第19話 平和的初対面
望月先輩と曲を作ることになって、あれこれ、と曲の構想を練っている内に、年が明けてしまった。もう、お正月ムードも過ぎ去って、一月五日だ。
明日には、冬休みも終わって、学校も始まってしまう。
今日まで、奏さんと会うこともなく――もちろん初詣にも行かず――、音楽理論の勉強に集中した。
望月先輩と一緒に曲を作るからには、俺も本気でやらなければならない。
奏さんの方は、というと、こっちが拍子抜けしてしまうほど、音楽活動のことになると、いいよ、と二つ返事で承諾してくれる。
本当にいいのだろうか、と不安な気持ちがあるけれども、今は、奏さんに甘えるしかない。
『私のことは、いいから! 頑張ってね!』
奏さんから届いているメッセージを見て、ごめん、と呟く。
そして、奏さんに返信して、スマホを机に置く。代わりにオーディオインターフェースに接続されたギターを手に取る。
「よし、カッコいい曲、作って、二月のライブで奏さんにいいとこを見せよう!」
それが、今、俺のことを応援してくれている奏さんに俺が唯一できる報い方だった。
三学期初日の学校は、始業式とロングホームルームだけだったので、すぐ終わった。
俊樹、健と、帰り支度(スタジオ練習に向かう支度)をしていると――。
「北野君、可愛い彼女さんがお迎えに来てるよ」
そう、クラスメートの女の子に声をかけられたので、教室の出入口の方を見た。
「海里くん!」
「奏さん!?」
俺は、『学校終わったらすぐにスタジオに向かうから、会えそうにない』――と連絡をすでに入れていたため、不思議に思いながら奏さんの方へと向かう。
「教室に顔を出すなんて、珍しいね。どうしたの?」
「少しでもいいから、会いたくて……。来ちゃった」
えへへ、と笑う、奏さん。
そんな彼女を見て、俺は、心が少し痛むのを感じた。
「そっか……。最近、電話とかもできてなくて、ほんとにごめん!」
「ううん、海里くんが頑張ってるの知ってるから!」
「奏さん……」
微笑みを絶やさず、俺のことを見てくる奏さんを見て、心の底から、この子と付き合ってよかった、と思った。
その瞬間だった――。
廊下がどよめき始めた。
そのどよめきに何事かと、廊下をドアから顔を出して見渡すと。
望月先輩がこちらに向かって歩いてきていた。
そして、俺のことを見つけたみたいで、ニコニコとしながら手を振ってきた。
いやいやいやいや……。
こんな人目のあるところで、明らかに誰が見てもわかるように俺に手を振らないでほしい。
廊下にいる生徒たちに、困惑の視線を無数に送られている。
それに、奏さんが、俺の想像通りの人ならば……。
そんなことを考えてしまい、悪寒が背中に走って、身震いする。
「やあ、海里くん」
「こ、こんにちは……」
冷や汗をかきながら、望月先輩に挨拶をする。
「これから、スタジオ練習だ、と聞いたんだけど、ご一緒してもいいかな……?」
「ええっと……。俊樹と健にも訊いてみます」
自分の席の方を振り返って見ると、俊樹が呆れた様子で、肩を竦ませていた。
「よろしく頼むよ! それは、そうと……」
先輩がそう言って、奏さんへと目を向けた。
同時に、俺の心臓が、どくん、と一回大きく脈打った。
「君が、海里くんの……」
「彼女の西野奏です!」
望月先輩が全て言い終える前に、奏さんは、応えた。そして、ぺこり、と頭を下げる。
「望月紫音だ。海里くんから、聞いてるとは思うけど、一緒に曲を作ることになったんだ。今後、顔を合わせることが増えると思うから、よろしく」
「こちらこそ! 私、実は、先輩のファンで!」
奏さんが目を輝かせながら、望月先輩に握手を求める。
思っていた反応と違い過ぎて、俺は、ただその様子を見ていることしかできなかった。
「本当かい? それは、嬉しいな」
笑顔を浮かべて、望月先輩が、握手に応じる。
「先輩が出してた動画は、全部見てるくらいには、好きで! 海里くん共々、仲良くしてくれると嬉しいです!」
「奏ちゃん……! こちらこそ、仲良くさせてね!」
「はい!」
こうして、二人の初対面は、俺の予想に反して、平和的に終わった。
でも。
どうしてだろう。
奏さんの笑顔が、どうも、俺の知っているものと違う気がしてまうのは。
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