妹って可愛い!
モンステラ
第1話 新しい家族
「ほら
そうお父さんに紹介されて、わたしはテーブルを挟んで向かい側にいる三人の女の子たちを見つめていた。
桜が咲き誇る四月も今日で二日目。
暖かそうな日の光と舞う桜が春を感じさせてくれる。
こんな日には春の匂いがする風にでも吹かれながら、ゆったりと散歩をするのが好きなおばあちゃん体質だったりするわたし。
そんな普通であれば何気ない一日であるはずの今日。
暖かな外の空気とは対照的に、我が家には肌を軽く突き刺すような緊張感が漂っていた。
なんとわたしのお父さんが再婚することなったのだ。
初めて再婚の話を聞かされたのは半年ほど前。
「お父さんおめでとう!!」と素直に喜んであげるのがきっと娘として最良だったんだろう。
ただわたしは最良でも何でもないただの娘。
実際は急にそんなこと言われても困惑でしかなかった。
何年もそんな気配が一つもなかったはずの父親から急に神妙な顔で「お父さん結婚するんだ……」って言われた娘の気持ちよ。
とりあえず平静を装っておめでとうとは言っておいたよ、うん。
そこはさすがにね。
お父さん、なにそれどういうことって問い詰めるわけにもいかないし。
でも正直に言うと、わたしの中にはおめでとうという感情よりも、とまどいの方が大きかったのをよく覚えている。
まあ時間が経った今はちゃんと受け入れられているのでそこはご安心を。
兄弟も姉妹もいないわたしはもうずっとお父さんとの二人暮らし。
今日から新しいお母さんと、なんと妹が三人できることになっている。
家族が四人も増えるなんて変な気分だ。
だって二から六に増えるってすっごい大家族。
上手くやっていけるか不安でしかない。
そして現在、リビングのテーブル前で自己紹介を目的とした家族会議が執り行われている真っ最中だった。
「由衣、挨拶挨拶」
「あ、えっと…… 初めまして。
緊張しているからなのか、決めていたはずの言葉がスッと出てこなかった。
自己紹介にしては素っ気なかったかな。
これから家族になるんだし、なんかもっと言った方がよかったのかも……
「
「あ、これはご丁寧に……」
わたしから見て、一番左に座っている子がわたしに応えるように挨拶をした。
十六歳ということはわたしと同い年だ。それでもわたしの方がお姉ちゃんだと聞いているので、わたしの方が誕生日が早いみたいだ。
わたしの中の第一印象、清楚。
淡い色の春らしいワンピースにナチュラルなメイク。編み込みが施されたハーフアップが特徴的。表情が柔らかくて、笑顔が優しい。
言葉遣いも丁寧だし、確かに長女っぽい感じだ。
「
そう続いたのは真ん中の子。
「よ、よろしく……」
わたしの第一印象、金髪。
主張の強い金ではなく、少し薄めの白金色。サラサラだし、綺麗だ。
メイクは少し派手なんだけど、それが顔に合っているからなのかとても可愛い。
ただあまりわたしとあまり目を合わせてくれないのはなぜ……
わたしのことをよく思っていなさそうなのはどうか気のせいであって欲しい。
「
「あ、うん……! よろしく!」
確かに茅ちゃんとは顔はあまり似ていない。
(それよりお姉ちゃんって…… 結構良い響きだ……)
わたしの第一印象、元気。
末っ子のイメージ通りの元気さと弾けるような明るい笑顔。そして人懐っこそうな性格はまさに妹って感じ。
ポニーテールが可愛らしい水色のシュシュでまとめられていたのが印象的。
みんな明らかに可愛い。
さすが血が繋がってるだけあるなあ。
「はい、じゃあみんなこれからよろしくね!」
最後にそう言ったのは、
わたしのお母さんになる、というかもうすでになっている人だ。
久美さんとだけは軽く挨拶みたいな感じで、一度だけ前に会ったことがある。
久美さんはお父さんよりも二歳年下だと聞いている。しかしお父さんより年下だと言っても、四十代ではあるはずなのに、年齢を感じさせない綺麗な人だ。
お父さんはどこでこんな人をゲットしてきたんだ。
「よしっ、挨拶もとりあえずは終わったことだし、楓ちゃん、茅ちゃん、柚ちゃん。みんなに部屋を用意してるから、荷物を持って部屋を整理してきていいよ。部屋は二階にあるからね」
みんなこの家に初めて入ってからリビングに直行だったので、部屋には行かず、大きな荷物がリビングに置かれたままだった。
三人ともお父さんに「はい」と返事をすると、すぐにリビングを後にした。
ドタドタと階段を上って行く音がリビングまで聞こえてくる。
みんなの部屋の前にはそれぞれの名前のプレートが掛けてあるから、部屋を間違えることはないだろう。
「じゃあ久美さんも行こうか。部屋を案内するよ」
「え、ちょっと待ってお父さん。そうなるとわたしリビングに取り残されちゃうんですけど……」
「ああ、すまんすまん。じゃあ三人の妹たちと親睦でも深めて行ってきたらいいんじゃないかな?」
「し、親睦……」
「久美さん、行こう」
そう言うとお父さんは久美さんを連れて、リビングを出て行ってしまった。
(親睦って言われても……)
一人っ子だったわたしはずっと兄弟姉妹という存在に憧れていた。
お姉ちゃんのおさがりしかもらえなかったり、妹がテレビのリモコンを譲ってくれなかったり、喧嘩することでさえ羨ましい。
わたしだったらお姉ちゃんのおさがりは喜んでもらうし、テレビのリモコンは喜んで差し出しちゃう。喧嘩は喜んでしますとはならないけど、喧嘩するほど仲が良いって言葉をよく耳にするくらいだから、本当なんだろう。
だから兄弟姉妹に憧れていたのは確かに憧れていた。
だけど一応姉妹ができるという心の準備ができていたとはいえ、わたしはもともと他人とのコミュニケーションがそこまで得意なわけではない。
しかも自分が一番お姉ちゃんです、なんてなってもお姉ちゃんらしいことをできそうな気が一ミリどころか一ミクロンもしない。
わたしは人の助けがないと生きていけないダメ人間。
長女という強制的に持つこととなったダンベルはわたしには少し重かった。
(いやいや、ダメだダメだ。わたしはお姉ちゃん……! しっかりしてないお姉ちゃんなんてみんな嫌だもんね……!)
わたしはぐっと両手を握りしめて、親睦を深めるという初期イベントをクリアするために階段を上って行った。
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