第7話『新たな住民と、双子猫』
……多くの島民にとって、夏は稼ぎどきだ。
普段は漁師をやっている人が、夏の間だけお店を出したり、民宿を始めた……なんて話は、この島ではよくあること。
普段からカフェを営んでいるうちと客の取り合いにならないのは、それだけ夏の間は客足が見込めるというわけで。
「アイスティーとアイスコーヒー、おまたせしましたー!」
「すみませーん、タコ飯二人前。あと、かき氷も」
「はいはーい! かき氷は何味にしましょうかー?」
……こんな感じに、しまねこカフェもお昼前から大賑わいだった。
おじーちゃんは追加のタコ飯を作っているので、その間はあたしとヒナ、そして猫たちだけでカフェを切り盛りしていた。
どうしても提供に時間がかかってしまうけど、猫たちがお客さんの相手をしてくれることで、なんとかなっていた。
「ふへぇ……」
必死に注文をさばき続け、気づけば16時過ぎ。ようやくお客さんが途絶える。
おじーちゃんが追加で用意したタコ飯もほぼ完売し、かき氷用の氷も底をついた。
夏休み、恐るべし……なんて考えながら、あたしはヒナと和室の畳の上にひっくり返っていた。
「いやー、今日もすごかったネ。お疲れー」
「ふたりとも、大丈夫ー?」
疲れ果てたあたしたちを、ネネとココアが心配してくれる。
「並大抵のお疲れじゃないわよ……おじーちゃんも追加のタコ飯を持ってきたと思ったら、どこか行っちゃうしさ。また
「……それは違うと思うよ。彼は今日、本土に用事ででかけているとミナが言っていた」
天井に向かって言葉を吐いていると、どこからともなくトリコさんがやってきて、そう教えてくれた。
「そうなのねー。あの子、最近外に出てる? 島猫たちと仲良くやってるか心配でさ」
「建物の敷地内で見かける程度。こちらから声をかければ会話くらいするけど、あの感じだと、他の島猫たちと積極的な交流はしていないと思う」
顔だけを横に向けて、トリコさんとそんな会話をする。
ミナは青柳さんの飼い猫なんだけど、借りてきた猫……なんて言葉がある通り、島にやってきてからは引きこもり気味だ。なんとかしてあげたいけど……。
「あのー、すみませーん」
「はいはいー。いらっしゃいませー」
その時、カフェの入口から声がして、あたしはその身を起こす。そこには二人の女性の姿があった。
「島猫ツアー、お願いできますかー? さくら荘さんから、ここでやってると聞いてきたんですー」
「いいですよー。どこからご案内しましょうか」
営業スマイルを浮かべながら、あたしは二人のもとへと近づいていく。
ちなみに島猫ツアーとは、しまねこカフェが行っているサービスで、猫たちがいそうな島内のスポットを巡り、島猫たちと戯れてもらうのが目的だ。
今の時期は暑いので、猫たちが本格的に動き出すのは夕方になってから。彼女たちも、きっとその情報を仕入れてきたのだろう。
「ヒナ、ちょっと行ってくるわねー。カフェは無人開放にしておくから、ゆっくり休んでて」
身を起こそうとしたヒナにそう伝え、『現在無人開放中。ご自由におくつろぎください』と書かれた看板をデッキに置く。
それから女性たちを連れ立って、あたしは島猫ツアーに出発した。
◇
カフェを出て、石垣に囲まれた細い路地を神社方面へ。そこで神社三兄弟と戯れてもらったあと、漁港へ向かうなだらかな坂を降りていく。
「あ、黒猫ちゃんがいるー」
「かわいいー」
「
一応そう説明するも、彼女たちはあたしの話なんて聞いちゃいない。自前のちょ~るを取り出して、二匹の猫に夢中になっていた。
「あ、また黒猫ちゃんが来たー」
その微笑ましい光景を眺めていた時、どこからか二匹の猫がやってきた。
双子猫のようにそっくりで、トテトテと女性二人に近づいていく。
「どっちも子猫? かわいいー」
「この子たちにも名前があるんですかー?」
「えっと、この子たちはですねー……」
尋ねられて、あたしは言葉に詰まる。どちらも初めて見る子たちで、名前がわからない。
まさか、この場で直接聞くわけにもいかないし。
「その子たちは、クロとスズだよー」
足元にすり寄ってきた子の背中を撫でながら悩んでいると、背後から声がした。
思わず振り返ると、そこには小学校低学年くらいの少女が並んで立っていた。どちらも明るい髪色のショートカットで、瞳の色がわずかに違う程度。どうやら双子のようだ。
「あなたたち、観光客?」
「違うよー。
「昨日、引っ越してきたのー」
二人は全く同じ動作で左右に揺れながら、嬉しそうに言う。
昨日引っ越してきたばかりだというのなら、知らないのも納得だった。
「じゃあ、この黒猫たちは……?」
「真鈴たちのネコだよー。この子たちも双子なの。おいでー」
そう言いながら、足元に寄ってきた黒猫たちをそれぞれ抱きかかえる。
彼女たちは服装も同じなので、まるで鏡を見ているような、不思議な気分になった。
「おかーさん猫もいるんだけど、ほーにんしゅぎなの」
「そー、ほーにんしゅぎ」
彼女たちは顔を見合わせてクスクスと笑いあったかと思うと、そのまま近くの路地へと消えていった。
夏は人の出入りが激しい時期だけど、島に新しい住民が来ていたなんて知らなかった。
しまねこカフェに戻ったら、おじーちゃんに話を聞いてみよう……そう考えながら、あたしは島猫ツアーを再開したのだった。
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