第16話 宇治原くん、初めて一緒に登校する 2

「結婚した? 」

「お前達じゃあるまいし」


 愛莉あいりと一緒に学校へ向かった。

 愛莉が友達に挨拶する中、途中廊下でばったり出会ったトモに言われた第一声がこれだった。


 トモも連れて教室へ向かう。

 こうして愛莉の横を歩いていると彼女の交友関係の広さがよくわかる。

 明るく愛想の良い愛莉。

 彼女に友達が多い理由はこれだけではないと思うが、しかしこれも要因の一つだろう。

 全くもって俺とは真逆だ。


 愛莉が挨拶する中、時々俺を不審な人を見るような目線で見てくる同級生がいる。愛莉も特に俺を紹介することなくその目線を流しているのだが、それは仕方ないこと。

 何せ教室の空気マン。

 学年順位が張り出されても、一瞬だけ認知されてすぐに記憶から消え去るような存在感だから。

 そんなクラスの空気に話かける友人が一人。


「看病イベントは効いたようだね」

「おかげさまでな」


 サラっとした言葉でいらぬ気を回した友人に言い返す。

 突然愛莉を送り込んで混乱させやがってと思う一方で、嬉しい気持ちもあるため物理に訴えることができない。それにトモに手を上げたとなると彼を遠くから見守っている存在に何かされかねない。

 この微妙なラインの引き方に周りが見ている所で言う手口てぐち

 やっぱりこいつは厄介だ。


「部活大丈夫? 」

「この前辞めた」

「え? 本当?! 」


 そんなやり取りが聞こえてきた。

 愛莉は二日前に部活を止めていたはずだ。だけど友人には言ってない様子。

 どうしてだ、と思ったが「俺の看病に来ていたからか」と思いいたり複雑な気分になった。


 隣を悠々ゆうゆうと歩く友人の手により彼女は俺の所へ送られた。

 看病に来てくれたことはとてもありがたいし、素直に嬉しい。

 だがその一方で俺が彼女の足枷あしかせになってしまったのではないかと不安になる。


 つい最近までは会話すらほとんどしたことが無かった関係。

 今まで俺は女っが無かった。よって愛莉が隣にいるだけではなやかになる。それに一緒に登校して気付いたが、彼女が隣にいるだけで、温かいオーラのようなものを感じた。

 そんなわけで出来るのならば今後円滑えんかつな関係を続けていきたい。

 よって愛莉の足枷になるようなことは避けたいわけで。


「なに突っ立ってるの? 」


 愛莉が反転し俺に言う。

 顔を上げ彼女を見ると扉が映る。

 長い間考えてしまっていたようだ。


「今行く」


 愛莉が引いた扉をくぐり、俺は教室に足を踏み入れた。


 ★


「宇治原さんは結婚でもしましたか? 」

「何でお前達二人共同じことを言うんだ」

「あら、とも君も同じことを? 」

「そこで自分の彼氏の名前が出るのことが普通にすげぇ」

「このくらい普通だと思いますが……」


 遠藤さんの席を通り過ぎる時、彼女に引きめられた。

 文庫本を手にする文系女子に溜息をつきながら足を止めると、愛莉は遠藤さんに挨拶し、俺に別れを告げてクラスメイトの所へ挨拶に行った。

 元気よく行く彼女を見送りながらも、トモと同じことをいう遠藤さんに頬を引き攣らせる。同棲している間に考え方も似て来たのかと思っていると、遠藤さんの瞳が俺の隣に移った。


「やっぱりそう思うでしょう? 」


 トモの言葉に遠藤さんが答える。


「ええ。私達凡人ぼんじんには近寄りがたい雰囲気を感じます」

「遠藤さんも冗談を言うんだな」

「これでもコメディアンですよ? 」


 真顔で言う彼女に心の中で「嘘をつけ」と言う。


「二人共そういうがな……。俺と結婚なんて冗談でも言うんじゃない」

「「なんで? 」」

「あまりにも愛莉が不遇ふぐうじゃないか……」

「どこが? 」

「いやトモ。普通に考えて俺と組み合わされる彼女が不憫ふびんなのだが」

「それだと僕も不憫わくに入るんだけど」

「ただしトモは除く」

「普通に最低発言だ」


 今更、と軽く笑いながらも遠藤さんに「じゃぁ」と告げ、席に向かう。

 ガラッとトモが椅子を引くのを見ながらも教科書を机の中に入れる。


 愛莉の登場で教室の中が一気に騒がしくなるのを聞きつつ、朝練を終えた運動部がなだれ込んできて、朝のSHRが始まった。


 ———

 後書き


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