第543話 インガルズの焦燥

「どういうことだ!何が起きている!」

 領主館の本邸の玉座で叫ぶインガルズ。

「は、賊が侵入して離れからインリート様を」

「何!モンタール軍への備えで西側に配置を増やしたのが裏目に出たか。追手を出せ!」

「それが。西側からの軍勢が」

「何だと!トリアンの西の草原で対峙していたのではないのか?」

「は、そちらは早々に決着がついてしまったようです」

「なぜだ!」

「独立反対派がモンタール王国軍に寝返ったようです」

「何だと、どいつだ!そいつらの屋敷に兵を向かわせろ!」

「ですから、その余裕はございません。この領主館の西側にすでにモンタール軍が攻め上って来ております。いざとなれば脱出のご準備を!」



「まずいぞ。まずい」

 自室に戻ったインガルズは焦る。このままではモンタールに対して叛逆した首謀者として、簡単な死を迎えることすらできないだろう。

「こうなれば」

 自分がこっそり知っている秘密の抜け道に行くしかない。

「これだけは最後の手段と思っていたが」

 隠し持っていた服に着替えて、魔法の収納袋に色々なものを詰め込んで逃げ出す。


「インガルズ様!」

 自分を探しに来た者からも逃げる。味方として探しに来たのか、自分をモンタール軍に差し出すために捕まえに来たのか疑心暗鬼になっている。

 もう妻子のことを考える余力もない。

「とにかく逃げなくては。私が逃げ切れさえすれば、後からでも何とでもなるはずだ。一度は同盟を組んだビザリア神聖王国ならば匿ってくれるだろう。何としても北の国境まで逃げ切れば」

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