『青い女』 補遺
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その後、この投稿に向けられたレスポンスに対して、投稿者は何度か返事をしている。中には投稿者の身を案ずるものも見られ、結果的に彼は友人たちと共に付近の寺へとお祓いに行くことを決めたそうだ。しかし、それから数か月先のスレッドを確認したのだが「青い女」の続報に関する情報は見られなかった。一体、投稿者はどうなってしまったのか。現在では確認できる手段はない。
また、彼が添付した祠の画像に対して、興味深い反応がいくつか見られる。
『あれ? ここの端になんか青いやついない?』
『俺も見える マジで震えが止まらん』
このように、同じスレッドにいた複数の人物が青い女が写りこんでいることを示唆する書き込みを行っていたのだ。しかし、これは単なる悪ふざけの可能性もあり、実際に添付された画像自体には何も写りこんでいないというのが当時のスレッドの流れから推測できる。
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以上が、インターネット上で伝えられている■■山の「青い女」の逸話だ。ここでいくつか、筆者が着目した点を挙げる。
・なぜ、女は青い服を着ていたのか。
タイトル通り、投稿者が■■山で遭遇した怪異は青い服を身に纏っていた。しかし、この〝青〟という色は怪談話にしては少々疑問を覚えてしまう色である。
考えてみてほしい。一般的に、この手の怪談で登場する女はどのような色の服を着ているのか……数秒で答えは出てくる。
そう、〝白〟か〝赤〟を思い浮かべた人が多いはずだ。
白に関してはやはり死装束のイメージが強いだろうか。令和になった現在でも、やはり白は死の象徴であり、幽霊のパーソナルカラーとして根強い人気を誇っている。
赤は白とは対照的な色ではあるが〝血〟を彷彿とさせられる。極限まで生物の死を目の前から遠ざけている現代人にとっては血の色自体が死を彷彿させられ、グロテスク的なイメージを抱いているのではないだろうか。
また、女性型の怪異というのはこれらの二色に当て嵌まっている可能性が非常に高い。白いワンピースや赤いコートに対して、どこか恐怖心を覚えるのは私だけではないはずだ。
では青い女はどうだろうか。江戸時代に描かれた絵巻の中には「青女房」という妖怪が描かれている。これは目を充血させたお歯黒の妖怪ではあるのだが、本来の言葉の意味としては若く、身分が低い女官のことを指している。つまり、青はパーソナルカラーではなく「青二才」や「青臭い」といった未熟の意味が込められているのだ。これらの事情を考慮すると、青女房と■■山の青い女はあまり関連があるとは言えないだろう。
・なぜ、祠の前で青い女は現れたのか。
本文では目的地である祠の前で、青い女が出現している。事前に懐中電灯の不具合があったが、このポイントが青い女にとって何か重要な要素があるという可能性は非常に高いと思われる。考えられる線としては青い女は■■山に祀られている神であり、無礼を働いた投稿者に対して怒りを露わにした……といったところだろうか。実際に、■■山の敷地内には神社が存在しており、パワースポットとしても名が知られていることから、祠と青い女の因果関係は否定できない要素である。
・青い女の顔に関する描写。
本文では青い女は顔に歪みがあり、虫が湧いていると描写されていた。顔の歪みに関しては人外の怪異ということもあり、不自然な点はない。しかし、虫については少し引っかかる。
体中に蛆が湧いている女の死者――これではまるで、日本神話に登場する「イザナミ」だ。
火の神カグツチを出産してしまったためにこの世を去り、黄泉の国の住民になってしまったイザナミ。彼女は黄泉の国では腐り果てた醜い姿になっており、夫であるイザナギはその姿を見て逃げ出してしまった。まさに、日本で最古の怪異と呼べる彼女の姿と青い女はどこか……似ているのではないだろうか。
・投稿者が撮影した写真。
結局、投稿者が撮影した写真には青い女は写っておらず、友人が見た錯覚ということになっている。しかし、彼らは直接山に行っておらず、あくまでメールのやり取りをしていただけである。つまり、青い女は遠隔でも何らかの認識障害を発生させる力を持っていると仮定していいだろう。
なぜ、霊的存在が電子機器を通して力を発揮できたのかは謎だが……この点に関しては近年の怪異にはよく見られ、標準的に備わっている能力であることから、あまり気にしない方が賢明だと言える。
さて、何となく青い女の全容が見え――るわけもなく、依然として謎は深まってしまった。一体、彼女は幽霊なのか、妖怪なのか、それとも神なのか。
次にご覧頂きたいのは再びインターネット上に立てられたスレッドの一つである。これは前述した「青い女」に関しての話題を雑談形式で当時の思い出を住人たちが語っている様子であり、最初の投稿された「青い女」の書き込みから数年が経過している。
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