時の加護者のアカネの気苦労Ⅲ~闇を招く手
こんぎつね
1章 Fly Me To The Moon
第1話 プロローグ~White and Moon
「ああ、そうだ! だんだん思い出してきた。まただ、また僕は破壊してしまう。逃げて!逃げるんだ!」
(嫌だ。もう嫌だ! 僕に優しかった人たちを消さないで.. 誰か.. 誰か僕を消し去って)
少年から出現した炎は、その身体を燃料にするかのように一気に村を焼き尽くした。
炎に飲まれた少年のベッドには、看病をしてくれた少女・ケディの飾った花だけが残っていた。
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白い蛇、白い虎、白い狐、白い猿などを神聖な者とする風習は世界各国に存在する。
それは単に白いものには穢れがないからなのだろう。
それとも、古代の人々が本当に神の使いを目撃したのか..
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「こちらM911、ターゲットが現れました。Zel部隊、作戦を実行してください」
「Zel01、作戦を実行する」
「隊長、こんな幼稚な作戦、成功しますかね? 」
「文句を言うな。いつも作戦自体は効果あるんだ。ただ.. 」
「『ただ.. 』なんすか? 」
「ただ、あの女が常識はずれのモンスターだってことだ」
そう言いながらもテロ特殊部隊ラズウェルは、反防特殊ゴーグルでその女を目視すると、またしても一瞬心を奪われてしまった。
そこには、白い髪、白い肌、エメラルドの瞳の女が、神々しい月光りに照らされて立っているのだ。
女は擦れた風にそよぐその長い髪をキュっと紐で束ねた。
足を踏み出すとサクッとまるで
踏み潰したのは一辺10cmの白色化したコンクリートの塊だった。
『痛い。誰か.. 助けて.. 助けてくれ.. 誰か.. 』
瓦礫の下から男の声がする。
「ターゲットS地点に向かってます」
「こちら02、確認補足完了」
「03、ロック完了」
「およそ5秒、—4、—3、—2、——」
***
——アメリカ国家安全局はアフリカ国連事務局より届いたある映像を解析した。
そこには3週間前、国連が統括する小さな村で起きた悲劇が記録されていた。
その解像度は非常に悪かったが、その爆炎ははっきりと映っていた。
闇よりも闇色の炎は中心から綺麗なドームを形成し、餌を求める捕食者の様に形あるものを容赦なく飲み込んでいく。
炎は全てを灰に変えると、大きなつむじ風となり消え去った。
黒炎に包まれた人工物、動物の類は消滅したが、信じられないことに草や木や花などの植物だけは何事もなかったかのように風に揺れていた。
アメリカ機関は解像度の悪い映像から、そのテロ現場にいた一人の少年の姿を確認していた。
ここ最近、乱発する爆破テロ。どこの国のテロ事件であっても必ず確認されている少年だ。
この奇妙で恐ろしい爆破テロに最も関係する少年。
CIA、国家安全保障局、テロ対策特殊部隊などは、この少年を[Aestus]と名付けた。
少年の容貌は黒髪の東洋人のようでもあり西洋人のようでもある。
不思議な事に頭の中に記憶しようとしても直ぐに記憶が朧げになり、忘れてしまうのだ。
少年は爆発直後に姿が消えると、その数分後には何千キロもはなれた国のカメラにその姿が確認される事もあるのだ。
まさに神出鬼没だ。
そして、今、アメリカ国家安全保障局はオクラホマのタルサの町をふらつき歩く少年の姿を確認した。
人の記憶をごまかせようと、人類の英知である顔認証AIをごまかすことは不可能だった。
テロ対策特別部隊
人に知られてはいけない研究や、国家機密の資料が格納されている施設だ。
当然、その施設の外壁・内壁は爆撃攻撃をも想定されていた。
少年は丸裸にされ、さらにはX線写真にて体の中まで調べられた。
倫理観に欠ける拷問や自白剤による取り調べが行われたが、有力な情報を得ることはできなかった。それどころか、少年は自分の事もまったくわかっていないのだ。
そして少年を拘束して4日目の満月の夜..
その闇色の炎はおよそ半径1kmの範囲で強固な軍の施設を薄紙のごとく燃やすと、全てを真っ白な灰と化してしまった。
闇の炎に燃やし尽くされた少年は、まるで別の空間に吸い込まれていくかのように消えてしまった。
アメリカは全てにおいて失敗したのだ。
テロ対策特別部隊WAMは作戦をBプランに切り替えた。
テロ現場に必ず姿を現す謎の白女を拘束する作戦だ。
アメリカ機関は、[Aestus]と同様、この白女をテロ組織の関係者として認定していた。
白女のコードネームは「White And Moon=WAM」とされた。
****
———「およそ5秒、—4、—3、—2、—1、——」
消音器のわずかな音から発射された麻酔
瓦礫の下の助けを呼ぶ声を調べようと身をかがめる白女。
だが、あったのは無線小型スピーカーだった。
『 .... 』
発射された麻酔銃が女に到達するまで0.3秒。
だが、その0.3秒という速さは女にはあまりにも緩慢すぎる速さだった。
身をかがめた瞬間にその麻酔を脚でゆっくりと払いのける。
連携攻撃として、直ぐに後方より拘束榴弾が発射された。
飛散する破片をよけながら、拘束器の重心点を見抜き、そこをめがけ脚を振るった。
その瞬間、複雑な特殊ラインを広げた拘束器は、羽をもがれた蝶のように力なくポトリと落ちた。
「な、なんだあいつは! 」
「Zel04部隊! 制圧しろ! 」
気配を隠していたつもりのZel04部隊は銃機器を構え、白女を取り囲んだ。
『どうしますか? 』
その時、ラズウェル隊長は初めて白女の声を聞いた。
彼はその言葉を知っていた。
日本語だ。
意味は『What should I do?』
『わかりました』
ラズウェルはその言葉の意味も知っている。
そして背中に冷たい汗を感じた。
「全員、退避しろ!」
叫んだ瞬間、女は思いきり地面を蹴った。
その蹴りにより空間全体が大きく振動すると、地面の細かいパウダー状の灰が一斉に巻き上がる。何もかも全てが白くなる。
「We are not your enemies.(私たちは敵ではない)」
その声と共に白女は姿を消した。
赤外線で見張っていた者は首を横に振る。
ラズウェルは思った。
自分たちは全く違う領域の人間に関わっているのではないのか?
「Who are you!」
ラズウェルは諦める気はなかった。
自ら名付けたチームネームWAM(White And Moon)の名に懸け白女と事件の真相を追い続ける覚悟を決めていた。
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