第26話 船上の不利

第26話 船上の不利


 私は「時の加護者」アカネ。

 いよいよ私たちはカレン調査船に乗り込んでギプス港を出港した。さて、光鳥シドの羽根の気配に海獣プーフィスが先か、それとも翠のレフィスが先に現れるのだろうか?どちらにしろ私のことは覚えていないだろうし、魔人を乗せている船を簡単に通すようなことはしないだろう。考えても仕方がない。こうなったら成るように成れ!


—航海2日目


 (あの子たち、無事にフェルナンへ着いたかしら.. )


 私は船の上の不利をハクアとの闘いで知っていた。接近戦で闘う自分とシエラに最も不利な場所が船と言える。それ故に、ラインとソックスに言伝という名目のもと、この航海から遠ざけた。


 もちろん、2人は嫌がって縋りついてきたけど..


 その温もりが今もまだこの腕に..


 「ラインとソックスが心配ですか? 」


 甲板にシエラが上がって来た。


 「うん。だって私にとって2人は弟と妹だもん」


 「大丈夫ですよ。『時の加護者』の恩恵を持つ2人に追いつける者など絶対にいませんから」


 「そうだね」



 航海2日目にもなると陸から遠く、空には水鳥の姿さえ見えなくなっていた。



 「そう言えば.... クローズが言ってました。あいつ、魔人の手下と思われる魔獣と闘ったと」


 「そうなの? シャーレは言ってなかったよ」


 「あの方は基本、こちらから訊ねなければ答えないですから」


 「そうだけど.. で、やっつけたの?」


 「はい、無論、ぐちゃぐちゃの肉塊にしたそうです」


 「よかった.. 見ることなくて.. 」


 「気になるのはなぜ魔獣を闘わせたかです。その場にはソルケもいました。ソルケとクローズを相手に魔獣などでは歯が立たない事などわかりきっている。では、なぜ闘わせたのでしょうか」


 「弱点とかを探っているとか? 」


 「もちろん、それもあるでしょう。しかしその弱点を知ったとしても『法魔の加護者』の副産物であるあいつらが『加護者』やそのトパーズに勝てないのはわかりきっている。憶測ですが、僕が思う事を言ってもいいですか? 」


 「うん」


 「あいつらは僕らに勝てる確信があるんだ」


 「でも、さっき『勝てないのはわかりきっている』って.. 」


 「はい、それは今の現状です。あいつらは将来的に勝てると見込んでいる。だから僕らがどれくらいの強さかを観察して、自分が闘いを挑む時期を見計らっている。だから、あいつらは無暗に国攻めをしない。それは一重に『今』は勝てないから。僕はそう思うのです」


 「じゃ、今は力を蓄えているって事? 」


 「蓄える.. いいえ、力を蓄えても所詮は魔人。僕は何かもっと違う事を考えているように思うんです」



 「へぇ、その『違う事』って何だろうねぇ。俺も知りたいな」



 まさか!

 私の耳元で囁いたのはダリと同じ右耳に6連ピアス左耳に大きな1連ピアス、そして下唇にリップピアスを付けている15歳くらいの少年だ。


 シエラの拳が唸った。


 「ははは。シエラさん、あんたの先制攻撃がくっそ鈍いのは、ダリの情報で知っている」


 まるで空間を瞬間移動の様にジャクは宙に浮いている。


 「あんた、ジャクね。私たちを待ち伏せしていたの? 」


 「はははは。待ち伏せなんかしねーよ。そんな面倒くさい事するなら、こちらから行ってやるさ」


 「なら、なぜやって来ない? 」


 「 ....」


 シエラが逆に聞き返すとジャクは黙ってしまった。


 「ね、アカネ様、言ったとおりでしょ。こいつらは僕らには勝てないことを承知しているんですよ」


 「う、うるせー! それよりもお前ら、どこへ向かっている? 」


 「お前に教える義理なんてないだろ? それよりも家に帰れよ。あ、そうか、お前らは家の場所がわからなくなって帰れないんだっけ? 」


 シエラがジャクを煽りまくる。


 「きーっ! 」

 

 〘 落ち着きなさい、ジャク。貴方は貴方がやれることをしなさい 〙


 「シエラ、今、何か聞こえなかった? 」


 「ええ、僕にも聞こえました」


 「 ..ふぅ.... わりぃ、ドルヂェ 」


 ジャクはぶつぶつと独り言を言いながら落ち着きを取り戻した。

 そして、また船に降り立つと、質問を繰り返した。


 「いったい何処にいくんだ? ..ん? 何か感じるな.. この気配は.. そうか、お前らルカを乗せてやがるな」


 〘 〇〇〇——〇〇、——〇〇〇 〙


 「また、何か聞こえる。アカネ様、わかりますか? 」


 「小さい声でわからない」



 「ルカに俺とダリの邪魔をさせるわけにはいかねぇ」


 ジャクは指を天に向かってゆっくりと回転させ始めた。

 

 魔法を使うつもりだ。


 「船長―っ!! 全力で前進して!」


 「無駄だよ。あんたらはここから進めなくなるのさ」


 —リィ リィリィリリリリィ —


 今まで水鳥1羽もいなかった空に大きな鳥が2匹現れる。


 次の瞬間、冷鳥フロアが船に向かって冷たい咆哮をあげた!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る