『虫の知らせ』(週刊●●より)
身内に不幸があると、その魂が別れを告げに来たという体験談はよく本誌にも寄せられる。例えば、Aさんの父親は突然の交通事故により、亡くなってしまったのだが、ちょうどその事故が起こった時刻に、Aさんの前に蝶がひらひらと現れたという。その蝶を見て、Aさんは直感的に「この蝶は普通の蝶ではない」と察したらしい。その後、母親からの電話で、父が亡くなったことを知ったそうだ。しかし、一方でBさんはまた別の奇妙な体験をしたという。
Bさんはマンションで一人暮らしをしており、ベランダでガーデニングをするのが趣味だった。しかし、その手の植物を育てるには必ず〝虫〟もセットで付いてくる。アブラムシ、カメムシ、アオムシ……虫が苦手な人から見たら、ゾッとする名前だろう。実際にBさんも大の虫嫌いであり、最初に見た時はガーデニング自体を辞めようかと悩んだほどだ。
しかし、現代ではそのような方々のために、防虫グッズが大量に出回っている。スプレータイプの薬剤や、虫除けネットなど、万全の対策を施せばかなりの効果は見込めるという。初心者の頃は害虫に悩まされていたBさんだったが、ある程度の経験を積むと、目に見えて虫の数が減り、快適なガーデニングライフを送っていたそうだ。
しかし――そんなある日、いつものように植物に水をやっていると、妙な虫が葉に止まっているのを発見した。
「すごく大きい毛虫でした。もう見るからに毒々しくて……絶対触れたらダメって本能的に分かるぐらいに」
そこにいたのは五、六センチ近くある巨大な毛虫だった。最初は虫に対して苦手意識があったBさんだったが、もうその頃には慣れもあり、大抵の虫には対処できた。だが――さすがにその毛虫を見た時は肝を冷やしたという。
「すぐにピンセットで掴んで、外に放り投げましたよ。あ、もちろん下に誰もいないのは確認しました」
幸いなことに、毛虫はその一匹のみであった。
先日までには一度も姿を現さなかったのに、突如として巨体を晒した毛虫に対して、少し疑問には思ったそうだが、見えにくい場所に隠れていたのかと納得し、すぐに忘れてしまったそうだ。
「その二、三日後くらいですかね。隣の部屋の人から教えてもらったんです。マンション内で自殺者が出たって。でも、その時はちょっと怖いなってぐらいで、気にも留めてなかったんですけど……一か月後、またあの毛虫が現れました」
一か月後、再び毛虫が姿を現した。
「うわぁ、まだいるよって思いました。昨日までは全然気配もなかったのに……」
不審に思いながら、Bさんは前回と同様に、ピンセットで毛虫を摘み、外に放り投げた。だが、その数日後――またしても、マンション住民の死の報せが舞い降りた。
「その数日後に、突然、警察の人がやってきたんです。何かあったのかなって思ったら……このマンションに住む女子高生が通り魔に殺されたって事件が起きたみたいで……その聞き込みをしてたんです」
同マンションに住む女子高生が通り魔に刺殺された。
この事件は実際に去年全国ニュースで報じられており、ご存じの方も多いはずだ。犯人は既に捕まっており、恋愛関係のトラブルの末に起こってしまったストーカー殺人だった。
「その事件を聞いて……思い出したんです。そういえば、前に自殺者が出た時も、毛虫がいたなって。この時はまだ偶然の一致っていうか、変なことが重なるなってくらいの認識でした。でも……」
更に一か月が経過し、通り魔殺人の事件を忘れかけていた頃にそれは起こった。
「また、毛虫が出たんです。しかも、今度は一匹じゃなくて、三匹が固まるようにいました」
交尾をするように絡み合いながら蠢く毛虫を見て、Bさんは鳥肌が立ったという。
「もう、私も怖くなっちゃって……その場にあるスコップで毛虫を掬って、遠くに投げたんです」
これ以上、何か起こるわけがない。ただの偶然。自分にそう言い聞かせていたBさんだが、その願いが届くことはなかった。
「翌日、隣の人から聞きました。上の階に住んでいる家族が全員交通事故で亡くなったって。それから毛虫を見ることはなくなったんですけど……あれは一体、なんだったのか、今でも時々思い出します」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます