第541話 領主インリート2

「マルレーナ、すまない」

 インリートがゼバスターに背負われたまま妻に一言声をかけていく。

「ユリ、何とかなるよな?」

 使い魔シルヴィスによる警戒のことを指しているのだろうと理解し、シミリートの行動を否定できないユリアンネ。

「ま、そうね」


「な、何を!」

 今この場には、所詮は12歳のデレックと、腕力に自信はないユリアンネ、そしてインリートを背負ったゼバスターしか居ない。

「失礼します!文句は後で伺います」

 強引にシミリートがデレックの母、マルレーナを背負い駆け出す。

 ユリアンネがシルヴィスを先に飛ばして、来た通路を戻る。


「曲者!」

 離れとはいっても、侯爵家当主達の見張りの意味も含めてそれなりに人は居る。どうしても発見されずに移動はできなかったようである。

「私はインリートであるぞ!」

 領主であると名乗り背負っているのは賊ではなく自分の意思で移動している旨を宣言しようとするインリートであるが、インガルズの息がかかった者が配備されている場所である。

「曲者だ!侵入者だ!」

と叫びながら剣を抜いて走ってくる。


 経緯は置いておいて人を殺したくないユリアンネは≪氷壁≫≪石壁≫などを発動して、建物内の通路を塞ぐ。

「シミ!ユリ!」

 厨房付近でも何人かの家人を縛り付けていたフェルバー、ニキアス、マンファン、そしてジーモントと合流した6人は、離れの裏口から逃げ出す。

「このまま本邸に向かいます!」

 ゼバスターが再び走り出す。魔法の使い手が増えたことで、領主館のあちこちに魔法の壁ができていく。追手にはその炎の壁などがしっかり邪魔になっているようである。

「魔法使いがいるぞ!逃すな!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る