20話 大会初日(3)

 十試合目は珍しい事が起きていた。

【ゴールドキング】が三人しか居なかった。


 四回戦目でオリハルコン同士、全力でぶつかったため、

体調を考慮し、不参加が出たようだ。

もしこの次の試合で回復すれば再び参戦も可能である。

対するパーティーの等級アダマンタイト。

皆体調は良い。欠落が出ても、番号と点数はそのままだ。



(ここがクリステルも言っていた。タフなパーティーが求められるって奴ね)



 先に棄権の告知が入り、そこから皆が心配している賭けが行われる。

カレンは先ほどの試合で疲れたのか。眠っていた。

そして、結果は【ゴールドキング】の敗退で終わる。


 オリハルコンが残り、一つになったところでブーイングが起きた。

どうやら組み合わせに文句を言っている者たちがいたらしい。

有名ギルドの戦いを見に来る層だ。

前回までは、ブロックを分けてオリハルコン同士が最後に当たる様に調整していたらしい。


 この空気感。参加パーティーの数が年々減っている。

今では誰も彼も見た事のある人たちで行われている感じらしい。

そして、人数が少なくなるとある現象が起きた。


 毎回参加してるが、中々勝ち星が付かないパーティー同士の戦いに貴族の息がかかり始めた。

勝った方にも負けた方にもそこそこの金額の提示している。





 次々と試合は進み十三試合目に突入した。


☆☆☆☆☆


ウォーリア(青)

①:18.83

②:125.51

③:3.77

④:17.12

⑤:28.96

⑥:20.92

⑦:18.83

⑧:53.79


平均:35.97


ドルヒ(赤)

①:3.40

②:15.06

③:16.37

④:17.93

⑤:18.83

⑥:20.92

⑦:15.69

⑧:14.48


平均:15.34


☆☆☆☆☆



【観客席】


「ウォーリアのアルマってどんな感じだ?」

「ぱっとしない感じだな。それよりも青③のケイが強い。流石はアダマンタイト」

「他は?」

「他は……悪く無いけど、所詮はゴールドとシルバーってところだな。

あのエルフの少女に至ってはブラック程度と記載があったし、強くない」

「なるほどな。ありがとよっ。参考になった」


 観客は情報交換を定期的に行っている様子。



 カレンが人気が無くなってるのは気になるけど、

まぐれだと思われているのか。

でもこの試合を終えれば、

カレンの強さも分かるでしょう。

私も驚くくらいにこの子は強い。


 開始早々、またしてもカレンを狙って来た。

カレンも対応に慣れた様で、

上手く下がりながら、

ウインドスラッシュで適度に牽制する。



 深く踏み込んで来た勘の鈍い者に、

皆で集中砲火を浴びせる。

深い傷を負いながら後ろの方へと逃げて行った。


 私は赤⑧を追う。良い所まで追いつけると、

魔導師のチャロが止めを刺した。


(ナイスな攻撃ね)


 そのチャロを倒そうと赤④が接近して来たので、

私のファイアーボールで足止めをした。

その間に、エースのケイが次々と相手をなぎ倒す。


 そして、青③当たりで、勝負に勝った。


(誰も脱落してない。良い感じ)


 カレンの頭を撫でていると嬉しそうであった。

大司教はほっこりとしていた。



 次の試合、十四戦目。大きなざわめきが起きた。

皆は掲示板を見ていた。平均倍率が175.16と18.45。

18倍の方は無論、【ドラゴンスレイヤー】。



☆☆☆☆☆


カルコス(青)

①:97.89

②:129.87

③:192.89

④:198.68

⑤:196.71

⑥:194.29

⑦:194.78

⑧:196.19


ドラゴンスレイヤー(赤)

①:1.15

②:19.84

③:20.04

④:20.46

⑤:20.89

⑥:21.34

⑦:21.80

⑧:22.05


☆☆☆☆☆



【観客席】


「まあ、そうなるわな」

「後は十五試合目で挑戦者の【ウォーリア】がどうなるかだしな」

「優勝は決定したし、後の楽しみは何処に賭けるかだなー」

「あ~、俺あと銀貨20枚しか残ってねぇよ」

「ハハハ、もう遅いけど、それ赤①に賭けたら銀貨23枚になるじゃん」



 試合が開始しても【ドラゴンスレイヤー】のラファエルが動かない。

代わりに二番手が剣を抜いた。



 観客席の方で誰かが言った。


「あのパーティーは魔剣持ちが三人いる……」

「なるほど。ラファエルが引いたのは、強いのはリーダーだけじゃないってか」



 強い風を纏った剣を振ると一瞬にして、

パーティー、カルコスを呑みこんだ。

堪えた者も、接近され、難なく場外に落とす。

歓声が上がる。

驚いているのは初観戦者のみ、見慣れた光景のようだ。



(カレンの風よりも強力……あれが噂の魔剣)



 試合を見終わると控室に直行する。

十五回戦目が開始する。



☆☆☆☆☆



ウォーリア(青)

①:16.57

②:97.84

③:4.25

④:25.73

⑤:24.24

⑥:15.94

⑦:29.33

⑧:50.58


平均:33.06


ゼルドナァ(赤)

①:3.26

②:7.49

③:13.99

④:19.55

⑤:77.15

⑥:16.80

⑦:16.47

⑧:19.55


平均:21.78


☆☆☆☆☆



【観客席】


「この試合どう見る?」

「ん~? カレンちゃん可愛い。まあ、俺はアルマでもイける。

可愛いし、適度な筋肉がたまらん」

「ちげーよ。お前何処に賭けた?」

「赤①だけど」

「青じゃねぇのかよ」

「いやー、これがなくなると生活費がなぁ。お前は?」

「青③。アダマンタイトだ。相手が同じ等級でも何とかやってくれるんじゃねぇかってな」

「混合パーティーに入れんのか?」

「う~ん。アルマちゃんの動きがいいんだよなー」

「分かる。胸と尻だろ?」

「死ね……と言いたいところだが、頭からの否定は良くないな」



 観客は試合を適当に見ていた。



(16倍か……前試合よりは人気は出てる。

でもまだカレンの強さに気が付いてない人が多いみたいね)


 平均は妥当な数値。三人とは言え、オリハルコンを倒したパーティーという評価。

さらに向こうは寄せ集めでなく、等級アダマンタイトの八人パーティー。



 基本は前回と同じ。脱落者が出ないように細心の注意を払って、立ち回る。


 試合が始まると前パーティーとは違い、こちらの様子を見ている。

それならと、私(炎)、カレン(風)、チャロ(地)、

エッバ(弓)、マルグレット(雷)で遠距離から攻撃する。

相手もそれに魔法をぶつけたり、回避しながら動き始める。


 僧侶と魔導師に攻撃を集中して来る。

マルグレットとドロタを狙っているようだ。


(うん、このパーティーは等級で見てない。

カレンの強さを理解している。

そう簡単に刈り取れないってね)


「カレン、ドロタの援護を。ヤナはマルグレットの援護を」


「分かった!」「了解っ」



 ウインドスラッシュを飛ばしながら接近し、細剣を振るう。

相手はかなりの強敵の拳士。若干押され気味ではある。

しかし、守れている。

私の相手は赤①。強い。

防御重視で立ち回り避ける。

そこでさり気なく全体を確認する。


(部分的には勝ってるけど、全体では私のパーティーが押されてる。

早いところ、ケイに決着をつけて貰わないと……そこね、《アウラー》)


 アルマは下級の風魔法で足元を狙う。


『おおっと、赤②がバランスを崩したぁぁあ! 

青③選手の激しい猛連撃を受けきれなかったかぁ!』



 ケイが点数を取った事で観客席から歓声があがる。

そこでヤナが大ダメージを喰らいそうになった。

《セヘルスクード》という防御魔法で彼女を守る。

攻撃を受けた方、放った方、どちらも何も起こらなかった事に困惑していた。

ケイがその隙を見逃さずに背後から強力な一撃で意識を奪った。


 同時にカレンが赤⑦を倒した。

油断を誘いカウンターを決めたようだ。大きな喝采が鳴り響く。


 ケイが私の対峙している赤①の背後に居た。

流石はリーダーで、ケイの不意打ちを防いだ。


「よく耐えたな等級シルバー! 後は私に任せろ!」


「くっ!」



 流石に、シルバーよりもアダマンタイトを持つケイの方を向いて、戦い始めた。

私は誰からも分かる普通の一撃と、分からない程度に嫌がらせを混ぜつつ、

追い詰める。二体一では抑えきれずに赤①も脱落した。

そこからは簡単で数の優位を活かし一気に片を付ける。


 カレンを撫でていると大司教も優しく頷いた。





 本日の試合はここまでだ。後は最終日に決勝戦がある。

遠くで労いの言葉をかけているクリステル。

パーティーを一時解散し、

私とカレンはクリステルと合流した。


「お疲れ様です。アルマ、カレン」


「ねぇ、本当に勝って良いの?」


「え?」


「だって貴族は殆ど【ドラゴンスレイヤー】のパーティーに賭けるでしょ? 

睨まれたりしないの?」



「私はっ。この大会が小さい頃から好きでっ……でも最近は……

新鮮な風を入れたい……だからっ、アルマ。やっちゃってください!」



「そう、分かったわ」





【とある部屋】


 ケイ、チャロ、エッバ、マルグレット、ヤナ、ドロタは集められていた。


「ケイ、話って何よ?」


「すぐに分かる」


 明かりが付くと女性がすでに座って居た。

その顔を見て


「ゲルデ・ラムリー……バルカレス伯爵の令嬢っ」



「話が早くて助かるわ」


「な、何の用ですか?」



「決勝戦。万全な状態のオリハルコンパーティーに勝てるかしら?」


「で、出来る限りはやるつもりですが!」



「そう。良い心がけね。褒められる行為だわ。

挑戦者を気取った連中なのが勿体ないくらい」


「な、何が言いたいんですか?」


「普通は負けても称賛を受けるだけ。

でも貴方達は愚かにも、その程度の等級で、

オリハルコンを倒せると豪語した……道化。

周りの風辺りが辛くなるかもしれないわね……」


「そ、そんな事は……」


「でも、私のお願いを聞いてくれたら、

指名の依頼と資金援助をするわ。

これでギルドを抜けるも続けるもよし。

一回一回、命を懸ける仕事なんてつらいでしょう?」



「!?」



「さらに私の口添えで正しい事実を伝え、名誉も守りましょう……」


「な、何をすればいいんですか?」



「簡単よ。体調不良で棄権してくれればいい。

そうすれば試合でボコボコにされる事実はなくなる。

あのアルマという女が無理やりパーティーを作った。

酷い事をされ、棄権したとでも適当に言えばいいのよ。

私もそれを肯定する」


 ケイが皆に言う。


「これで私たちも被害者ってわけだ。

だって考えてもみろよ、ミスリルもいねぇ。

シルバー、ゴールドの集まりだぜぇ。

マジでダセーよ。挑戦しようってのが、イカレてる」



「……ゲルデ様のお考えが分かりません。

そんな事をしなくても【ドラゴンスレイヤー】の勝ちはゆるぎないのでは? 

わざわざこんな危険な真似をしなくとも……」


「もちろんこっちにも利点はある。

絞りやすくなるのよ。

それに……あの生意気な馬鹿女にも屈辱を与えられるネタが出来るしね」



 ゲルデとケイは彼女等の表情を見て、ニヤリと笑った。


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