第3話

「ということですのでヘンリー様、私達はこれで失礼しますわ。あなた達、行くわよ?」


 そう言って令嬢達を促し、イライザはこの場を後にしようとする。


「あぁ、その...イライザ...ご苦労だった...」


 ヘンリーはそう言うしかなかった。


「生徒会長として当然のことをしたまでですわ。ではご機嫌よう」


 去って行くイライザの背中を睨み付けながら、エミリアはヘンリーに愚痴を溢す。


「もう! ヘンリー様! 駆け付けて来るのが遅いですよ!」


「いや、そう言われてもだな...いきなりイライザが現れたもんで出番を逸したというか...そもそもなんでイライザがここに来たんだよ? お前の話と違うじゃないか?」


「そんなの私だって分かりませんよ! この場面は私があの虐めっ子連中に頬を張られて倒れ込んだ所を、颯爽と現れたヘンリー様が助け起こすってイベントの一部だったんですから! そして虐めっ子連中は罪を逃れるために、イライザに指示を下されてやったんだってってウソを吐く所までが1セットになってるんですよ! これじゃあイベント回収できないじゃないですか!」


「いやだから俺に言われても...そもそもそのイベントってなんなんだよ?」


 イライラしているエミリアに困惑したヘンリーは、取り敢えず意味不明な言葉を聞いてみることにした。


「ヘンリー様は知らなくても良いことです。この世界の理だとでも思っていて下さい」


「なんじゃそりゃ...」


 ヘンリーには意味不明な言葉を聞いて分かる通り、エミリアは転生者である。この世界は前世で彼女がプレイしていた大好きな乙女ゲームの世界そのものなのだ。


 自分がこの乙女ゲームの世界に転生したこと、しかもヒロインに生まれ変わったことに気付いたエミリアは狂喜した。神に感謝した。


 エミリアが10歳の頃である。お転婆だったエミリアは、木登りしていた木から滑り落ちて頭を打った。その時、前世の記憶が甦ったのだ。


 そこからはもう人生勝ち組とばかりに、王立学園へ入学する日が来るのを心待ちにしていた。


 そして入学するや否や、直ぐ様ヘンリーを籠絡し順調な攻略生活をスタートした...までは良かったのだが、それ以降攻略が一向に進まない。


 さっきのようにイベントが悉く失敗に終わるのだ。そもそもゲームの世界では、嫉妬に駆られ自分を虐めに来るはずの悪役令嬢イライザが全く虐めて来ない。全くもって悪役令嬢らしく振る舞ったりしないのだ。


「もしかしたら彼女も転生者なのかしら.. 」


 ゲームのシナリオ通りに動かない悪役令嬢に、思わずイライザは独り言ちた。そんなエミリアをヘンリーは怪訝な表情を浮かべて見詰めていた。


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