第2幕 最後の相棒

俺が1人酒を飲んでると、俺の隣に座ってきたやつがいた。


「小山警部補、お疲れ様です」

「またここで飲んでたんですか?」

俺の最後の相棒、白馬 ハクバ ツバサだ。

まだ若えのに、俺に組まされた災難な奴だ。

まあ俺からしたら、あの元相棒よりかは断然マシだがな。


「うるせぇ。俺の勝手だろ」


「まあ、そうですけど……」

「飲み過ぎも体に毒ですよ」


「は!逆に体壊して死にてぇぐらいだよ」


「またまた、そんなこと言って……」

「あっ!マスター。カシスウーロン1つ!」

女みてぇな酒飲みやがって……。

まあ一口呑んで、吐いてたあいつより飲めるだけいいか。


「どうぞ」

マスターが白馬にカシスウーロンを出す。


「ありがとうございます!」

白馬は馬鹿でかい声で礼を言って、一口飲んだ。

元気だけは取り柄だからな、こいつは。


「もう2年ですね。小山警部補が退職されて……」


「元警部補だ!何回言ったらわかんだ?」

「小山様か小山さんと呼べ!」

俺が現役の時も覚えが悪かったな。


「うーーん。様付けはなんか嫌なんで、さんでいいっすか?」


「相変わらず、クソ生意気なガキだな。」


「ガキは酷くないっすか?」

「俺も今年で30っすよ」

30か。

あのとき、あいつも……。


「どうしたんすか?」

「暗い顔して」

白馬が俺の顔を覗き込む。


「なんでもねぇよ、クソガキ」


「またクソガキって……」

「まあ、いいや」

白馬がクソ甘い酒を一口飲む。


「もう2年っすね」

「小山さんが退職されて」


「は!思い出したくないことばかりだがな」


「でも最後に捜査した、渋谷で起きたAI殺人事件も解決したし、嫌なことばかりじゃないっすよ」

2年前、俺が強引に捜査した事件だ。

周りが使い物にならんかったからな。


「あのクソ胸糞悪い事件だろ?」

「最後の最後で最悪の事件だった」

あれからしばらく酒浸りの日々だったからな。


「まあ12年前の事件よりマシじゃないっすか?」

「小山さんの元相棒が共犯だった事件……」

「当時高校生だった俺らの間では、有名でしたよ」

こいつはほんとに、遠慮ってもんをしらねぇな。


「余計なことを思い出させんじゃねえ、アホ」

俺はグラスに入った、ジャックダニエルを一気に飲み干す。


「ちょ、ちょっと」

「一気はダメですって」


「馬鹿野郎!」

「てめぇが余計なこと思い出させるからだ!」


「まあまあ。でもよかったじゃないっすか」


「何がだ?」


「小山さん、よく言ってたでしょ」

「後々、犯人になるなよって」

「最後の相棒が俺でよかったっすね!」

白馬が満面の笑みを見せる。

ほんとにこいつは……。

ムカつくとこはあるが、今までの相棒にはいなかったタイプだ。

純粋なほど馬鹿というのも可愛いもんだ。

俺も歳のせいか、落ち着いちまったもんだ。


「あれ?どしたんですか?」

「顔が笑ってますよ?」

白馬がニヤニヤしながら俺の顔をみる。


「う、うるせぇ!思い出し笑いしちまっただけだ!」

顔に出ちまってたか。


「えー。何思い出してたんすか?」

「教えてくださいよ?」


「教えねぇよ。クソガキ」

「マスター!ジャックダニエルロックもう一杯!」


「まだ飲むんすか〜。じゃあ俺もカシスウーロンもう一杯!」

「今日はとことん付き合いますよ」


「しらねぇぞ。まだ月曜日だろ?」

「明日の仕事に響いてもしらねぇぞ」

多少は飲めるが、そこまで酒は強くねぇからな。


「いいっすよ。明日のことは明日考えます」

「久々に元上司との飲み、最高じゃないっすか!」


「ふん!途中で寝ちまうんじゃねぇぞ?」

「寝たら置いてくからな」


「大丈夫っすよ!」

「ガンガン飲んでいきましょう!」

ふっ……。ほんとにクソガキだな。


「どうぞ。」

マスターがジャックダニエルのロックとカシスウーロンを出す。


「あんがと。マスター」


「ありがとうございます!」

白馬がまた馬鹿でかい声を出す。


「ウルセェ!他の客に迷惑だろ」

俺は白馬の頭を軽く叩く。


「あっ…。すみません、すみません」

白馬がぺこりと頭を下げる。

そして俺らは話をした。

俺らが相棒のときの話をしたり、今どうしてるかも聞いた。


なんだかんだで上手くやってるみたいだ。

お前は俺みたいになるんじゃねぇぞって言ってやりたいが、恥ずかしくてそんなもん言えるか!

まあ影ながら、応援ぐらいはしといてやる。

俺にできることなんてそれぐらいだからな。

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