もしも、明日の君が
伊蘇部ちせ
壁の絵
「祖母が殺されました」
大柄なサイの男が小さなスマホを眺めていた。SNSを見ていて『それ』はいきなり彼の目に飛び込んできた。長いこと見かけなかったイラストレーターの久しぶり投稿がこれだ。そのイラストレーターの描く女の子が可愛くて、絵柄や世界観が好きで男は5年前にイラストレーターをフォローした。SNSで無料で癒してもらえるんだ、金がない俺にはありがたい。当時はそんな風にとてもありがたく思っていた。最近は金回りがいいのでお金がかかる趣味も増えたが、唯一無二の世界観を表現するイラストレーターの事は今でも尊敬している。
文章には続きがあった。
「祖母が殺されました。警察沙汰にもなって、とてもイラストを投稿できるような精神状態ではなかったので、皆さんには一応説明をしておこうと思いました。
しばらく経ちますがまだ精神的に安定していません、だから創作活動を無期限で休止にしたいと思います。アカウントはしばらくしたら消します。
最後に、祖母は僕がイラストレーターになるきっかけをくれた人でした。とても大事で尊敬するおばあちゃんです。
僕が芸術大学にいくのも、祖母が応援してくれたからこそ両親を説得できました。
今も祖母の家に行くと壁一面に僕が子供の頃に書いた絵がずらっと貼ってあるんです。祖母は僕の一番最初のファンでした」
そこから下にも文章が続いていたが、サイの男はそれ以上読み進める事が出来なかった。
「……」
スマホを持つ手が震えていた。なぜこんなにも彼は動揺しているのか、それは彼が壁一面の子供の絵に見覚えがあったからだ。
小さな羊の老婆の悲鳴。
殺した時の感触。
壁一面に貼られた幼い子供が描いたであろう沢山の絵。
誰かを殺したのはその時が初めてだった。
SNSで儲かると募集していた仕事は強盗だった。一度殺してしまえば、二回目以降はただの仕事だ。同じことを繰り返すだけ。もうとっくに罪悪感なんていうものは何処かに捨てたつもりだったはずの男は青ざめていた。
ピーンポーン
呼び鈴がなる。
しかし彼の耳には届いていないのか、スマホの画面をじっと見つめて茫然としていた。
ピーンポーン
二度目の呼び鈴でようやく気がついたらしい。ヨロヨロと立ち上がって玄関のドアノブに手をかけたところでピタリと動きを止めた。
来訪者は誰だろう。
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