第532話 男爵への追い込み

「フスハイム子爵から謝罪とお詫びが届いているぞ。ユリアンネさんを子爵家のお付きの薬師へとの打診もあったが、おそらく断ると伝えてある」

 マンファン分隊長が昼頃にやって来て、シミリートに伝えている。

「え、金貨がこんなに?」

「名無しの方を預けていることも含めてなんじゃないの?」

「そうか。で、ユリ。お付きの薬師にはならないよな?」

「聞かないでよ。当然でしょ」

「一般的には、貴族お抱えの薬師になるって喜ぶものだろうに」

「マンファンさん、薬が欲しいというのならば、父ラルフの“木漏れ日の雫亭”を紹介してあげてくださいね」

「そうですね。わかりました」


「で、分隊長。男爵の方はどうなっているのでしょう?」

「あぁ、男爵の私兵とは言っても、証拠は本人達の言葉だけだからな。奴隷にしたから、何でも指示通りに話せてしまうので証言能力はないし。それのみで男爵を追求はできないが、どんどん男爵の戦力を減らしているのは確かだろう。裏商会も潰して行っているし。今回で魔法使いの手駒も減ったのだし」

「これからも、少しずつ対応するしか方法はないのですかね?」

「いや、名無しの君を預けているこの拠点まで知られて狙われたのだから、このままにしてはおけない」

「では?」


 王国魔術師団のフェルバー中隊長とニキアス副官のところに、再びシミリートが使者に遣わされる。

「そうですか、前の屋敷のときのように共同で裏組織の拠点を潰すのですね」

「はい。それで、独立派のNo2である男爵の力を削ぎます」

「承知しました。引き続き冒険者の体(てい)で稼がせていただきますか」

「上司に報酬のことを伝えておきますね」

 シミリートは笑いながらニキアスの冗談に答える。

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