2章 永遠の凍結

第17話 ルル診療所

 私は「時の加護者」アカネ。

 私とシエラは現世で無事に魔人ルカを異世界アーリーに連れ戻すことが出来た。しかし魔人ルカを研究しようとする非道なN国に対して憤慨しちゃった私たちはちょっぴり暴走。ワムに変身してN国最高権力者にお仕置きをしてしまった。ちょっとは反省したかな?


——王国ポルミスとは架空の国、ここはナンパヒ・パカイ・ラヒ(儚き命を憂う島)という謎多き島。


 この島を見つける事は人間には非常に困難な事だ。島は常にこの大洋を移動し続け、空と海にはその守護者がいるからだ。侵入する者は容赦なく排除する。


 だが、例外も存在する。太古よりこの世界に恵みを与え続ける光鳥ハシル(ドライアド)の一族に関しては、ナンパヒ・パライ・カヒを見守り続けるセイレーンも首を下げるのだ。


 光鳥クリルの背中に乗るドライアドを迎えに来たのは、翠のレフィスだった。


 「レフィス、大きくなりましたね」


 「ハシル様、お久しぶりでございます」


 レフィスの案内で無事に島に着くと、光鳥クリルは『お母様が用を終えるまでここで待ちます』と言い張った。しかし『自分の使命』の意味を諭されると、クリルは渋々、守るべきフェルナンの地へ舞い戻るのだった。


 「では、森の中へ」


 レフィスが迷いの森に案内しようと歩き出すと、ドライアドはパタリと足を止め、未完の白浜に建つ「ルル診療所」を見つめた。


 「ありがとう、レフィス、でも森へ行くまでもないみたいよ。どうやらセイレーンがこちらに来てくれたようです」


 ドライアドがルル診療所へ入ると、セイレーンがテーブルでお茶を嗜んでいた。


 「セイレーン、私がここに来た用件はわかっているでしょ」


「はい、ハシル様」


 「レフィスにしろ、あなたにしろ、なぜ私を昔の名で呼ぶのです。私の名はドライアドですよ」


 「私たち鳥族にとってあなたは永遠に伝説の光鳥ハシル様です」


 まるで押し問答の話にルルが割り込み、ドライアドをテーブル席へ促す。


 「それで、あなたは知っているのですか? あの『秩序の加護者』結月の居場所を」


 「結月は、今、イバニー国の孤児院にいます」


「孤児院? 彼女を孤独な子供に戻したという事ですか? 」


 「いいえ、『秩序の加護者』に覚醒した彼女は、3主のひとりです。時を奪われることはありません。ただ.. 」


 「『ただ.. 』 なんですか? 直ぐにでも彼女の力が必要とされているのです。今の事態をわかっていますよね」


 「それはできません。彼女の力はしばらく封印されています。彼女は彼女の願いによって秩序を乱したのです。一度進んだ時を取り消すという重大な秩序を。だから彼女の『奇跡の目』は封印され、記憶もこちらで生きて来たものに上書きされています」


 「でも、今は新たな脅威が迫っています。お願いです。どうにか成らないのですか? 」


 「これは、星の意志です。光鳥ハシル様の願いとしても、どうにも成らないでしょう」


 諦観したセイレーンは過去を顧みながら憶測で返事をした。


 「セイレーン、あなたに聞いているのではありません。ルル、あなたに聞いているのです」


 ドライアドの一連の会話は全てルルへ向かって質問されたものだった。セイレーンはそれらの答えを代弁していたのだ。


 ひとつ息を吸うと黙っていたルルが口を開いた。


 「ドライアド、それは私が答えるべきことではありません。私は星の意思を語る者であり決定者ではないのです。今、私からあなたにしてあげられるのはお茶を入れるくらいなのですよ」


 隣の部屋で赤ん坊の泣き声がする。


 「あの子が目を覚ましたようです。オムツを替えてきますね」


 しばらくして隣の部屋から戻って来たルルの腕には、清潔なオムツに上機嫌な赤ん坊が笑っていた。


 それはツグミだった。


 「ハシル様、なぜツグミも加護者のひとりなのに、年齢が若返ってしまったのでしょうか」


 セイレーンは自分にわからない事をハシルに質問する。


 「ツグミは若返ったわけではありませんよ。魂は自らの意志で肉体だけを若返らせているのです。セイレーンよ、ツグミは他の加護者とは少し違うのです。ツグミの魂は彼女の肉体には宿っていないのですよ。これを知る者はごくわずかです」


 その時、未完の白浜の向こう側に曇り空を見たルルは、干してある洗濯物の取り込みに慌てて外に走って行った。


****


—王国シェクタ 西の塔—


 「ダリか? 」


 「只今帰りました、ブレス様」


 ダリが空間のドアから入ってくると、ブレスは彼女をきつく抱きしめる。そして耳元で吐息をあてながらささやくのだ。


 「んん~.. 良い香りだ。私はお前の甘い香りが好きだ。お前の集めた魂はその香りを宿すのも実にいい」


 「 ..あ.. あ、あ.... ブレス様」


 「もうすぐだ。私の身体を通して真の魔界が完成する。理不尽に命を絶たれた可哀そうな魂たちは新たな力の息吹となるのだ。もっと見つけてきておくれ、ダリよ」


 ダリは激しく唇を奪われ、集めた魂の欠片は、その唇からブレスの身体で何かに変わっていくのだった。


 そしてダリの耳には新たな美しい装飾が加わり、ダリはより淫らな姿になっていく。

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