流れ星

「ねぇ!見て流れ星」


 ライオンの少女が立ち止まり夜空を指差す。数歩後ろ歩いていたゾウの少女もその声を聞いて立ち止まった。

 見上げれば、夜空にきらりと流星が輝いた。


「本当だ、よく見つけたね」

「お願い事しよう!」

「うん!」


===


「全く、最近の若いのは根性が無い」


 太陽がすっかり落ちて、窓の外は都会の夜景が広がっている。広いオフィスにこの時間も残っているのはたった2人。中年のライオンの男はネクタイを緩めデスクの上置かれた辞表を忌々しそうに眺めた。


「部長が厳しすぎるんですよ」


 キツネの男が、ライオンの男に答える。


「俺ぐらいの男を厳しいなんて言っていたら、どこの会社でもやっていけないだろ?それにお前は俺の部下として十年働いているだろ、不満があるか?」

「まぁ僕は平気ですけど……ほどほどに優しくしないと若い子は残ってくれませんよ」

「何を言ってる。会社が成長するには、人を育てなくては意味がない。お前もまだまだだな」


 ハッハッハと笑ったその時、ライオンの男のスマホに着信が入った。


「妻からだ……全く、まだ俺が会社にいる時間なのはわかっているだろうに」

「奥さんなら出てあげたらどうですか?」


 キツネの男に言われて、ふぅっと息を吐いてライオンの男は電話に出る。


===


「娘は!」


 病室で横たわる娘に寄り添い啜り泣く妻の姿を見て、ライオンの男は駆け寄った。


「あなた……」

「どうして!なんで俺の娘が……こんな目に」

「大学の屋上から身を投げた人がこの子に落ちて……それで」

「なんだって?じゃあ投身自殺に巻き込まれて死んだっていうのか!?」


 妻は号泣し、それ以上まともに話せる状態じゃなかった。


「一体誰なんだ!俺の娘を殺した奴は!」


 男は怒り狂い、医者の静止を振り切り病院内を探し回った。警察が出入りしている病室を見つけて強引に部屋に入った。


「ここにいるんだな!俺の娘を殺したやつは!」

「お父さん、落ち着いてください!!ここは病室です、あとでゆっくりお話ししますから!」


 屋上から身を投げた男はまだ生きているらしい。身体には複数のチューブが繋がっている。


「お前が!」


 警察に抑え込まれながら憎たらしい相手の顔を見て男は愕然とした。ベッドに横たわるタヌキの男、年齢は三十代半ばくらいだろうか。


===


「部長、結局退職したのね」


 昼休みのオフィス、うさぎの事務員がキツネの男に声をかけた。


「まぁ、娘さん亡くなって大変だったし」

「ねぇねぇ、あなたなら詳しく知ってるでしょ?噂だと自殺未遂した男ってうちの元社員であなたの同期だったって話じゃない?大学も一緒だったんでしょ、ほらタヌキの」

「……」

「その元社員、部長のパワハラで辞めたってみんな言ってるわ」

「ふーん」


 うさぎの事務員は、訝しげに彼を見つめた。


「ねぇ本当に知らない?」

「……彼が辞めたのは十年も前の話だ。確かにその同期とは大学は一緒だったよ?でも学部が違う。彼が会社を辞めたあとどんな人生を送ったかなんて僕は知らないし、自殺未遂した人と同一人物かどうかもわからないよ」

「そっかー、みんな噂で持ちきりだったから」

「まぁ……噂は噂さ。君は意地悪なお局様になるなよ」


 茶化すようにいうキツネの男に対してうさぎの事務員はクスクスと笑った。


「やだ〜ならないわよ、お局様なんて」


 時計が午後1時を指す。


「さぁ、仕事の時間だ。今日は残業せずに帰ろう」


 キツネの男は独り言のように小さく呟いた。

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