね」
「ジュース代くらい出しますって、悪いですよ」
「あのね、気持ちは嬉しいよ、でもそういうのは自分で稼いだお金でやりなさい、他はともかく私に対しては、ね」
「…分かりました」
「じゃあよろしくね」
お説教されてしまった、みやびさんからすればお小遣いでやり繰りしている高校生にお金は払わせたくないのだろう、かと言って俺も奢ってもらうのが当たり前、という態度を取りたくなかったからしょうがない。
分かっていた事だけど、これは仕方がない。
ジュースを買って時間になったので中に入って座り、広告映像や予告映像をぼんやり見ていた。
みやびさんは説教した事を引きずってないみたいで、ジュースを買った後から話かけてくれた、俺が引きずらないように気を使ってくれているんだろうか。そういう優しくて気を使う所が良いんだよなあ。
映画が始まって1時間くらいしただろうか、俺の左手側にはみやびさんが座っていて肘掛けに手を置いている。
ここで手を重ねるのは許される事だろうか。
出かける前、みやびさんを見た時からずっと抑えていた衝動が抑えきれなくなってきていて、みやびさんに触れたい、手に触れたい、そういう思いが溢れる寸前だった。
――俺は思い切ってみやびさんの手に俺の手を重ねた、柔らかくて小さな手を俺の大きな手が包み込む。
みやびさんの反応は……逃げない、これは……許されたのか?
と思った瞬間、みやびさんの手が引っ込んだ、俺はみやびさんの方を見たがこちらを見ていない。
これはまたしてもやらかしたかも知れない。急ぎすぎたんだろう。
急速に冷えていく頭で考えたら、当たり前で、そもそも男に対して拒否反応を示していたんだ。いくらデートで俺が舞い上がっていてもそれはみやびさんには関係ない。暴走した自分を責める事しか出来なかった。
それから肘掛けに手を置かれる事はなかった、明確な拒否の意思表示だ。
映画が終わり、お互い無言のまま映画館を後にした、ショッピングモール内の飲食店街へと行き、そこでやっと俺は口を開いた。
「すみませんでした、手を重ねてしまって、……どうしてもみやびさんの手に触れたくなって、そうしたくなってしまって、我慢出来なかったんです、ごめんなさい」
正直に話し、人目も憚らず、みやびさんに頭を下げた。
みやびさんはビックリしてしまったみたいで、とりあえず何処かお店に入って落ち着いてから話をしようと言ってくれた。
そして、お肉が食べたいとリクエストしてくれて、それならと前回牛ヒレ肉を食べたお店に決めた。
入店待ちの時間は終始無言だった、みやびさんの顔を覗いたけど無表情で遠くを見て何か考え込んでいるように見えた。
事前注文でみやびさんは牛ヒレ肉300グラムを頼んでいた。あれ、それって多くないだろうか。前回300グラムで4割ほど残していたのに。
俺はそれを聞いてまたハンバーグセットを頼んだ。
順番が来て案内された席へ、奥のソファーへみやびさんに座るようにエスコートして、俺はその正面の椅子に座る。
みやびさんは最初戸惑っていたけど、ソファー側へ座ってくれた。
席に座るとみやびさんは話だした。
「これは言おうかすごく迷ったんだけど、正直に言うとね、そんなに嫌じゃなかったんだ、だけどね、今日出かける前に言われたことを思い出して、急に恥ずかしくなってきて、思わず手を引いてしまったんだ」
「あの、……俺のことを嫌いになったりは…」
「そんなことあるはずないだろう?君は私にとって大事な、大事な……なんだろうね、とにかく大事なんだよ。
それでね、確かに急ぎすぎかなという感じはするけど、手を重ねたことについて謝らないでほしい、私も何も言わなかったのが悪かったのだし」
「そんな、悪いのは俺です、みやびさんの気持ちも考えずに自分が我慢できなくなったからって、手を重ねたりしなければ…」
「謝らないでと言ったよ、そこは反省してるようだし次からは気をつけてね、それに暴走しちゃうのは可愛いすぎる私が悪いのかな、なんてね」
「…はい、分かりました」
「はい、この話はこれで終わり、ご飯は楽しくないとね」
食事が来るまでの時間、今話した内容を考えていた。
みやびさんは俺と手を重ねる事を嫌じゃない、と言った、それがイコール手を繋いでも良い、という訳では無いだろうけど、少なくとも嫌悪感や拒否反応がある訳じゃないという事、男は無理、という感情には当たらないという意味。
それに俺が、みやびさんにとって大事、とも言っていた、今までならこの言葉は親から預かっているから大事という意味と取れただろうけど、今だとそれとは違う意味を持っているんじゃないかと思える。
もしかして……もしかして、いや待て、もう一つ、急ぎすぎとも言っていた、それはつまり、単純に手を重ねる事を指してるとも言えるけど、そこまでの関係しか許してないとも取れる、つまり、手を重ねるのは少し早いけど、まあ許してあげるよ、これ以上はダメだけど、という意味だ。
進んではいるけど、まだそこまでの関係だ、と言われたみたいで少しの嬉しさより大きな距離を、……いやコレは大きな一歩だ。そもそも今まではその一歩すらダメだと思っていたからだ、男に対する拒否反応や無理という感情、それが俺には少し甘い、それが分かっただけでも今日のデートは意味が有ったと言えるんじゃないだろうか。
ダメと言われた訳じゃない、少しなら良いよ、と言われたのだ、そう考えるとどんどん嬉しさが込み上げてきた。
相変わらず慎重に進めていく必要はあるけど、進めるんだ、これほどやりがいの有る事はないだろう。
後はやっぱり出掛け前の服装を褒めに褒めて女の子扱いしたのは良かったという事が分かったかな、だから女の子扱いの方向性は間違ってないと言える。ただ恥ずかしがってしまって手を引いてしまったのは誤算だったけど。
「さて来ましたよ牛ヒレ肉ちゃんが、敏夫君!食べるよ!」
「大丈夫ですよ、ちゃんと見てますから」
今回も前回と同様にやっぱり4割程度残していた、だけどみやびさんの表情は明るかった。
「いやあ、やっぱり無理だったね、だからさ、敏夫君」
「分かってますよ、残りはいただきますね、全部交換しますよ」
そう言って、空のプレートとご飯、今回は更にお箸とナイフやフォークまで全部交換した。
「え、そこまで交換するのかい?」
「全部って言いましたよ、全部なんだから全部です」
そうやって堂々の間接キスをした、みやびさんは少し恥ずかしそうにしていたけど、なんとなく嬉しそうにも見えた。
「うん、やっぱり敏夫君は頼もしいね、ちょっと変態っぽいけど」
思わず吹き出しそうになった。
コホン、こうして、みやびさんのお陰で仲直り出来た。
食べ終わる頃、みやびさんはこっそりとお金を渡してきた。
今回俺は拒否するなんて野暮な事はせず、しっかり受け取った、これで表向きには俺がここの会計を全部払ったように見えるだろう、体面が保てるという訳だ、こういう風に気を利かせてくれるのは流石というか、好き。
今思えば映画館での飲み物を買ってくるようお願いされたのも男を立てたものだったように思える。
「ごちそうさまでした」
「じゃあショッピングモールで敏夫君の行きたいところとかある?そっちから行こう」
「だったら本屋とかいいですか、ちょっと気になる本があって」
2人で本屋に行って本を購入した。
「他に見たいところはあるかい?」
「んー、特に無いですね、みやびさんは無いですか?」
「それじゃあ服を見に行ってもいいかな、普段使い出来る薄手の上着が欲しくてね」
女性服店ではなくて比較的安価なブランドのレディースコーナーで幾つか購入し、ショッピングモール内のスーパーに寄った。
「そんなには変わらないけど、やっぱり種類が多いね、車が使えたらここで買い物も出来たんだけどなあ」
車の免許資格は無くなっていて、没収されたらしい、まあ15才なんだしそうなるか。
そのまま地元のスーパーに寄って、買い物をして帰った。
「ちょっと午前中は失敗しちゃったけど、今日のデートは楽しかったよ」
「俺もです、次は失敗しないのでまた何処か行きましょう」
「次か……そうだね、また行こうか、でも明日は家でゴロゴロしていたいなあ」
「みやびさんは本当にインドア派ですよね」
「そうだね、必要最低限しか出掛けたくないんだ」
「それじゃあ俺が外に連れ出すしかないですね」
「ふふ、君が外の楽しさを教えてくれるならそれも良いかもね」
「任せてください、と言いたい所ですけど、俺も女の子を連れて行って楽しい場所は余り知らないんで頑張りますよ」
「あー、うん、女の子ね、……うん、よろしくね」
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作者のモチベーションに繋がってとても嬉しいです。
合わせて前作もR-15らしいイチャラブでハッピーエンドな王道TSです、気になりましたらそちらも是非。
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