第3話 妹たち

「ちょっと、お父様の話って何だったのよ」


「…私が王都の屋敷に行く話よ」


「はぁ?なんであんたが王都に呼ばれるのよ!」


この屋敷ではいらないもの扱いの私がお父様に呼ばれた上に、

私だけ王都の屋敷に行くというのだから騒ぎ出すのも無理はない。

だから、この家を継ぐとか婿取りなどと言い出したら、

何を言われるかわからないと思い黙っておくことにした。

必要ならばお父様が話すだろう。


「理由はわからないわ。

 でも、どっちにしても学園に入る時は王都に行くのだから。

 カミーユもそのうち王都に行くことになるわよ」


「ふんっ。お姉さまのくせに王都に行くとか生意気なのよ!

 お母様に止めてもらうからいいわ!」


お母様に止められるようなことなんだろうか。

お父様がお母様の言うことに従うとは思えない。

どちらかといえばお母様はお父様に逆らえないような気がしている。

カミーユが何を言っても変わらないだろうと思い準備を進めることにした。


三姉妹で一番できがいいのが私だから継がせるという話だったが、

それはそうだろうと思う。


カミーユもセリーヌも勉強が嫌いだ。

貴族として必要な礼儀作法の時間すら真面目にやらない。

お茶とお菓子、新しい服のことばかり話している。

買い物が好きで、いくらでも服を欲しがるけれど、

そのお金がどこから出ているのかは興味が無いらしい。

あの二人が領主になった日には、伯爵家はつぶれてしまうに違いない。


カミーユが出て行って少しだけほっとしたのもつかの間、

代わりにセリーヌが部屋に入ってくる。


こちらも新しい服を着ている。カミーユが着ていたものと一緒だった。

おそろいで購入したのだろうが、いくらかかったのだろう。

既製品でおそろいの服など売っているはずがない。

わざわざ仕立てたのであれば、かなりの値段になるはずだ。


「出て行くって本当なのね?

 …その醜い姿を見なくなるのならうれしいわ」


にやりと笑いながら告げられたことに唖然とする。

王都に行くのが生意気だから止めると言ったカミーユと、

醜い姿を見たくないから私がいなくなるのがうれしいと言ったセリーヌ。

二人とは一度も姉妹らしい会話をしたことがない。

もしこれが義理の妹だとか、異母妹だとかならまだ救われるのに。


実母から厭われ、実妹たちから見下される。

こんな日々と別れられるのなら、喜んで王都に行く。

侍女も乳母も連れて行くことを認めてもらえず、お父様の乗る馬車に乗った。

馬車の中でもお父様は仕事をしているようで、ずっと書類を見ていた。

私はいない者のように扱われていたが、そんなことは慣れている。

これからの生活を考えるとうきうきした気持ちを抑えきれなかった。



王都の屋敷の使用人たちは初めて会うが、特に優しくも冷たくもなかった。

仕事として接している風に感じられたが、何も問題はない。


領主になるための勉強は厳しいものだったが、

少しずつ理解していくのは面白かった。

一年もすれば領主の仕事を手伝えるようになり、

いつの間にかほとんどの仕事を私がするようになっていた。


忙しくて大変だと思うことはあっても、屋敷にはお母様がいない。

何かにつけて馬鹿にしてくる妹たちもいない。

王宮の法務室に勤めるお父様は王宮に部屋を持っているため、

二か月に一度帰って来ればいいほうだった。


家族に会わずに暮らせる日々はとても自由で、

毎月入ってくる税収から半分を領地にある屋敷の家令に送り、

残りはこの屋敷を維持するために使うことになっていた。

その中には私の生活にかかるものも含まれていたため、

新しい服や靴を買うこともできた。

これで短くなった服を着て、ひざを曲げなくてもよくなった。


それでもカツラと眼鏡を離すことはできなかった。

王都に出てくる日、お母様から手紙を渡されていた。

手紙には絶対に人前でカツラと眼鏡を外さないようにと書かれていた。

お母様の言いつけを守れなければ領地に連れて帰られるかもしれないと、

成長するのに合わせてカツラと眼鏡も買い直した。


カツラと眼鏡が邪魔で前が見えにくいけれど、我慢できないほどではない。

領地に戻されてお母様に会うことに比べたら、なんていうこともない。


屋敷の中でもカツラを外すことなく過ごしていたが、

侍女たちは私の姿について何も言わないでくれている。

ただ、寝ている間にカツラが綺麗に整えられているのに気がついて、

この屋敷の侍女は悪くないと感じていた。


そうして迎えた十五歳。

もうすぐ学園に入学するという時期になって、私に婚約者ができることになった。

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