第23話 とある勇者の神話

 九十九里浜での合宿は・・・中止となってしまった。


『原因は分かってるよねぇ、天霧あまぎり君!僕はこれから阿蘇あそさんと徹夜で事後処理しなくちゃ行けないんだよ!どんだけ仕事増やしてくれるのかな!んー?』


 いや、知らんし。あんな九頭龍くずりゅうなんて怪獣そのままにしてたら、どんだけの被害が出たか分からんのだよ!故にその怪獣を倒すにあたって、多少の被害は致し方なし!故に俺に何ら落ち度はない!Q.E.D


 九頭龍を討伐した俺たち選抜メンバー+アルファは、阿蘇あそさんが手配してくれた公安の車で学園に帰ってきた。

 九十九里浜を散々走らされた挙句、怪獣退治した上にそのまま日帰りさせられるとは・・・酷くね?


「すぴー、すぴー、すぴー」

「・・・旦那さまぁ〜」


 日付が変わってしばらくしてから、学園の宿舎に帰ってきた俺とフタバは、驚きと共にサラサとスズネに迎えられて

早々に床についたよ。もう疲れた・・・


 ・・・俺の寝室で一緒に寝てるスズネ達の寝息が俺を眠りにさそう・・・おやすみ・・・


◆◆◆◆◆


 魔王の城が建っていた山は巨大なクレーターとなって消滅し、まだ所々に赤熱化した熔岩が残っているクレーターの底に二つの影が立っていた。


 その内の一つ。身長が優に3メートルを超える影が、低くひびく声でもう一方に語りかけた。


「さすが勇者ユキト。この神であるちんが、全力でひと月もの間闘っても決着をつける事が出来ぬとは。」


「どうした邪神様!邪神とは言え神であるお前がアラフォーのオッサン一人殺せないとはなあ!」


 肩で息をしながら勇者ユキトは、邪神を精一杯嘲笑あざわらった。


「それは違うぞ勇者ユキト。そなたは朕の片腕であった魔王ヴェネビントを見事倒した。

 魔王即ちこれ亜神。その亜神すら倒したそなたも、最早人ではなく立派な亜神である。

 故に勇者ユキトよ。不毛な闘いはもうやめて、朕と二人でこの世界を半分ずつ支配しようではないか?

 亜神であるそなたなら、充分にその資格がある。

 どうだ?そなたにとっても悪い話ではあるまい。」


「ふざけるなぁー!

 その名を口にするのも汚らわしい邪神バルデルス!

 お前に殺された獣王ヴァッカース!賢者ボルカ!聖女アムネリア!

 みな俺の弟子であり、仲間だったんだ!

 そしてこの愛刀『黒丸くろまる』を鍛えるために、命を捧げた我が親友である鍛冶師エルドレイン!

 俺はこの世界なんかどうだっていい!だが、死んでいった仲間達のために絶対にお前を滅ぼす!俺の命を引き換えにしても、絶対にだ!」


 ユキトは左手に持った『黒丸』を強く握りしめて絶叫した!


「ふふはははっ、そんなに成長してもまだまだ青いな半界の大王よ。

 そんなに仲間が恋しいのならば、朕がアンデッドとして蘇らせてやろう。

 死者の皇帝ノーライフエンペラーたる朕なれば、造作もないことよ。

 アンデッドであれば、半永久の寿命をもつ亜神のそなたに相応ふさわしいではないか!

 そうだ、盟約の証としてあの聖女をそなたのエターナルブライドとして今すぐ贈ろうではないか・・・」


「やめろ――っ!これ以上俺の仲間を侮辱するな!」


 勇者ユキトは右手の『光の聖剣』を強く握りしめて絶叫した。

 勇者ユキトにとって、この世界以上に大切な仲間たちの魂をこれ以上冒涜ぼうとくされることに我慢出来なかった。


十葉じゅうよう


 勇者ユキトは左右の手に持つ『光の聖剣』と『黒丸』から、それぞれ10本の斬撃を邪神バルデルスに向かってに叩き込んた!


「無駄だといっておる!」


 バルデルスは自分の全周囲から襲い来る20本の超音速の斬撃を、己の魔剣ヴァルプルギスで迎え撃った!


「くっ!」


 それでもバルデルスはユキトの、放った全ての斬撃を打ち払うことができず、3本の剣戟けんげきをその身体からだに受けてしまった。


「だが効かぬと言っておるのだぁ!

 最強の神であるちん玉体ぎょくたいは、いかなる武宝具、魔法であろうとも傷つけることはできぬのだ!

 まだ分からぬのか痴れ者めがぁ!」


「それでも俺の『光の聖剣』と『黒丸』は、たとえお前の身体を傷つけられなくても、お前の魂には届いている!削っている!喰らっている!」


「ならばキサマは魔王からの連戦で、既に魔力も体力もポーションもつき果てて、立っているのが精一杯のザマではないか!

 その証拠にキサマは既に五日もその場から動けず、魔法も撃てず、ただそこで剣を振り回しているだけの棒振り人形ではないか!

 その命を削った斬撃が、あと何本放てるのだ?勇者よ。」


 ユキトは邪神バルデルスが看破したとおり、既に肉体の限界に達し、いや超えていた。


 本来ユキトの剣技の真骨頂しんこっちょうである敵との間に存在する距離を『ぜろ』時間で無にしてしまう強靭きょうじんな足腰は、既に骨にひびが入り、筋肉が断裂して1歩も動かすことが出来なくなっていた。


 また剣を持つ両腕も、先程の『十葉じゅうよう』で毛細血管が破裂はれつし、紫色に腫れ上がっており、もう一太刀も振るうことが出来ない。


「はっ、ははは!全くお前の言うとおりだよ邪神バルデルス!全くそのとおりだ。

 だがなバルデルス!俺は這ってでもお前の所までたどり着いて、必ずお前を滅ぼす!

 両腕を切り落とされようとも、俺の歯でお前の喉首を噛み切って殺す!

 俺が、俺自身が負けたと思わない限り、俺は俺の命を燃やし尽くしてお前を必ず!」


「狂気!それは笑止!もはや狂った勇者など何の価値などないわ!

 これで死ね!狂人―――!」


『メテオ!』

『アブソリュートゼロ』

『インフェルノ』


 邪神バルデルスがこれまで温存していた奥義。人には絶対に成すことの出来ない、究極の神級魔法を三重同時術式で発動させた!


 遥か上空には『メテオ』によって隕石が、減速することも無く秒速20キロメートルの速度で圧縮大気プラズマの炎をまといながら落下してくる!


 それと同時にユキトの頭上には青白く発光する『アブソリュートゼロ』の魔法陣と、足下の地面には赤黒く発光する『インフェルノ』の魔法陣が展開された。

 

 それに対してユキトは、バルデルスが究極魔法を三重発動させると同時に『黒丸』を帰還させ、『光の聖剣』を両手で持ち、胸を逸らすほど大上段に構えた。


『次元斬!』


 ユキトはありったけの命を魔力に変換し、それを『光の聖剣』に流し込んで気合とともに振り下ろした。


シュパ――ン!


 まぶしい黄金の光を引きながら、『光の聖剣』が足下の地面まで振り下ろされた。


 黄金の光は時空を断ち切り、プラズマの炎をまとった『メテオ』と、『アブソリュートゼロ』と『インフェルノ』の魔法陣を同時に切断した。


「うおおぉぉぉ――!『流水』!」


 前かがみになっていたユキトは、雄叫びと共に『流水』を発動し、その場から消えた。


 その時・・・


『パパ!この剣を使って!

 この剣は、世界で唯一邪神』バルデルスに傷を負わせることが出来るエルフの秘宝。

 ママが命をかけてバルデルスから守りとおした神剣ユングリング!』


 頭の中に直接響いた少女の声を聞きながら、ユキトは邪神バルデルスの目の前に現れた。

 それは転移のよう見えるが、これこそユキトの秘剣技『流水』!


『ユングリング!』


 己の究極魔法を破られて驚いていたバルデルスは、突然自分の懐に現れたユキトに息を飲んだ!


「うおおおおぉ!」


 左手に神剣ユングリングを召喚したユキトは、渾身こんしんの叫びと共に、淡い緑の光を放つエルフの聖剣をバルデルスのみぞおちに深く突き刺した!


 だが、ユキトがバルデルスにエルフの聖剣を突き立てるのと同時に、バルデルスは己の魔剣ヴァルプルギスを振り下ろしてユキトの左腕を肩から切り落とした!


「ッ!・・・・・・・・・」

「ギヤァァァァァァ―――!」


 これまで神々ですら傷を付けることの出来なかったバルデルスは、この世界に降誕こうたんしてから初めて受けた傷と痛みに絶叫した!


「俺の命を全て吸いつくせ!『光の聖剣』よ、バルデルスを滅ぼせ―――!」


 勇者ユキトは、己の存在の全てを込めて『光の聖剣』をエルフの神剣ユングリングに向かって突き立てた!


 神剣ユングリングは5本の剣に分裂し、花が開くように五芒星ごぼうせいの魔法陣をバルデルスのみぞおちに描き出し、その中心にユキトの『光の聖剣』を迎え入れた。


 バルデルスに突き立てられた『光の聖剣』からは、勇者ユキトの命を込めた聖なる光がバルデルスの体内に注ぎ込まれ、邪神の肉体をかたどっていたものはその聖なる光とともに爆散した!


 光の爆散と共に、己の右腕も失ったユキトだったが、最後の命を燃やし尽くして叫んだ!


「まだだ!肉体を失っても、まだバルデルスの魂塊!神核が残っている!『黒丸』―!」


 『黒丸』を召喚した勇者ユキトは、愛刀のつかを口にくわえ、邪神バルデルスの肉体があった場所に漂っている邪神の魂核を『黒丸』の青白く美しく輝く刀身で切り裂いた!


 『黒丸』の刀身が邪神の魂を喰らうのを倒れながら確かめた勇者ユキトは、異世界の大地に倒れ伏し、二度と立ち上がる事はなかった・・・・・・・・・



*************


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