第16話 後日談

 あの卒業式の日から一ヶ月が経った。


 今日はイライザとアンソニーが正式に婚約を結ぶ日だ。ヘンリーが罪人となったことにより、当然ながらイライザとヘンリーの婚約は解消されていた。


 ドレスアップして王宮に赴いたイライザを正装姿のアンソニーが出迎える。


「綺麗だよイライザ。僕は幸せ者だ。こんな素敵なレディと結婚できるんだから」


「ありがとうございます。アンソニー様も素敵ですよ。幸せ者は私の方です」


 イライザは頬を赤らめながら微笑んだ。


「さぁ行こうか、婚約者殿」


「はい、婚約者様」


 イライザはアンソニーが差し出した手を取って一緒に歩き始めた。


「ところでイライザ、こんなおめでたい日に言うのもなんなんだが、本当にアレで良かったのかい?」


 アンソニーの言う「アレ」とはエミリアとヘンリー、そして取り巻き共を含めた罪人達の処罰に関してである。


 国王、そしてアンソニー含む王家の連中は皆一様に厳罰に処するつもりでいた。王家のスキャンダルでイメージダウンした民意をこれ以上下げないため、ケジメとしての公開処刑を課そうとしていた。


 民衆の前で行うことにより、自浄効果としてのイメージアップを図る狙いがあった。つまり例え王族といえど、罪を犯せば罰せられるということを民衆にアピールしたかったのだ。


 そこに待ったを掛けたのがイライザだった。彼女はこう主張した。


「断頭台で一瞬にして終わる刑罰よりも、生かして自分の犯した罪を贖わさせるべき。男共は死ぬまで鉱山労働に従事させ、女は死ぬまで修道院に閉じ込めておく。これが妥当と思われる」


 当事者である彼女の一言は重く、また説得力もあった。結局彼女の希望が通り刑が確定したのだった。


「甘い...と思われますか?」


「いいや、僕は君の意見を尊重するよ」


「ありがとうございます」

 

 実の所、イライザ自身があの悪夢の中で何度も見た断頭台を、もう二度と見たくなかったからというのが本音だったりする。


 もう一度見たらまた悪夢に魘されるかも知れない。ようやくあの悪夢から解放されてホッとしている所なのだ。ぶり返したくない。


 そんな思いをそっと胸に秘めて、イライザはアンソニーにピッタリと寄り添った。

 

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