14話 因果応報と私怨(決着)

 ヴァイオレットはソロモンと別れた後に裏路地に居た。

そこで背後から急に頭を殴られて意識を失った。


 目が覚めると美男子たちが居た。

魔道具の鎖で拘束され、裸にされていた。


「な、なんだお前たちか。

最近は放置してすまなかった。

こんな事しなくても言ってくれれば可愛がってやるのによぉ。

ほら、いつでも良いぞ」


 ヴァイオレットは腕に鎖を巻かれ、

釣られた状態で腰を落とし股を開く。

そこで男は思いっきり顔面を殴った。

ぐしゃっと嫌な音が鳴る。


「あひを……ふる」



「よくも今までいたぶってくれたよねぇ……

今度はそっちの番だよねー」


「お前が強いからどうする事も出来なかった。

でも、何か知らないけど実は弱かったんだって?」


「ひ、ひがぅ……ごぁっ」


「ああ? 何言ってんだぁ? 言葉しゃべれよッ」



 それを無視して何度も殴り始めた。

その中には回復魔法を使える奴もいた。

死なない程度に痛めつける気だろう。


 足音が聞こえた。

私は取り合えず挨拶をした。


「こんにちはー。差し入れに来ましたー」


「アルマ! 助けに来てくれたのか!?」


(……はぁー。なんでこいつらはこうも……)



「ア、アルマさん!?」


「な、なんで【ブレイブヒーロー】は解散したんじゃ!」


「ハッ! お前たち! 

私の奴隷の分際でよくもいたぶってくれたな! 

借りを返すぜぇ」



 何故か急に強気になったヴァイオレットは無視する。



「私に気にせず、続きをどうぞ」


「え?」


「特に助けに来たとかじゃないから。

ソロモンに使った毒の余りがあったから、持って来ただけよ」



「毒……ですか?」


「解毒剤もあるからこれを使って楽しんでね。

後、下剤もあるわよ。こっちはさっき買って来たの。

気が向いたら使ってね」


「あ、ありがとうございます!」


「お気遣いどうも!」



「お、おいアルマ! 冗談だろ! 私たち仲間じゃないか! 

じ、実は助けに来たけど、照れてるんだろ?」



「んー。じゃあこれ」



 私は日記をテーブルに置いた。


「一日一回、痛みと謝罪の言葉を書いて。

それで私の気が変わったら許してあげる」


「わ、分かった!? 書くよ! 毎日書く! 

こんなに反省しているから! 約束だよ!」


「うん、約束よ。それじゃーねぇ~…………

ヴァイオレッット……」


 最後にその表情をジッと見つめながら去る。

彼等には裏でコソっと伝えた。

許す気はないから、後は好きにしてくれと。




【見つからない女】


 一番困ったのはノーマの場所だけは見当もつかない事だった。

都市中を探しても居ない。もしかしたら別の場所に逃げたのかも。

困り果てていると、瘦せている怪しげな男の人がいた。

知り合いでもないのに普通に話しかけて来た。


「ここここんにちは。アルマさん」


(誰?)


「こんにちは。貴方は?」



「ぼぼぼ僕はノーマちゃんの恋人です!」


「ん? 本当に?」


「え、ええ! ままま毎日デートをして! し下着までもらってる仲です!」


(……ノーマに貢いでいた一人ね……あれ?)



「ノーマが何処に居るか知らないかな?」


「ししし知ってます」


「え? 本当に!」


「ででででも! 今はノーマちゃん情緒不安定で。

近づこうものなら殺されかけて! しし心配です」



「なるほど……ねぇ……ノーマと幸せに暮らしたくない? 貴方なら彼女を救えると思う」


「え!? そそんな事、可能ですかっ?」



「軽い条件があるけど」


「ぜ是非話を聞かせてください!」




 ノーマは貢がせた金で密かに購入した家の隠し部屋に居た。

そこで怯えながら暮らしていた。

そんな時、扉が開き、明かりが差し込んだ。



「は~いノーマぁ~。こんばんは~」


「アアアアア! アルマ!? 何でここに!?」


「ここここんばんは。ノーマちゃーん! さささ寂しかったかな?」


 隣にはいつも貢がせていた瘦せた男がいた。


「う! 裏切ったのか!!」


「とととんでもない。ア、アルマさんはノーマちゃんと僕を応援してくれる! いいい良い人だよ」



 ノーマが魔法を発動しようとするが魔道具の鎖で即拘束する。


「くっ、くそ!? 離せ! ビッチ! きもクズ屑野郎!?」


「ノーマちゃん? どどどどうしたの? ここ言葉使いが」



「ははは、気にしない。照れてるだけよ」


「な、なーんだ! ビックリしたよ。ゆふふふふ」


「それじゃあ、ノーマ幸せ作戦を決行しましょう」



「まま任せてください! アルマさんもミスらないでくださいよ!」


「大丈夫。私を信じて」


「な、なにッ……なんで……その手の……なんだ」



 ノーマはノコギリを見て怯えていた。

予め相談した通り、先に秘密の話があるのでと、男には耳を塞いでもらった。


「ねぇ……ノーマ。一つ……教えて欲しいの。何で私に呪術をかけたの?」


「は、はぁ! ななな何の事よっ」


「じゃあ、弁明は無し? もう話は終わりで良いのね」


「わッ! 分かったわよ! 話すから!」



 ノーマは私に憎しみの顔を見せて心の底を覗かせた。


「……ソロモンがずっと好きだったの! 私の方が先にねッ!! 

貴方よりもずっと愛してたわ!? 

貴方は知らないでしょうけど、振られた時の彼は見てられなかった! 

貴方が居る限りソロモンは不幸になる!」


(本当に……こいつ等は……)



「レイラは? 貴方にも懐いてたわよね? お母さんは?」


「ソロモンはレイラにも興味を持ってた! 

貴方に似てるからね! そんな危険な女を生かしておけない!

おばさんは術の発動に足りなかったからよっ!!」



「分かった……私……貴方を生かすわ」


「アルマ。分かってくれたのね!」



 男をトントンと叩くと耳栓を取った。

ノコギリでそのままノーマの腕を切り落とす。

悍ましい獣の様な叫びが鳴り響く。

近所迷惑にならないか心配だ。


 私は余りの痛みで気を失いかけているノーマに、

回復魔法ですぐに止血して刺激を与え起こす。

過呼吸になりながら恐ろしい形相で私を睨んだ。


「アルマぁ!」



「私は……貴方を生かすだけ……彼は貴方が欲しいだけ……

さっ。後、三本……ゆっくりお願いね」


「ははい! お任せあれ!」


 それを聞いてノーマは怯えた表情を見せた。


「待ちなさい! 分かった! レイラを生き返らせてあげるから! 止めて! 

お願いよぉぉぉぉ! 痛いッ痛いのよ! 幾ら治しても痛いのぉぉぉお! 

だから助けてぇぇぇえ! 今までの事は謝るからぁぁあ!」



「ノーマちゃん……そそそんな事不可能ですよ。人を生き返すなんて……

ソソソソロモンのクソ野郎に裏切られたのがそんなにもッ……だだだ大丈夫。

ぼぼ僕が。僕だけが出来る。ぼぼぼ僕が救ってあげるからねッ」



「そうね……その通りだわ……」



 ノーマは絶望で顔を歪めていた。

そして、憎悪を込めて叫ぶ。



「く、狂ってる! お前たちは狂ってるわッ!」



「……ノーマ……私を強くしてくれて、ありがとう」



「まってぇぇ!!!! アルマぁぁぁああああああ!!!!」



 悲鳴は止まらない。激痛がノーマを襲う。

なりふり構わない汚い悲鳴だ。

しかし、死ねない。

強大な魔力を持ってる者の回復魔法が成せる業。

ショック死は許さない。



 私は満足したので帰宅する事にした。後は頑張ってと応援した。

二人だけになった部屋で男は嬉しそうに服を脱ぎ、ノーマの服を少しだけ脱がす。


 服を脱がせても抵抗しない事に喜ぶ男。ねっとりと体中をなめまわす。

両想いになれたとか何とか叫んでいたのがかなり遠くまで聞こえた。


「ぼぼぼ僕の方が短小ソロモンより大きくて気持ちいいです! 

ノノノノーマちゃんの気持ちいいところも全て分かるんだよっ」



 どうする事も出来ない事態。ノーマは徐々に壊れていった。







【お迎え】



 カレンを迎えに行くと、勢いよく抱き着いて来た。

それを受け止めて抱きしめ、抱っこした。



 遠くにいた大司教は、私を引きつった顔で見ていた。

部下に見張らせていたのだろう。


「お前は悪魔か……」


「……大丈夫。もう気が済んだ。私はアレに関わらない。

それにどんなに悲しくとも、死んだ人は帰って来ないから……」


「……もっと早く気が付くべきだったな」


「……」



 そう、悲しいけど、起こったものは仕方ない。

それにもう復讐は終わった。

気が済んだのは本当だ、これは嘘じゃない。それに。



「今の私にはカレンの成長の方が大事。だからもう大丈夫」



 私の顔を見た大司教は何かに納得し、目を閉じた。

ゆっくりと近づくと、カレンの頭に手を置いた。


「カレンよ。命を粗末にしてはならんぞ。

決して無茶をしてはいけない……最悪の場合、世界を滅ぼす怪物が生まれるかもしれん」


「……どういう意味よ」



「……」



「大丈夫! アルマはそんなのにならない! 私を助けてくれたから!」



「……そうか……それで、ギルドに行くのか?」



「それはそうよ。私たちは【ウォーリア】。依頼をこなさないと。

それにオリハルコン等級を目指してるから」


 等級が上がるほど受けられる依頼の幅が増える。

多くの人を助けられる。


「そうか……」



 最後に。私は思い出す。カレンと出会い、

この短い間だが様々な出来事があった。



「大司教様。色々お世話になりました……」


「今更か……らしくない。まあ、そう思って居るのなら、

私の生きている間は大人しくしていて欲しいものだ」



「善処します」



 私は出来る限りの笑顔でそう答え、教会を去って行った。

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