処刑される未来をなんとか回避したい公爵令嬢と、その公爵令嬢を絶対に処刑したい男爵令嬢のお話

真理亜

第1話

 その令嬢が手枷足枷に目隠しまでされて連れて来られたのは、処刑広場のど真ん中に立つ断頭台の真ん前だった。


 今から公開処刑が行われるのだ。


「殺せ殺せ殺せぇ!」


「毒婦に正義の鉄槌を!」


「死ね死ね死ねぇ~!」


 処刑広場前に集まった民衆から怒号が響く。中には令嬢に向かって石を投げ付ける者まで居る。


 やがて、自分の父親である元国王と兄である元王太子を弑虐し、新たな国王の座に就いた元第二王子のヘンリーが、物見台の上から高らかに宣言する。


「諸君! 今からこの元公爵令嬢イライザを斬首の刑に処す! 罪名は我が王妃エミリアを害そうとした罪だ! しかとその目で刮目せよ!」


 今から処刑される運命のイライザは、このヘンリーの元婚約者であった。


 広場に集まった民衆から盛んに声援が飛ぶ。


「新国王万歳! 新王国万歳!」


 ヘンリーは愉悦を浮かべた表情のまま鷹揚に頷く。その隣にはこちらも新たな王妃となったエミリアが、妖艶な表情を浮かべながら微笑んでいる

 

 その時、目隠しを外されたイライザの怒りは頂点に達した。毒婦だと? 王妃を害そうとしただと? 全く身に覚えの無い冤罪を着せられたまま死んで堪るか!


「ふっざけんなぁ! 私はなにもやってない! みんなそこに居る淫売が仕組んだことだぁ! お前ら全員騙されてる! いい加減目を覚ませぇ~!」


 イライザは力の限り抵抗した。めっちゃ暴れた。


「こ、この! 大人しくしろ!」


 だが結局は屈強な男達に押さえ付けられ、断頭台に括り付けられてしまった。


「こんな蛮行が行われていいはずがない! 止めるんだ! 今ならまだ間に合う! 人の心を取り戻せ!」


「黙らんか! あれを見ろ!」


 ヘンリーが指差す先には、両手足を鎖付きの手枷足枷で拘束されたイライザの両親が、兵士から剣を突き付けられていた。


「お父様! お母様!」


「イライザ~!」「娘を放して~!」


「貴様より先にあいつらを始末してやってもいいんだぞ!」


 ヘンリーが嘲笑いながらそう告げる。イライザはギリリと音がするほど歯を噛み締めながら、


「くそぉっ! これが貴様のやり方か! 貴様に人としての誇りはないのか! 呪ってやる! 末代まで呪ってやるからなぁ~! 覚悟しろぉ~! 貴様と王家に災いあれぇ~!」


 血を吐くような呪詛を声の限りに叫んだ。これにはさすがにヘンリーも動揺したようで、


「な、なにをやっている! さ、さっさと処刑しないか!」


 と焦ったように指示を下す。すると処刑係がギロチンの刃を繋いでいるロープを剣で斬った。


 鋭い刃がイライザの首元に迫る。



◇◇◇



「ハッ!? ゆ、夢!? ま、またあの夢か...」


 イライザは枕元の時計に目を向ける。まだ深夜の2時だ。夢に魘されて起きてしまったようだ。ネグリジェが寝汗でびっしょりと濡れている。


 何度見ても慣れることのない自分が殺される夢。明晰夢あるいは予知夢とも言われる夢。


 イライザは、子供の時から何度も見せられたこの夢の未来を回避するべく今まで生きて来た。


 そう、イライザには夢という形で未来を予知する能力があったのだ。

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