第4話 地球の歩き方
私は「時の加護者」アカネ。
なぜシャーレがシエラを私の魂の中に送り込んだのか理解した。あの危機的状況はシエラの力が無ければ回避不可能だ。しかし、シエラが力を解放した時、その姿だけではなく、潜在する力にも私は驚愕していた。
—初大駅前交差点 ビルの屋上—
「いやぁ、びっくりしましたね。まさかこんな風になるとは思わなかったです」
〖シエラ、あなた知っていたの? 〗
「いやだなぁ、アカネ様。知ってるわけないでしょ。こんなの初めてなんですから。しかし我ながら綺麗ですね。僕の要素がでているのかな? 」
〖な、何言ってるの? 全然、出てないじゃん〗
何となくすんなりとこの事態を受け止めているシエラに少し腹が立った。
〖もう元にもどっていいんじゃない?! 〗
「 ..怒ってますか? 」
〖怒ってない! ..ごめん.. ただ戸惑っているだけ〗
今頃、誰かのスマホ、何処かのカメラで撮られた映像が、既にSNSで流されていることだろう。
今の時代、瞬く間に拡散され、身元まで割られてしまう恐ろしい時代だ。
だけど、実際どのように検索してもこの事故の動画が出てくることはなかった。
TVニュースでこの事故を取り上げていたが、街頭カメラや車載カメラ、またはスマホからの映像情報は一切なかった。
何かが干渉しカメラ映像を乱してしまい、どれも使い物にならなかったそうだ。
おそらく、その何かとはシエラが解放した未知のエネルギーであろう。
——そして、シエラが魔人の気配を察知したのは、それより7日後の月夜だった。
〖アカネ様、今日は嫌な気配を感じます〗
「魔人なの? 」
〖はい、間違いないです〗
「わかった。じゃ、『時の狭間』を開くよ」
はじめての事だった。本当にうまくいくのだろうか? いや、シャーレが教えてくれたやり方だ。きっと、うまくいくのだろう。取り敢えず試してみるしかない。
私の右手に時計が浮かび、針が回転し始めると、空間全てが真っ白になっていく。
全ての物や人がまるで白いキャンバスに描かれた線画へと変わっていく。これが現世と異世界の歪みの中にできた「時の狭間」だ。
〖これが「時の狭間」なんですね。実は僕、入ったの初めてなんです〗
「そうなんだ。それよりも気配を.. 気配を教えて」
〖アカネ様、気配を教えると言っても気配は感じるものだから教えられないですよ〗
「でも、どっちの方とかってあるでしょ? 」
〖いえ、そうじゃないです。こう、身体を舐められているような感触を感じるだけで〗
「それじゃわからないよ。いったい、どこに出口を作ればいいの? 」
シャーレが教えてくれたのは「時の狭間」の中でシエラの感じ取った気配に向けて出口を作れば、世界の何処かにいる「魔人」の近くへ出口が開くというものだった。それは以前、無限空間に落とされたシエラが私の気配を感じて出口を見つけた事と同じ理屈だという。
〖そうだ! アカネ様、この前のやってみませんか? 僕が力を解放してアカネ様の身体を一時的に借りるやつですよ〗
「え.. うん」
あまり気乗りはしなかった。そこに私の意識はあるのに身体はシエラの意思で動かされるのは、正直あまり気持ちの良いものではないからだ。
〖わかりました。基本的にアカネ様の意思に同調するようにします〗
「シエラ、今、私の気持ちを覗いたの? 」
〖いいえ、感じました。アカネ様、僕らトパーズは加護者によって命を与えられ、加護者を守るのが使命です。僕はアカネ様の一部だということを忘れないでください〗
そうか.. 私は忘れていた。シエラが私を守る為なら命を捨ててでも使命を果たそうとするトパーズだという事を。それなのに、変なこだわりを持っていたのは私だった。
「ごめん、シエラ。私、ダメな加護者だね。シエラは私。私はシエラだ。 よし! やってみよう。シエラ、力を解放して」
〖はいっ! 行きます、アカネ様!! 〗
黒い髪は白く変化し、髪が伸び、目線が高くなる。
身体はわずかに光っているかのように白い。
そして今、全身に力がみなぎっている。
右手の時計が更に回転すると、描かれた線画が消しゴムで消されていく。そして何処かにいる画家が新しい線画風景を描いていくのだ。
線画が完成すると、それに合わせて自動的に着色されていく。
月夜に浮かぶピラミッドがそこにあった。
風は少し冷たく、足の感触はゴツゴツと固い。
私はスフィンクスの頭上に立っていた。
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