おかしな依頼

第35話 中田幸平(なかた こうへい)

 とある小説の公募で、大賞なんてものを取ったのが、そもそもの間違いだった。

 生まれて初めて書いた小説が、何千という小説の頂点に輝いたのだ。勘違いしたって、仕方がないだろう。

 そう、私は自分が『天才』だと勘違いしてしまったのだ。

 たまたま書いた作品が、その年の小説の中で、他と違っていただけの話だったのに。そこに選考委員は、無責任にも『将来性』を感じたらしい。

 1作目は大賞を取ったこともあり、かなり売れた。だが、問題は2作目以降だ。

 1作目より2作目、2作目より3作目の方が売れず、返却本が多くなった。こうなると4作目など、出してくれるわけがない。


 持ち込んでもボツ、持ち込んでもボツ。

 それを1年ほどくり返すと、手持ちのお金がなくなった。そんなときに、某出版社の知り合いから、あるアイドルのエッセイを、本人の代わりに書いて欲しいと言われた。

 いわゆる『ゴーストライター』だ。

 本人に会って、2時間ほど雑談した内容を、私がエッセイにするという依頼だった。だが私は、そのアイドルの生まれ故郷や、訓練生時代に通っていた場所などを10日ほど取材し、それを元にアイドル本人らしくエッセイにした。

 単なるもの書きではなく、作家であるというプライドがそうさせたのだ。


 結果、発売月の本の売り上げトップ3に入るほど売れた。内容は、クソつまらないのに。

 やはり名前だけで、売れるヤツは売れる。

 なのに何を勘違いしたのか、私の元に『ゴーストライター』の依頼が、山のように来るようになった。

 アイドルだけではない。俳優、お笑い芸人、政治家なんてものもあった。

 私は食べていくために、本人と会って話をし、取材をして、その人物になりきり、エッセイを書いていった。

 エッセイは、どれもそこそこ好調だったが、いくら売れても私の名が有名になることはない。空しさだけが残る仕事だ。


 ゴーストライターをはじめて3年。そろそろこの仕事も、辞めどきだと思っていた先日。

 ある人物からの依頼が舞い込んで来た。

『ハナマル』という有名アイドルだ。

 といっても私が興味を持ったのは、そのアイドルではなく、彼女の依頼内容のほうだった。


河合真穂かわい まほという人物のエッセイを書いていただきたい。ただし、本人は意識不明のため、取材は不可』


 あの有名アイドルから、ゴーストライターへの依頼。しかも、依頼内容は他人のエッセイを書くこと。

 これで興味を持たない方が、どうかしている。

 以上の理由から、私はアイドルのハナマルと会うことになったわけだ。

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